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ガイドの三木 2
タケオのからだは、十一歳の少年としては小さい方ではない。いやむしろ発育のいい方だろう。肩幅や腰回りも同年代の中では逞しい方で、腕っぷしもまあまあ。服を着ていると太って見える。が、裸になるとふっくらとはしているものの、ほどよい皮下脂肪の下で力強い筋肉が主張を始めつつあった。
だが西洋人の大人を前にしては、肉食獣と野ねずみのようなもの。目の前の言葉も十分通じない男が、突然狂えば、もしくはより現実的に、行き違いで激昂して、タケオの首をへし折ろうとでもしたなら、あらがう術などない。男には司法の手が待っていようが、彼が罰せられたとてタケオは生き返れるというものでもない。
このような事情からZエリアの少年たちは、初めての客と一対一になることを嫌う。いや、おそれる、と言った方がよいだろう。生きるの死ぬのという次元に至らなくても、ひどい目にあったという逸話は少なくない。そこで、一人頭の値段を切り下げてでも、二、三人で一限の、特に外国人客には売り込むのが、少年たちの常套手段だ。こうなると、一気に立場は逆転する。おっかなびっくりの「初体験」をしようとする大人の男と、子どもとは言え、海千山千の少年たち。ペースを少年たちは掌握して、軽いプレイで逃げておいて、かつ適当なごまかしをして金を余分にもぎとる。ここにおいては言葉が通じにくいことはむしろ少年たちに有利だ。
タケオを買った西洋人は、乱交的なプレイを好むタイプではなく、タケオ一人を買いたがった。あのわずらわしい三木が通訳と交渉を買って出ていたので、あまり値段は釣り上げられなかったが、タケオはこの頃売れていなくて干上がりそうだったという事情もある。そのうち兄貴にヤキを入れられてしまいそうだった。それに複雑ではあるが、一応何人かいた少年たちの中で、自分を選んでくれたことは、うれしくないわけではなかった。ガタイはあるが温厚そうでもある。ショートタイムをOKした。
仰向けに寝てだらりと力を抜いた、タケオのからだに、太り肉の男のからだが覆い被さった。むっとする体臭だ。ロシア人ほどではないが、日本人の少年にとって西洋人はおしなべて体臭がきつい。それがタケオは嫌いだった。
軽くキスされた。舌を押し込み歯が当たるようなキスをしてくる客もいる。それに比べれば、この唇を軽く舐める程度のキスは、ありがたいくらいだ。唇を離した客に向かい、タケオは少しだけ微笑んで見せた。仕込まれた通りだ。
男の体が下に動き、タケオの乳首を吸い始めた。
(う……)
こんな時に、派手にあえいで見せれば喜ぶ客もいるのかもしれない。しかし少なくともタケオにはそれを芝居でやることなどできなかった。キスされた唇をぬぐって気をそらす。むずむずした快感と自己嫌悪が、かなたに押しやろうとしてもどうしてもほの見えてしまう。
手の甲に目立たない色の毛の生えた男の手が、股間をまさぐっていた。きゅっと唇を噛んで、タケオは顔を、両手で覆った。
両足をかつがれた。自分がどのようなあられもない格好をしているかはわかる。今は昼だ。だから電気を消しても、目を開けばその姿は自分にも見えてしまう。だから目を閉じる。
温かくぬめぬめとした感触は、客の唇だった。仮装包茎のタケオの包皮を、客の器用な舌が、剥きおろそうとうごめいている。これは気持ちがいいだけでつらくないから好きだ。けれど、時々「上手な人」に長時間、彼のポイント、鈴口から近い一点、雁首のある部分を、攻められ続けると、気持ちがよすぎて頭がおかしくなりそうになることがある。それはこわい。この人のは、今のところ大丈夫かな……。でも射精しないと、いつまでも帰そうとしない人もいる。そういうときは、自分でしごいて、イッて見せる。出たものを舐め取って、飲みたがる客もいる。頭おかしいやつばっかだ。
「あっ……」
タケオの勃起したペニスを口から出し、舌先で刺激していた男が、中指の爪の先ほどを、タケオの肛門に沈めたのだ。
「No,Fuck!」
タケオは首を持ち上げ、目を開き両手を制止のポーズで突き出して、はっきりした声で言った。これは決まり文句だ。相手が外国人であっても、この意思表示と金のことだけは、きっちりやらないといけない。
男は沈めた指をしばらくそのまま止め、やがてぞんざいにすっと抜くと立ち上がった。タケオは男の柔和な目つきが変化したのを感じた。少なくとも、穏やかな笑みは消え去っていた。
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