Jealousyの続き・・・?



〜一人じゃ出来ない! 1〜


有楽町線の改札口を出て切符売り場をちょっとだけ曲がるとそこには有名なドーナツ屋さんがある。
東武百貨店の一角にあるそこは、開店当初は1時間待ちは当たり前なほど有名なお店で、
有楽町もまだ数回しか食べたことはなかった。
時刻は3時ちょっと過ぎ。
小腹も空いたし、今日は雨のせいかそのお店は珍しく数人並んでいるだけであったので、
折角だから休憩時間に今日はドーナツを食べよう、と、お店に足を向けたときだった。
お店の斜め横ぐらいにオレンジのつなぎを着た青年が難しい顔でなにやら悩んでいる様子だ。

「・・・東上?」


いつも難しい顔をしているが今日はまた一段と顔が怖いぞー?
などと心の中で思いながら、ニッコリと愛想笑いを浮かべて有楽町は声をかける。
何かを真剣に考えていたらしい東上は、ハッと驚いたように有楽町を見ると、
ムッと口を引き結ぶ。

「(ありゃ?機嫌悪い??俺、タイミング悪かったかな??)」

八つ当たり去れたら嫌だな、などと顔が引きつりそうになったとき、
いつの間にやら有楽町まで近づいてきた東上が先に口を開く。

「・・・お前、これから休憩?」
「ん?・・・、ああ、そうだけど?」

ひょっとしたら東上もこれから休憩で、
愚痴につき合わされるのかな〜??などとため息を出しそうになったが、
東上は「ふーん」と返事をして何かを考えているようだった。
その時、有楽町はあることに気がついた。

「(あれ??ひょっとして機嫌は悪くない、のかな??)」

考えてみれば、彼は機嫌が悪い時はあった瞬間に怒鳴り散らすはずだ、
つまりそうじゃないという事は、東上は機嫌は別に悪くなく、
不機嫌そうに見えたのは何か悩みがあるからなのだろう。

どんな悩みだろう?
苦労性というか、面倒見のいい有楽町は悩みの相談にのるのはやぶさかではない。
彼、東上は扱いにくいが、素直な一面もあって正直、可愛いな、と思うことがあるのも多々なのだ。

「(なんでそう思うのかはいまだに謎だけど・・・・)」

まぁ、なんであれ機嫌が悪い時は会いたくないけど、
と、一人頭の中で考えていたら、
目の前にいる東上が再び話しかけてきたのだった。

「なぁ?」
「ん?」

相手の、つまり有楽町の機嫌を伺うように、彼にしては珍しく気遣わしげに声をかけてくる。

「(なんだろう??よっぽど言いにくいこととか??)」

真剣な目の東上に有楽町も真剣な顔で見返した・・・、が。

「お前、甘いものは好きだっけ?」

東上の口から出てきた言葉は予想していたものとは全く違っていて、
有楽町はずっこけそうになってしまった。

「甘いもの・・・?」
「そうだ。・・・・その、ドーナツとか・・・・」
「・・・ドーナツ・・・・?」

東上がチラッと見た先にはあの有名なドーナツ屋さんがあり、
有楽町もつられてチラッと見た。
あのドーナツ屋にひょっとして興味があるのだろうか?
貧乏と言っては失礼だが、つつましい生活をしている彼にしては珍しい興味だ。
一体どういった風の吹き回しなのだろう?
でも、ま、有楽町はあのドーナツ屋に行く途中であったし、
甘いものもそれなりに好きなので、とりあえず東上の質問に答えた。

「・・・別に嫌いじゃないけど?」
「本当か?!」

すると東上は見たことも愛くらい嬉しそうな顔をするものだから、
有楽町は(珍しいものを見れたので)嬉しいを通り越して、
ボーゼンとしてしまったのも仕方のないことだろう。

