覗き見じゃないわよ?
 


*パラレル*






〜ヴィレッタの観察日記1〜





イングラムのグローンともいえるバルシェム16号アイン、
・・・クォヴレーが仲間になって数ヶ月がすぎた。
拿捕した当初は野良猫(無表情だったけど)のように誰にも懐かず、
いつも一人で窓の外を見ていた彼も最近では感情を手に入れ、
私達に馴染んできていた。
人形であった頃の忌まわしい記憶は、
拿捕した時の大怪我によって今だ封印されたままだけれど、
私もイングラムもこのままずっと眠ったままでいて欲しいと思っている。
本人は人造人間という事実だけは知っているけれどそれ以上は知らなくていい。
・・・・それが彼の幸せだと思うから。

けれど最近気になることがある。
クォヴレーは同じ年頃のアラドやゼオラ、
リュウセイたちとは上手くやっているみたいだけれど・・・・。


「イングラム」

彼は格納庫でアストラナガンを背に苦笑しながら立っていた。
私はそんな彼に怪訝そうな表情で近づいた。
そしたら彼の後ろから難しい顔をしたクォヴレーが走り去っていく。
クォヴレーはチラッと私を見ただけで、そりゃもう超特急で格納庫を出て行ったわ。

「・・・どうやら苛めすぎたようだ」
「は?」

苛めすぎた?
イングラムが??
誰を?


よくイングラムを見れば彼は自分の首筋を手で押さえていた。
・・・・まさか。

「?ヴィレ・・・うわっ!!」

力ずくでその手を外せば思ったとおりそこには赤い鬱血。
・・・夕べがついさっきか・・・いつかは分からないけど、
イングラムは『誰か』とお楽しみだったみたいね。
あいかわらずお盛んですこと。
ま、仕事に差しさわりがなければかまわないけど・・・・。
私が呆れたようにため息を吐けば、いかにも心外そうなイングラム。

「言っておくが少しからかっただけだぞ?」
「・・・そのキスマークを見せ付けて?」

私の指摘に「おやおや」と目をイングラムは見開いた。
そしてお得意の小ばかにしたような笑顔を浮かべると、

「これくらい、いまどきの若者には何てことないだろ?映画の世界でもでてくる。」

と、悪びれた様子もなくいいのけた。
・・・相変わらずどこか勘違いしている人ね!

「いまどきの若者なら、多少はね!でもクォヴレーは『いまどき』じゃないわ。
 言ってみれば赤ん坊よ!」
「くくく・・・チェリーボーイでもあるまいし、初心なことだな」

・・・チェリーかどうかは私も知らないけど、
クォヴレーはどう見ても性に関して免疫はなさそうよね。
それに普段はこっちが心配するくらいクォヴレーと話しなんかしないくせに、
どうしてたまに話をしたときにそうやってからかうのかしら??
本当、デリカシーの欠片もない・・・・はぁ・・・・。
可哀相なクォヴレー・・・。

「イングラム、私、前から一度聞きたかったんだけど・・・」
「なんだ?」
「クォヴレーのこと嫌いなの?」

滅多に話しもしていないし、
たまに話していたかと思えばからかっているだけだし。
だけどイングラムはいかにも心外そうに私を見下ろしてきた。

「・・・嫌いなわけがないだろう?・・・むしろ・・・」

・・・むしろ?


むしろなんなの??
でもイングラムはそれ以上何も言わなかった。

「イングラム?」
「・・・とにかく、俺はクォヴレーを嫌ってはいないから安心しろ。」

嫌いではない・・・?
ならどうして普段はそっけないのよ?
イングラムはニッと笑うとすのままスタスタ格納庫の出口へ歩き出し始めた。

「ちょっと!どこへ?」
「・・・バンドエイドを取に行くだけだ。流石に目立つからな・・・・」

そう思うならつけさせるの止めさせなさいよ・・・、
と怒鳴りたかったけど、イングラムの背中は既に小さくなっていて言えなかった。



つまり今日も私の計画は失敗したってコトね。


・・・イングラムとクォヴレー、
どちらも大切な家族だから仲良くしてほしいのに。



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