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 高速に入った三木は、アクセルをベタ踏みにして、車線を変えまくって飛ばした。近くの車はみんな遠慮して減速する。エンジン音と振動は商用車両ならではの凶暴さで、もう三人か何かしゃべろうにもよほど大声を上げない限り会話は成立しない。

 高速出口まで二十分を切っただろうという頃、金の携帯が鳴った。
 「三田村です。金さん?」
 「はい」
 高速走行中で音質は甚だ悪い。電波が切れないかはらはらしながら、金は携帯を耳に押しつけ、三田村の言葉に耳を傾けた。
 「彼のバイクが、目撃されていてね。あと街の子で余計なことを言ったのがいる。彼は神戸港に間違いないよ。といってもあそこも広いから細かいことはわからんが。私がこれを知っているということは神部君も情報、押さえたってことですよ……」
 「……ありがとうございます」
 金は電話を切った。焦燥に身を切られるようだった。三木にこれ以上飛ばせというのも、無意味だ。彼も鬼相というべき表情で、無謀なまでの高速運転を続けていた。

  †

 特に昼間は、美しいとも言いがたい、錆びた巨大な船体が視界を遮る、商業港が彼のお気に入りだった。
 霧笛や、機械音に混じり、水音が聞こえ、ひしめく船舶に遮られた隙間から、涼しい風が頬を撫でる。人の暮らしのにおいはしないが、人の営みの香りはする。一人きりになれて、独りぼっちではない。そんな気がする場所だった。

 ジョージはチビ玉が好きだった。あとにも先にも、たぶん同性愛的な意味で、ただ一人。それを一人、今確かに自覚していた。
 ジョージは父親を知らない。そして母親は、父親と呼ぼうとも思わない男と短い間暮らしては切れ、その度に住居を変えた。だからほとんど、まともに学校に通えなかった。嫌気がさして家出して、Zに流れ着いた。
 普通に学校に通い、普通に父に甘え母に甘えてみたかったと彼はよく思った。母親が憎かった。それが女々しいと、感じさせてくれたのが、チビ玉だった。
 母を知らず、およそ父親の資格があると思えない男と放浪しながら、誰も憎まず、父を愛し、その死を弔って独りぼっちになったチビ玉。彼が父を愛しているということが、妬ましかった。そして、そんな自分が情けないと思う。

 けれど俺はチビ玉のことが、好きだった、とジョージは思う。もう何も伝えられない。謝ることも、正直な気持ちを言葉にすることもできない。この先、自分がどうなるかはっきりとはわからないけれど、「何もかも終わり」っていうところだ。終わり方が、わからないだけだった。

 船の発する音と違う物音に、ジョージの全身は緊張した。
 タイヤの軋みやエンジン音だ。複数だろうか。ジョージはジャンパーのポケットから、客から奪った護身用の小さなピストルを出し、銃口を見つめた。

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