「あのさ!」
「う、うん・・・?」
「俺、あのドーナツ屋のドーナツが喰いたいんだ」
「・・・・へ、へぇ??」

なら食べればいいじゃないか?と思うが口にはしない。
ひょっとしたら持ち合わせが苦しいのかもしれないし・・・。

「(あ、だから俺に奢って欲しいとか??)」

いや、でも相手はあの東上。
誰かに借りを作るのは嫌いなあの東上だ。
奢ってくれだなどとは口が裂けても言わないはず。

「でもさ!」
「う、うん・・・・?」

そこまで言うと何故かモゴモゴと言いにくそうにする東上に、
有楽町は再びボーゼンとしてしまう。
ハッキリしない態度の彼は大変珍しい。
いつでもその辺はハッキリしている性格の路線だから、
そんなに言いにくそうだということは、
やはり「金がないから奢ってくれ」とか言うつもりなのだろうか?
まぁ、別にドーナツの1つや2つくらいご馳走しても問題はないけれど・・・・。

けれど東上の口から出た言葉はやはり有楽町の思っていたこととは別のもので・・・。

「俺、ああいう店には入ったことがないから注文の仕方とかがわかんねーんだ!」
「・・・・へぇ・・・そうなんだ・・・、!!!って?え!?」

ないの??
と、おもわず突っ込みそうになったのを何とか飲み込んだ有楽町は偉いだろう。
東上も東上でやはり恥ずかしいのだろう。
顔を少しだけ赤く染め、拗ねたような口調で話を続けている。

「だ、だからさ・・・!お前がこれから休憩で、
 その・・・、甘いものが苦手じゃないなら・・・、
 そこのドーナツ屋で買うの付き合ってくれねーかな?」
「・・・・・・・」

あまりの衝撃に直ぐには返事が返せなかった。
確かに東上はファーストフードとかとは無縁な生活を送っていそうだし、
ドーナツ屋とかにも当然だが入ったりしないのだろう。
それがどういうわけか、彼は今、入ろうとしているのだ。
けれどはじめてのことでどうやって買ったら良いのか分からなく、
あの場所で立ち往生していたのだろう、という結論にも結びついた。

「有楽町?」

一向に返事を返さない有楽町に、東上は不安そうに名前を呼んだ。
ボーゼンとしていた有楽町はその声にハッと我に返り、
慌てて大きく頭を上下に動かすと、

「あ、ああ!構わない!
 俺も丁度あのドーナツ屋で買おうと思ってたからさ」

と、何とか返事を返すのだった。
有楽町の「YES」に東上は秩鉄といる時のような笑顔を浮かべ、
嬉しそうに「サンキュー」と言ってくるものだから、有楽町は落ち着かない。

ああ、このままだと変な失敗をして無様な姿を見せてしまいそうだ、
落ち着け、自分、と数回深呼吸をして、
気持ちを落ち着かせる為に今度は自分から話しかけた。

「それにしても珍しいよな」
「・・・なにが?」

何が珍しいのか?、
キョトンとした東上に収まりつつあった心臓がまたバクバクしたのは言うまでもないが、
そこは有楽町、数々の個性的な接続路線たちで鍛えられた心臓は最早ゾウよりも大きい。

「東上がああいう店で甘いものを買うのが、さ」
「・・・・・!ああ・・・、そうだな」

なっとくがいったのか、東上は小さく頷く。
そしてその後に苦笑しながらドーナツ屋に行こうと思った経緯を教えてくれた。

「越生がさ・・・」
「うん?」
「この前、八高のとこでミスターなんとかのドーナツを食べさせてもらったらしいんだよ」
「・・・・ミスター何とか・・?ああ!この店と同じくらい有名だよな」
「ふぅん?そうなのか?・・・俺はよく知らないけど・・・・」

本当に知らないのだろう、東上は困ったように笑っていた。

「(ひょっとして東上ってドーナツを食べたこともないのかな??)」

と、そんな考えが頭を過ぎったが、すぐにその考えは打ち消された。
ドーナツは味はともかくスーパーとかでも袋詰めで売っているし、食べたことくらいはあるだろう。
味は、感じ方は人それぞれだろうがやはりドーナツ屋のに比べたら数段落ちてしまうが。

