ゆるされたら 1


 お父さんとお母さんが三日くらい帰らなかった、あの日……そんな日は、この一、二年、珍しくなかったのだけれど……知らないおじさんが、僕のアパートにやってきて、僕を連れて帰りました。

 お金持ちそうな、僕のお父さんよりも年上のおじさん。とても優しそうに、僕に話しかけました。お父さんとお母さんはもう帰らないから、私と一緒に来なさいって。
 「かわいそうだけど」とおじさんは言いました。でも、お父さんやお母さんがいなくなるのは、僕は別に悲しくはなかったのです。いれば一日か二日に一回、ご飯くれるけど、最近それ以外、意味なかったから。お父さんやお母さんにとっての僕も、たぶんそんな感じだったのでしょう。

 おじさんを僕は、「施設」の人だろうと思っていたけど、違いました。おじさんは僕を、自分の家に連れて帰ったのです。びっくりして、息が詰まるくらいの、大きなお屋敷に。

 そしておじさんは僕に、お父さんから僕を買ったと言いました。

 親が子どもを売れるなんて僕は知りませんでした。でも買ったのだから、おじさんは僕を好きなように使う、って、普通の、静かな調子で言いました。

 よく意味がわからなくて、僕はただうなずいていました。

 そして、僕の部屋だという、地下の薄暗い部屋に連れて行かれました。まるで牢屋みたいな、部屋。

 その時になって、はじめて僕は、ちょっとまずいかも、と思いました。服を全部脱ぎなさいって、静かに言われて、こわくなりました。すごく。

 おじさんを突き飛ばすようにして、おじさんの後ろの扉に手をかけたら、殴られました。殴られるのは慣れっこだったけど、知らない人はどのくらいのことをするのかわからなくて……。

 蹴倒されて、胸を踏まれながら僕は、「何でもするからやめて!」と叫びました。そしたらまた、服を脱げ、って、ちょっと息を荒くしながらも、相変わらず怒鳴らないで、おじさんは静かに言うのです。

 パンツだけ残して、手を止めても、おじさんは黙って、腕を組んで僕をじっと見ています。にらんでる感じでもないけど、こわい目……。仕方なく僕はパンツも、靴下も、全部脱いで、真っ裸になりました。よく知らない人の前で、おちんちん丸出しは、恥ずかしかったです。あとで、恥ずかしいとかもう、どうでもよくなったけど……。
服の代わりに首輪をもらいました。皮がごつごつして、鋲を打ったやつで、犬だったら、よっぽど大きなやつがしてそうなやつ。お父さんからこのおじさんは、僕をペットにするのに買ったのかな。僕って、いくらぐらいだったんだろう? ってちょっと考えました。いい犬より、高いかな。でも僕、番犬も無理だし、仔犬みたいにかわいくもないし、安かったかもしれません。僕なんかお金出して買って、意味あるのかな。ご飯くれるのかな。それもお金、かかるし、とか考えていました。

 それから僕は鎖で繋がれ、暗い地下の牢屋で暮らすことになりました。