〜カボチャの日の恐怖〜
アイン・バルシェムはこの世の終わりのような顔で、
通路を歩いていたテットとザインの間に割り込んできた。
「「アイン???」」
アインは目に涙を溢れさせて、2人に必死に懇願をする。
「お願いだ!何も聞かずこのままオレをかくまってくれ!」
「「は!?」」
「ギメルに捕まったら・・・オレは・・オレは・・」
「「・・・・」」
アインはゴラー・ゴレム隊隊長、ギメル・バルシェム(キャリコ・マクレディ)の
大のお気に入りで、いつもセクシャル・ハラスメントを受けている。
ギメルいわく、
『俺とアインは両思い・・相思相愛なのだからセクハラではない!』
らしいが、当のアインは身体中でギメルを拒否しているのでセクハラ以外のなんでもない、と、
バルシェム全員が心の中で密かに思ってるのをギメルは知らない。
彼の補佐役でもあるダレット・バルシェム(スペクトラ・マクレディ)も、たびたび、
『アインが嫌がっているのがわからないの!?このショタコン!』
と、彼を罵りなんとか『セクハラ』であることを判らせようと努力しているが、
どれもこれもが意味なく終わり、儚く散っていくのである。
さてさて、今回アインは何故だか青い顔をしてバルシェム仲間の2人に、
自分をかくまってくれるようお願いをしている。
一体何があったのか?
テットとザインは食堂までアインを連行し、落ち着けるためお茶を用意した。
「・・・で?今回は何から逃げてきたんだ?」
「また『身体測定だ』とか言われて服でも剥かれたか?」
「ちがう!!そんな生温いことではなかった!」
「「(生温い!?)」」
『身体測定』という名目で服を剥き、その後淫らな行為を強制的にされることは
アインにとっては『生温い』ことなのだろうか?
仮面に隠れて見えないが、二人は苦笑いをした。
「じゃあ、どんなことなんだ?」
アインは入れてもらった砂糖とミルクたっぷりの紅茶を一気に飲み干すと、
一気に話し始めた。
「・・・地球では『ハロウィン』という行事があるらしい」
「ハロウィン??」
「・・・ハロウィンって確かアレだよな・・・」
「・・・仮装して、ある言葉を言うとお菓子がもらえる素晴らしい行事だ」
アインは相変わらず青い顔をしていたが、『お菓子がもらえる行事』に
少しだけ表情を綻ばせながら話を続けていく。
「さっき、キャリコの部屋の前を通りかかったら・・・」
「かかったら?」
「・・・鼻歌を歌っていたんだ!」
「・・・だから?いつものことじゃないか」
「鼻歌を歌っていたんだぞ!?」
ムキになってアインは『鼻歌を歌っていた』をもう一度口にする。
しかしテットとザインは、
だからなんだというのだ?サッパリ判らないという反応である。
「わからないのか?二人とも!
アイツが鼻歌を歌う=オレにセクハラをする時なんだ!」
「おお!」
「なるほど!」
2人はアインの言わんとしている事をやっと理解し、お互い頷きあった。
「・・・オレは僅かにあいているドアの隙間からアイツの部屋の様子を伺った」
「・・・今回はどんなセクハラされようとしているのか知りたいものなァ」
「知っていれば回避できるかも知れないしな!」
最も判っていても逃げきれたことのないアインだが・・・。
「ギメルはなにやら衣装を縫っていた」
「・・・さっき言っていた『ハロウィン』の仮装の衣装か?」
「・・・おそらく・・・『ハロウィン、ハロウィーン、楽しいな♪』と
いうような鼻歌だったから・・・」
「・・自分が着る衣装でも縫っていたのかな?」
ブンブン、とアインは勢いよく首を振る。
「『アーイン、アーイン、お前の衣装だ、喜べよぉ〜♪』・・・と言っていた。」
「・・・・・」
「・・・・・どんな衣装だったんだ?」
「・・・バニーガール」
「・・・・・」
「・・・・・」
アインの言葉が一瞬理解できなく食堂はシーンとなった。
「・・・もう一度言ってくれ」
「バニーガール」
「・・・なんだって?」
「だから!バニーガールだ!編みタイツもアイツが作っていた!
ウサ耳もちゃんとあったんだ!」
男の子のアインに、バニーガール・・・
ギメルの趣味はサッパリ理解できない、と2人は思った。
それと同時にとてつもなく目の前の少年が哀れに映り、
なんとかかくまってあげたいが、
どうせいつもの如くギメルには捕まってしまうだろう・・・。
そして逃げ回れば逃げ回るほど、その後の『お仕置き』とやらが、
きついものになるに違いない。
実際にギメルが探し始めて、アインは最高で5時間逃げきれたことがあった。
が、ついにギメルに捕まり、嫌がるアインは彼の部屋へ強制連行。
その後アインの悲痛な叫びは3日3晩各バルシェムの部屋に響き渡ってきた。
そう考えると、アインをかくまうのは得策ではない。
バニーガールの衣装を大人しく着れば
早めに解放されるかもしれないではないか!?
2人は、お互いの考えが一緒であることを確認しあうと、
アインを優しく促(うなが)した。
「アイン・・悪いことは言わない、大人しく着た方がいい」
「!?」
「そうだ・・どうせ逃げても捕まるんだし・・・
逃げたら後の『お仕置き』がきつくなるだけだぞ?」
信じられない!という表情でアインは椅子から立ち上がった。
「お前達!人事だと思っているだろう!?」
「・・あ、いや・・そうではなくだな・・」
「俺達はお前のためを思って・・・」
「もういい!お前達には頼まない!ダレットのところへ行く!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・?」
アインがギャンギャン吠えているというのに、
急に2人は何も話さなくなった。
首をかしげていると、ザインがアインの背後を指差した。
ゾクッ・・・と背中に悪寒が走るアイン。
後を振り向きたくなかったが、ゆっくりと後を振り向くアイン。
「!?・・・・ぁ・・・ぅ」
ニヤッ・・・と黒く微笑んだギメルが立っていた。
「・・・アイン」
「・・・・っ」
「むかえに来た」
「・・・・っ」
ヌッ・・・とアインに向かい腕を伸ばすギメル。
アインはとっさに逃げをうち、食堂の出口に向かい走り出した。
「・・・くっくっくっ」
そんな様子に、更に黒く面白そうなに口元をゆがめると、
ゆっくりとアインを追い始める。
「・・・今回もウサギ狩りの始まりだな」
本当に楽しそうな声色で言うので、テットとザインは思わず悪寒がした。
「(・・・あぁ・・アイン、だから言ったのに)」
「(あの笑い方は、まずいぞアイン)」
心の中で合掌しアインの無事を願う二人であった。
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