〜暑い日の日常〜



「どうかしたか?」

真夏の訓練は普段よりもより汗をかく。
シャワーを浴びサッパリしても夏はやはり暑い。
シャワーを浴びた直後だというのに、いや直後だからこそ再び汗がドッと出る。
だからこそ少しでも涼しくなろうと、
この前買出しに行ったときに買っておいたアイスを一人自室で食べていたら、
任務から帰ってきたのか報告書を持ったアインが戸口で固まってしまった。
キャリコが首を傾げて声をかけたら数回の深呼吸の後、
ようやくアインは口を開くのだった。

「それ、アイスか?」
「そうだが?」

するとなぜかアインは難しい顔をしてしまった。
アインはアイスが嫌いなのだろうか?と、
そんなことが頭を過ぎったが、
時折、食堂でシャーベットを食べている姿を見かけているしそれはないだろう。
では一体どうしたというのか?
キャリコはますます首を傾げてアインが難しい顔をしている理由を聞こうと、
口を再び開こうとしたその時、
アインはボソッと口を開いた。



「大人の男もアイスを食べるのか・・・」
「・・・・・は?」


突拍子のない台詞に持っていたアイスを落しそうになる。
アインは時々突拍子もないことを言ってはこうして驚かせてくれるのだ。


「大人になると甘いものは卒業するのかと思っていた」
「・・・・・・」

報告書をキャリコの机に置くと、キャリコが居る窓辺に近づいてきた。

「食堂のアイスやケーキなどの甘いものを食べているのはオレか女性陣だけだから」
「・・・そうか?」

そうだっただろうか?と、キャリコは反芻してみる。
だがアインが知らないだけで男のバルシェムも結構甘いものは食べている気がした。
アイスはもちろん、ケーキやプリン、炭酸などのジュースも飲んでいる。
・・・・ただし3時のおやつ・・・というか、
訓練や任務終了後の息抜きのときに。

「(そうか・・・)」

キャリコは近づいてきたアインをじっと見上げマジマジと見つめた。
アインは今もそうだが任務後や訓練後はまず報告書をまとめる。
だが殆どのバルシェムはキャリコのように先にシャワーを浴びて、
一息ついてから報告書をまとめているのだ。
もちろんアインのように先に報告書をつくる連中も居るがそれはごくごく稀の部類だ。
そんなもんだからアインはいつも『一息』の時間が他のバルシェムと少し時間が過ぎているのだ。
食事で甘いものをあまり食べない男バルシェムたちなので、当然アインは見た事がなかった。
だからアインの中では、
大人の男=甘いものは卒業、となっていたのだろう。

「(なんとも素直なことだな、相変らず・・・)」
「大人の男の甘いものを食べていいのか?」
「・・・ダメ、という縛りはないな」

キャリコの返事にアインは表情筋を少しだけ綻ばせる。
どうやら大人になっても甘いものが食べられる、食べてもいい、
とわかって嬉しかった様だ。

「キャリコは甘いものは好きか?」
「嫌いではないから好きの部類かもな」
「オレも嫌いじゃない。つまり好きだと思う」

珍しくアインがニッコリと微笑んだ。
珍しいこともあるものだ、普段はほとんど表情を動かさないというのに・・・、
と、思わずその顔に釘付けになり、キャリコはアイスを食べることを忘れてしまう。

「キャリコ」
「・・・・何だ?」

見つめられて居心地が悪くなったのかアインは目線を少し逸らしながら、

「アイス、溶け始めてるぞ」

と、指摘してきた。

「!」

手元を見れば解け始めたアイスが棒を伝って手の甲に垂れていこうと線を作り始めていた。
慌てて棒の部分を舐め少しはしたないが解け始めてしまった下の部分にかぶり付く。
その間、アインはジッとキャリコを見つめていた。

「・・?アイン?」

ひょっとしてアイスが食べたいのだろうか?とキャリコは部屋に備え付けの小さな冷蔵庫を指差した。

「冷凍庫にまだアイスが入っている。食べたいならとってこい」
「・・・いいのか?」
「箱買いしたからな・・・1本くらい減ってもどうということはない」
「そうなんだ・・・」

アインはそう言いながら窓際に座っているキャリコの顔に顔を近づけると、
なぜか唇の直ぐ横に唇を寄せてチュッと吸い上げた。

「!!?」

驚いて振り返ると、そこには緑色の瞳がありえないほど近くにあった。
そして同じくらい近くにある小さな赤い舌を除かせながらアインはニヤリと微笑む。

「うん・・・バニラが濃厚で美味しいから貰おうかな」
「・・・・・・・」

アインはスッと顔を離すとスタスタと冷蔵庫に向って歩き出す。
そしてチラッと後を振り返り、クスッと笑って自分の唇の横を指差した。

「こんな場所にアイスをつけているなんて、子供みたいだな『ギメル』?」
「な!?」

どうやら口の端にアイスがついていて、アインはソレを舐めて味見をしたようだ。
アインの行為にか、口はしにアイスをつけていた自分にか、
キャリコは珍しくも真っ赤に顔を染めながら、

「ギメルと呼ぶな!!」

と、しか反論することが出来なかった。



有難う御座いました。 今回の二人はまだくっついていません! ええ、まだ青春中です。 どちらかといえばキャリコ←アイン的ですが、 キャリコ→アインでもありますね。 このふたりはこれくらいの距離の話が一番好きです。 続きを読んでみる? 戻る