bP ONE NIGHT HEAVEN
大都会の空は灰色に満ちて、地にへばりつく人間どもは煤煙と塵を吸い込んで生きる。季節は冬だった。吐く息が白く見えて、寒さが夜道を歩く人々の体にしんしんとしみ込む夜。街灯の少ない暗い路地に、一人の少年が佇んでいる。両手をポケットに突っ込んでガードレールにもたれている中学生ぐらいの少年の、あどけなさの残る顔には、月光が青白い影を落としていた。
プロレスラーのような巨躯に、いかつい顔をした、濃い色のスーツの男が通りかかる。少年はふわりと腰を浮かした。
「おじさん」
体格に似合わない臆病な驚き方で、びくりと周りを見回した男は、正面に立った少年を認めて、小さな安堵のため息をもらした。
「わしに何か用かい? 坊主」
さらさらのやや長めの髪を掻き上げると、少年は少し謎めいた笑みを浮かべて、男に近づいた。
「うん。実は僕、ちょっとお小遣いが稼ぎたくてね」
「ほう」
男の厚い唇がいやらしく歪む。
「おじさん、あっちの方も強そうだけどさ。たまには、男の子を抱いてみたいとか思わない?」
挑発的な少年のかすれ声。さすがは今時のガキだわい。だが、こんな上玉が向こうから近づいてくるなんて、今日はツイてるぜ。男は、気持ちの高ぶりを押さえて、低い声で平静を装う。
「面白そうだな。で、幾らだ」
「幾らでも。おじさん金持ちそうだから、期待してるよ。気持ちよくしてくれたら、うんとサービスしてあげる」
会話の内容とはあまりにギャップのある爽やかな笑顔が、少年の白面に広がった。
「そこのホテルの1183号室だ。五分ほど俺に遅れて入って来な」
男はすでに高ぶりつつある股間を意識しながら、少年を追い越して、ホテルへの帰路を急いだ。
シャワールームから出てきた男は、でっぷりとしたビール腹に、ホテルのモスグリーンのタオルを巻き付けていた。
「何だ、まだそんな格好していたのかよ。お前もシャワー浴びてきな」
ベッドの端に腰掛けていた少年は、えんじのブルゾンを脱ぎ捨てると、小動物のように軽快にバスルームに滑り込んだ。
熱い湯を首筋から浴びながら、少年は自分の指先を見つめている。右手の親指と人差し指に、小さな肌色のカプセルが握られている。不溶性のそのカプセルは、一見普通の薬物のようではあるが、上下の曲線がはっきりと異なる、いびつな形をしている。少年はカプセルをつまんだ指を口に差し入れ、舌下にカプセルを忍ばせた。
ベッドでは頬杖をついて横になった男が、シャワールームを出てきた少年を目で追っている。サイドテーブルには水割りの入ったグラス。少年を待つ間に二杯ほどは空けたらしい。顔面と上半身がやや上気して、巨躯にアルコールがまわっていることを裏付ける。
「こっちへ来いよ」
全裸にタオルを巻いた少年は、男に背中を向けて、ベッドの端に腰掛け、潤んだ視線を男に送る。体を起こした男が、腕を少年の首に回し、強引に細い体を引き寄せた。男の仰向けの太鼓腹の上に、少年はふわりと覆い被さる。男の無遠慮な指が身体をまさぐるのに合わせて、少年の細い指は男の猪首に回された。男のやや強引な愛撫に逆らうでもなく、少年の舌は男の乳首や首筋を器用に這い、手指は毛むくじゃらの陰部をまさぐる。その少年の容貌に似合わない手慣れた愛撫に、むしろ男が戸惑い、少年のややピンクに染まった華奢な肢体に溺れていく。
その肉体はしなやかで、少年なりによく鍛えられていた。薄く全身を覆う柔らかな脂肪の膜の下に、理想的な筋肉の繊維が走っていた。男は太い指で、その滑らかな感触を楽しむ。性器に手を伸ばす。勃起したそこはほとんど無毛に等しく、艶めかしく身を捩るこの肉体が、やはり間違いなく未熟な少年のものであることを物語る。
やがてやや平静を取り戻した男が、少年の愛撫を強引に中断させて、彼の身体を乱暴に組み敷く。
「あん」
少年の両肩をがっちりと押さえ、交わりの主導権を取り戻そうとする男は、食いつくように唇を吸った。
「ん、む……」
「フフフ……淫乱なガキだぜ。こんなの初めてだ。どこで覚えたんだ? いくつの時からやってんだ?」
少年は潤んだ目で男を不敵に見上げる。
「どうでもいいじゃない。それより、もっと気持ちよくしてよ」
「とんでもねえガキだ……だがいい体してるぜ。ようし、イカせてやろうか」
男の目がぎらりと光り、両腕が腰を抱え、唇は陰部をまさぐる。蟻の戸渡りから上に向かい、舌先の愛撫が陰部を濡らす。勃起しきった白い陰茎を、男がいやらしくすする。
ペニスを支える右手は竿を巧みにしごく。そして、もう一方の手は思わせぶりに臀部を這い、中指が窪みを探り当てると、入り口当たりを微妙に刺激しはじめる。くすぐる中指の先が、温かな内部に侵入すると、少年の体がかすかに震え、狭い穴が、きゅっとその指を締め付ける。
「感じているのか、ええ?」
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