男は下心を押さえつけて、こう言った。
「君のような子供を泊めるのに、わけもきかずにっていうわけにいかないだろう。家の人は知っているのかい」
「・・・僕には、僕には家族なんていないよ! 帰るとこないんだよ!」
そういって少年は泣き始めたという。「せつなくて、せつなくて抱きしめたかった」と彼は書いている。少年は家でまた親と喧嘩して飛びだしてきたんだ。
「わかった。今日だけ泊まっていくといい。明日はちゃんと家に帰って、学校にも行くんだよ」
良識ある大人を演じる男の本心を知るはずもなく、少年は見る間に笑顔になってうなずいた。その日、シャツとパンツ一つになった少年は男と一つのベッドに寝た。欲望を抑えきれずに、男は眠りに落ちた少年のパンツの中の性器を遠慮がちに弄んだそうだ。
一緒にシャワーを浴び、抱き合い、軽い口づけをかわし、男は見る間に少年を手なずけていった。写真を撮り、「君がかわいくてたまらない」「君のような子が僕の子どもだったらいいのに」という殺し文句に、少年の心はとろけていった。「僕、おじさんの子どもになりたいよ」と言って抱きついてくるんだって。セックスでさえ、彼はほとんど抵抗なく受け入れたという。バックに男のものを受け入れながら、苦しみとも快感ともとれない顔で、「おじさん気持ちいい? 気持ちいい?」ってききながら腰を揺さぶったそうだ。「そのあまりの健気さが、わしの嗜虐心に火をつけた」と男は書いている。
初めてロープを持ち出したとき、少年はかすかな怯えを浮かべて、男に聞いた。「それ、何するの」と。「これを使うともっと気持ちいいんだよ」と言って、男は少年の両手首を縛った。だがこれは、少年の思わぬ反発を食らった。「どうしてこんなことするの? おじさんは違うって、いい人だって思ってたのに!」。実は、少年の反応には理由があった。彼の継父が、折檻と称して、両手を縛って彼の尻を棒で殴ったりしていたらしいんだな。その日は、少年は泣きながら飛びだしていってしまったが、翌日、やはり少年は家にやって来た。
「あんなこと、もうしないでよ。お願い」少年は哀願したという。だが、男は冷たく黙って立っていた。「僕のこと、嫌いになっちゃう?」。なおも、男は残忍に黙っていた。「・・・いいよ、僕。おじさんの好きなようにしてよ。だけど・・・」。男は言った「君のことが大好きだって言うのは変わらないよ」と。「それは全くの本心だった」と彼は書いている。その日、男は少年の体を思う存分にむさぼり、縛り、責めた。少年は泣きながら耐えていた。もう男と少年が快楽を共にすることはなかった。ひたすらに男は少年の肉体も精神も虐め抜いて、快楽を得ていた。吊りやベルトによる鞭打ちなど、攻めはエスカレートしていき、少年の心は体以上にボロボロになった。
ある時、少年は男を河原に呼びだし、言ったという。「僕もう耐えられない。おじさん、ごめんなさい。僕もう、おじさんのことが分からない。もう、会わないことにしたいんだ」。別れ話だ、と男は思ったと手記に残している。もはや男は正体に近いものを表していた。「・・・おじさんの愛が分かってもらえなくて残念だ。だけど、きみの言うとおりにした方がいいのかも知れない。ただ・・・」男は言った。「最後に君を思う存分抱きたい。君にもいい思いをさせてあげるから・・・」。少年は、悲しそうだったという。だけど、うなずいた。夕闇せまる河原で少年の殻を一枚一枚引き剥がし、全裸にする。そして、いつにない厳しさで手足をロープで縛り、猿ぐつわをかませて、力一杯少年自身のベルトで打ちすえた。目を閉じて涙を流し、おそらく唇を噛んで耐えている少年と最後の性交に及んだ。朝焼けが近かった。いつの間にか二人は水辺に近づいていたが、男は興奮状態のまま少年の頭を力一杯水の中に押し込んだ。少年は暴れた。いつの間にか猿ぐつわも手の縄も取れて、いよいよ暴れる少年の頭を執拗に水に沈めた。何度めかに頭が上がったとき、「苦しいよ、おじさん」という言葉があえぎと共に聞き取れたという。やがて少年は男の腕の中で動かなくなった。
男は捕まることなど問題にしていなかったという。「どうせいつかは終わる人生さ。あんな素晴らしい少年を俺だけのものにできたんだ。地獄へでもどこへでも行ってやる。ただ、これだけは確かだ。俺ほどあの子を愛した人間はいない。誰も信じなくても、それは本当だ」。これは、男の取調室での述懐だ。
私もあの子を愛した。あの哀しい少年を。生きている誰よりも。その気持ちをあの男と比べることに、意味があろうとは思わない。