[0]Indexへ
第9話
あの日のこと、少しは後悔してる。けど、いつかはこうなってしまったはずなんだ。ずっと知らないままで、いられるはずなかった。
あの日僕は、‘あいつ’のマンションの、エレベーターホールの前で、お兄ちゃんの自転車を見つけた。それまでも、自分でもよくわからない不安があったけど、その不安の正体がはっきりわかったのは、全てが終わってしまったあとだった。
僕はボタンを押して、エレベーターが来るのを待った。心臓がどきどきしていたけど、そのときはまだ、何が起こるのか見当もついていなかった。
8階に上がって、‘あいつ’の部屋のドアノブを握った。鍵がかかっていたから、合鍵を差して、開けた。人の出入りが激しいときは、開けっ放しだ。誰もいないか、‘あいつ’と‘客’が一人の時は、鍵閉まってることが多い。
僕はドアを開けるときすでに、人目を忍んで音を立てないように、気を遣っていた。玄関に子どもの靴は、一足だけ。汚れた紐の運動靴にも、見覚えがあった。それはきれいに、出口に向けて、揃えてあった。僕は何度大人に言われても、これができない。
ベッドルームなら、ドアを開けたとたんに、中に誰かいれば気づかれてしまう。僕は、リビングに、ほんとに泥棒みたいにじりじりと足音たてずに、近づいていった。リビングの引き戸は、完全には閉まっていなくて、こわごわのぞくと、液晶テレビはゲーム画面が映しっぱなし。ゲームオーバーで止まっていたけど、BGMがループしていたおかげで、僕の呼吸の音くらいは、問題にならない。
丸いクッションの上に、‘あいつ’が座っていて、その膝の上に、お兄ちゃんがいた。
二人とも、下半身は裸で、お兄ちゃんの片足にはパンツが絡まっていて、靴下は穿いたままだ。‘あいつ’が、お兄ちゃんの両足を下から持ち上げていて、お兄ちゃんは赤ちゃんのおむつ換えみたいに、だらしなく思い切り、股を開いていた。のぞき込む僕の位置からだと、真横から、二人が見えていたけど、お兄ちゃんの「あ」っていうような短い声が聞こえたとき、思い切り二人の体が、こっちに傾いた。僕はひやっとして、一瞬首をひっこめて、またゆっくり、中をうかがった。
開いてる足の片方は、ほとんどこっちに向きを変えている。股の間が丸見え。‘あいつ’のおちんちんが、お兄ちゃんのお尻に、ほとんど根本まで入っていて、お兄ちゃんの体を上にした‘あいつ’が、下から腰を揺すって、ちんちんをより深く押し込もうとしいていた。
汗びっしょりの‘あいつ’が、同じリズムで腰を振るのに合わせて、お兄ちゃんの声も、切れ切れに漏れていた。ほとんどは、いっ、とかイタイ、で、お兄ちゃんは目つぶって歯を食いしばっていたけれど、痛いだけじゃないはずだ。お兄ちゃんのおちんちんだって勃ってるし、もし気持ちよくたって、痛いって言う方が、恥ずかしくないもん。
‘あいつ’は腰の動きをゆっくりにして、手探りでプラスチックの入れ物を探して、それをお兄ちゃんのおちんちんに塗りつけて、絞るように刺激していた。お兄ちゃんは声こそ出さないけど、首を振ったり、腕を突っ張らせたりして、反応している。
「もうでるよ、僕……」「ちょっとだけ辛抱しろよ。俺も、もうちょい……」
[1]Next