〜夏の風物詩〜
「げっ!!またソーメンかよ〜・・・」
食堂に悲痛な声が響いたのはその日の昼食時である。
食べることが人生で何よりも楽しみなアラドは、
肩をガックリ落としてしょんぼりと席に着いた。
「文句言わないの!!ご飯が食べられるだけありがたく思いなさい!」
そんなアラドを一括するのはいつもの如くゼオラ。
そしてその二人のやり取りをいつも納めるのがクォヴレーの役目なのだが、
この日ばかりはアラドの意見に賛成とばかりに口を挟んできた。
「オレもアラドの意見に同感だ。
こうもソーメンばかりだと食欲がわかない」
「そうそう!飽きちまったよ!」
ソーメンは嫌いではないが、
こう毎日毎日お昼がソーメンだと憂鬱になるというものだ。
実際、昼食がソーメンになって今日で1週間が経とうとしている。
しかし自分たちの台所事情を知っているゼオラは
(もちろんクォヴレーもアラドも知っている)
頷きあう男の子二人にゼオラは拳骨をお見舞いした。
「いってーー!」
「・・・・痛い」
「私達は今、資金不足なのよ!
それにソーメンは夏バテしてても食べられるんだから!
・・・ダイエットにもいいし・・・、
文句言わずに食べなさーーーーーい!」
真っ赤な顔で一括され二人は渋々、箸をとる。
そして重い息を吐きながらツルツルとソーメンを運び始めるのだった。
・・・そして昼食も終わりにさしかかろうとしたとき、
ゼオラはある事を不振に思い、クォヴレーに話しかける。
「そういえば・・・珍しかったわね、クォヴレー」
「・・・珍しい?」
何がだろう?と目を瞬かせるクォヴレーに、
アラドはソレが何なのか分かったのか、
直ぐにゼオラに同意をした。
「そういえば珍しかったよな〜。
普段はいいコちゃんなのに、ソーメンに文句を言った辺りが・・・」
「・・・・!・・・ああ・・・」
そのことか・・・、と小さく頷いたクォヴレーは、
口をへの字に曲げて再び重い息を吐いた。
「ソーメンを見ると何故か胸が苦しくなって、同時にムカムカするんだ」
「・・・・・ソーメンで?」
今度はアラドとゼオラが目を瞬かせる。
ソーメンは夏バテの人が食べる食べ物のの代表的なものだ。
クォヴレーが夏バテをしていてソーメンしか食べられない、
と、言うのは理解できるが、
ソーメンでムカムカするというのは理解しがたい。
箸を置き、フゥー・・とため息を吐きつつ、
クォヴレーは食堂の天井を見上げた・・・。
「・・・理由はだいたい分かっている」
「・・へ?そうなの??」
「なになに??」
天井を見ていた目を二人に戻し、クォヴレーは眉を潜める。
キラキラ輝かせた眼で説明を求める二人。
「(楽しんでいるな?)・・・おそらく」
「お、おそらく・・?」
「アインの頃に何かあったに違いない」
「・・・あー・・・・」
「いつも」の「ありきたり」な答えに二人はつまらなさそうに、
再びソーメンに手を付け始めた。
クォヴレーはそんな二人を睨みながらゆっくり瞳を閉じていった。
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