*ちょっとパラレル*
〜ギャップ〜
見て分かるほどイライラが表に出ているようだ。
そしてさっきまで会っていた少年は目で見て分かるほど落ち込んでいた。
毎度の事ながらこのカップルには手を焼かせられている。
痴話げんかは犬も食わない・・・とにかく自分を巻き込むのだけはやめて欲しい、
と、毎回毎回思うのだが巻き込まれてしまう。
はぁ・・・とため息をつきつつ、
ヴィレッタはソファーでムスッとしているイングラムに声をかけた。
するとクォヴレーと喧嘩中の彼は毎度の事ながら不機嫌気まわりない声で、
「何か用か?」
と、一応の返事を返してくるのだった。
そんな悪態に心の中で怒りを覚えつつ、
「用がなければこないわよ、同棲相手の居る兄の家には」
と、嫌味を含めつつニッコリ微笑んで応えてみせる。
するとイングラムは露骨に方眉を上げ横目に睨んできた。
「フン・・!その同棲相手はお前の家に居るのだろう?」
「そうよ・・だからこうして来たわけ」
「向かえに来い、とでも言いに着たのか?
言っておくがクォヴレーが勝手に怒って出て行ったんだぞ?
俺は向かえに行かない。第一に怒っている理由が分からないから謝りようもない」
そうなのだ。
このイングラム、滅多のことでもない限り自分からは絶対に謝ったりはしないのだ、
が、ことクォヴレーにかんしては別であった。
例えクォヴレーが悪くとも(そんなことは滅多にないが)自分から謝りに、
逃げた先・・・つまりヴィレッタのところまで向かえにいっているのである。
しかし今回はそんなわけにもいかない。
クォヴレーとは1秒も離れていたくはないが、
怒った理由が分からないから謝りにもいけないのだから。
仕事上、今回のように遠征に行って家を空けることもシバシバある。
今回もそんな遠征から帰ってきた直後の家出であったが、
けれどイングラムの仕事を理解しているクォヴレーはそんなことで今更怒ったりはしないだろう。
「ヴィレッタ・・俺は本当に理由が分からない。
だから向えには行かない・・・というか行けない」
大きなため息のイングラムに苦笑を浮かべたヴィレッタが横に座って話し始める。
苦笑するということはどうやら家出の理由を知っているらしい、と、
悟ったイングラムは目でその先を即すのだった。
「ショックだったんですって」
「・・・ショック?」
一体何にだろうか?
ごく稀に白い制服に口紅がついていたりするが、
それは別に浮気の後とかではなく、
女性が勝手に突進してきてイングラムに抱きついてくる為だ。
無論、直ぐにひっぺがしてしまうので特に何かがあるわけではない。
だが今回はそんなこともなく、制服に口紅がついていたということはなさそうだ。
「何にショックを受けているというんだ?」
さっぱり分からないイングラムは真剣な眼差しをヴィレッタに向けた。
けれどイングラムが真剣な顔になればなるほど困った顔になるヴィレッタ。
そして、絶対に怒らないでね、と何度も前置きをし、ようやく理由を教えてくれたのだった。
「貴方のくしゃみがショックだったんですって」
「・・・・は?」
「だからクシャミ」
「・・・・・・」
ヴィレッタの言葉を理解するのに数秒かかってしまった。
さしものイングラムもいつもの頭の回転の速さがあまりの理由にまわらないようだ。
「イングラム、クシャミをしたでしょう?」
「・・・・クシャミ?」
顎に手をかけ、昨日のことを思い返してみる。
遠征からやっと帰ってきて浮かれた気分で家のドアを空けたときだった・・・、
サワサワと心地よい風がイングラムの長い髪をふんわりとなびかせ、
髪の毛先が形の良い鼻に悪戯を仕掛けてきた。
そしてイングラムの気配を感じたのか、
ドア先まで向かえにきたクォヴレーが着たその時・・、
「くちゅんっ」
と、イングラムはクシャミをしたのだった。
「・・・確かに俺はクシャミをした・・だが俺だって生き物だ。
クシャミをするときぐらいあるぞ?」
「そうでしょうね。でもクォヴレーはショックだったみたいよ」
「それは俺にクシャミをするなということか??」
それは難しい注文だ・・・とイングラムは真顔で悩み始める。
可愛いクォヴレーのお願いは極力(ベッド以外では)聞いてやりたいが、
何分、身体に起こる自然現象については難しい注文である。
「違うわよ!」
悩むイングラムにすかさず突っ込むヴィレッタ。
普段は黒くて鬼畜な彼だが時々こうしたボケをかましてくれる。
それはそれで人間味があって親しみもわくしいいことなのだが、
時と場所を選んで欲しいものだ。
今は天然ボケをかましている時ではないだろうに・・とヴィレッタは思う。
「・・・違うのか?では、何だ??」
「・・・可愛いクシャミなんですってね、イングラム」
「・・・・?」
「『くちゅんっ』っていうクシャミらしいじゃない?」
「・・・・・ああ・・・、・・?・・、そうかも、な」
だからなんだというんだ?という顔のイングラムだがそれはそうだろう。
けれどだんだん、まさか、という表情になっていく。
それはそうだろう・・・誰がまさかそんな理由で出て行ったと思うだろうか?
