[0]Back
ゲームがいっぱい。大画面のTV。一人で住んでるのに、ものすごく広い部屋。何かうちが貧乏だってあらためて認識してちょっとウツな気分になった。けど楽しかった。あっと言う間に一時間ぐらい経ったと思う。
何より幸せだったのは、実はゲームでもお菓子でもでかいTVでもなくて、大きなクッションで思い切りだらだらできることだった。ゲームやってたりする間、けっこうバタバタおやつ持ってきたり部屋片付けたりしてた‘あいつ’が、俺が休憩つって丸いクッションに寝ころんでたら、そっと横に座って、俺の髪を触りはじめた。それから頬に。俺はうとうとしてるふりをしてた。空気が変わった。
何も聞こえない。シャツの上をあいつの手が這い回って、それは明らかに、他人に見せられない風景だ。違法でもなんでもないだろうけどね、ここらへんまでは。
「ぬいぐるみみたいだな」
「僕?」
俺の一人称は‘俺’じゃなかったのか? これ以来‘あいつ’の前では、僕は僕。
「……あの、さっきの子も一人で来たんですか?」
「そうだよ」
僕の聞きたいのはほんとはそんなことじゃない。けど直接的には言えやしない。‘あいつ’も聞きたいことがわかってても、答えない。
シャツの上を這ってた‘あいつ’の手が、ズボンの中に入ってきた。僕は‘あいつ’の腕を握って、そして間近にある‘あいつ’の顔を見上げたけど、顎しか見えない。絶対目を合わすようなことはしない。
さっきの子にもこんなことしたの? いや、してるの? どういう関係なの?
‘あいつ’が、ズボン脱がした。パンツも下ろした。勃起してる。恥ずかしい。僕は目を閉じて寝たふりする。‘あいつ’の膝はあったかかった。外に出れば寒い。家に帰れば窮屈だった。だらだらしてるとこなんか、お母さんにも弟にも見せられないから。ここにいる間、僕は‘あいつ’のぬいぐるみでいい、おもちゃで構わない。すきなように遊ばれて、だっこされる。
生温い感触に僕は思わず目を開いた。
‘あいつ’の唇が、僕のを包んでいた。僕の知らない世界。やばい世界。俺は、お母さんが全く知らないところで、歳のわりにはけっこうエロかった。いろいろ知ってた。エロ本もたくさん、家でも学校でもない場所に隠して持ってた。けど今から思えば偏った耳年増だったかも。
‘あいつ’は舌で僕のの先の、皮めくろうとしてた。四年だもん。まだ皮、きつきつだったし、ちょっとのぞいた先っぽに舌が当たると痛かった。僕は目をきゅっと閉じて、苦しそうな顔をしたと思う。するとあいつはまた、僕の頭を優しくなでた……。
「僕、帰る……」
‘あいつ’が僕のパンツとズボンを戻すと、僕は尖った暗い声で言った。そして、すぐに玄関の方に歩いていった。胸が締めつけられるような、あの大勢の前に立って緊張してる時と同じような具合。
「また来るよね」
僕は責めるような目で‘あいつ’を見て、その言葉に答えなかった。けど無愛想なのも返事しないのも、息が詰まるような気分のせいで、怒ってたわけでもないし、二度と来ないとかも思ってない。
‘あいつ’は、でがけの僕の手に、そっと固く冷たいものを握らせた。‘あいつ’の部屋の、合鍵。
[*]Indexへ