「イングラム、クォヴレーのクシャミは聞いたことある?」
「いや?」
「ふぅん・・・成る程ね・・・」
「お前はあるのか?」
「・・・まぁ、貴方が遠征に言っている間に、ね。
最近は花粉が舞い始めたらしいし、花粉症の人は辛い時期よね」
「花粉症?」
「私も初めて聞いたときはドコの親父?とおもったけど、
どうやら間違いはないみたいだし、
そんな時イングラムの可愛いクシャミを聞いたらショックだったでしょうね。
貴方、普段から『可愛い、可愛い』とクォヴレーを可愛がっているみたいだし?」
どうやら間違いは確信でいいらしい。
イングラムは顔を引きつかせながら・・・、
けれど段々黒い笑みを浮かべて最終確認をした。
「・・・俺のクシャミが可愛くてショックだった、というのが本当に出て行った理由か?」
ニッコリ笑うイングラム。
その笑顔は最高に綺麗で、且、凶悪だった。
ヴィレッタも負け時にニッコリと綺麗に微笑を浮かべると、
「そうよ。だから早く仲直りしてね?
私も明日から遠征だからこれ以上は預かれないわよ?」
と、痴話げんかに巻き込むな、と無言のプレッシャーを返すのだった。
「心配無用だ、今夜中にでも仲直りできるだろう。
・・・俺の腕の中で、だ」
「・・・・程ほどにね。今夜は私がこの家に泊るわ。だから早く向かえに行って頂戴。
ああ、そうそう!帰ってきたときに私の部屋が汚かったら承知しないわよ」
いつもはクォヴレーの味方のヴィレッタ。
だが今回は違ったようだ。
中立の彼女はいつも正しい方の味方だ。
どうやら今回はイングラムの味方のようで、
これからクォヴレーがどんな目に合うのか、想像すると少し同情するが、
これ以上バカップルに付き合う義理もない。
「(なまじ真っ白な為にこういうことが起きるのよね。
素直なのも考え物だわ。・・・たまにはもまれて世間勉強もいいかもね、クォヴレー。
見かけとのギャップなんて、世の中には沢山あるのよ。)」
そう、クォヴレーは本当にショックだったのだ。
尊大なイングラムが女の子みたいな可愛いクシャミをしたことが。
しかも花粉症にかかった自分自身のクシャミはどこかの頑固親父のような、
『ブエクッショーーン、ズルズル、グッチュン』というものであれば、
ショックは尚のことだろう。
常々『可愛い』と言ってくれるイングラムがこんなクシャミを聞いたら・・と思えば、
更にショックだった。
ひょっとしたら捨てられるかも・・・?とクォヴレーは怖くなり、
ヴィレッタ宅へとにげたのだった。
このあと、ヴィレッタの家に向かえにきたイングラムにどんなお仕置きをされたのか・・・?
とにかくクォヴレーはヴィレッタの家のリビングで悶々と膝を抱えているのだった。
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