「でさ、そのドーナツがすごく美味しかったらしくてさ・・・お、越生がさ・・・その・・・」
「!!?え??え??東上??どうした???」

何か悲しいことでもあったのか、東上の目には涙が浮かび始めている。
心の中で「えぇぇ?」と叫びながら、有楽町は慌ててとりあえずハンカチを差し出したが、
東上は手でそれを制して、話を続けた。

「俺に・・・ドーナツを作って欲しいって・・・」
「・・・・ドーナツを???」

東上は越生のおやつを大概は手作りしているのだろう。
だから東上に頼んでも不思議ではないのだが・・・・。

「でも、俺・・・、食べたことないからさ・・・、わかんなくて・・」
「あー・・・、まぁ、そうだよなぁ・・・。」
「だから今日、食べてみようかと思ったんだよ。
 ミスター何とかはどこにあるのか分からないから、
 東武百貨店のココにドーナツ屋があったのを思い出してさ」
「・・・・成る程・・・、でも買い方が分からないから困ってた、ってわけか」
「そういうことだ」
「じゃ、俺は丁度いいところに通りかかったってわけか」

有楽町がニッコリ笑ってそういった頃には二人の順番は回ってきていて、
しどろもどろの東上に変わり有楽町はとりあえずその店の代表的などーナツと、
季節ごとに変わるドーナツの一つと、飲み物を二人分買って会計を済ましてしまった。
東上は自分の分も支払われてしまい「え?」という顔をしたが、
ウィンクをした有楽町に、

「今回はご馳走するよ」

と言われ、借りを作るのが大嫌いな東上は慌てて自分の分を支払おうとしたが、
有楽町は受け取ってくれない。

「そんなの困る!!」
「・・・・なんで?」

あくまで支払おうとする東上に有楽町は少しだけムッとするが、
借りを作りたくないという東上の気持ちも理解していたので、
ある提案を持ち出した。
我ながら某JRのごとくなんだか狡賢くなった気もするが、
これはあくまで結果だ、だからヨシとしよう。

「じゃあさ、これは投資だと思ってよ」
「・・・・投資??」

何の話だ、とばかりに胡散臭げに有楽町の顔を真っ直ぐに見つめてきた東上に、
有楽町はコーヒーを片手にニッコリ微笑んだ。


「東上がドーナツを作ったらさ、俺にも食べさせてよ」
「へ?」
「東上が美味しいドーナツを作るための、これは俺からの投資。
 ・・・・・それならいいだろ?借りにはならないよ?」
「そりゃ・・・そーだろーけど・・・・」

それでもしばらくは納得がいかないのか、東上は渋っていたが、
有楽町がドーナツを勧めると、東上はドーナツを一口大に千切り口に運んだ。
その店の代表的なドーナツは周りが砂糖でコーティングされていて、
生地は柔らかく、東上の口に幸せを運んできた。

「・・・・美味い・・・!」

スーパーで売っている安いドーナツしか食べたことがなかったのでその味は衝撃的だった。
これなら越生が強請ってくるのも無理はない、と納得もしてしまう。
もくもくと、けれども美味しそうに食べる東上を見つめながら、
有楽町もドーナツに手を付け始める。
有楽町の様子を食べながらも窺っていた東上は、
ボソリと、聞こえるか聞こえないか位の小さな声で、

「・・・・投資はありがたく受け取っておく」

と、言い、どうやら有楽町に奢られる決意をしたようだった。
素直じゃねーなぁ・・・と、苦笑をしつつも有楽町はもう一つのドーナツを勧めた。
勧められるがまま2個目のドーナツに手をつけたとき、
東上はまた聞こえるか聞こえないか位の小さな声で何かを言ってきた。

「投資は受け取るけど、俺のドーナツはあまり期待すんなよな!」
「え?」
「・・・・っ、なんでもねーよ!こっちも食べるぞ!」
「・・・・・うん、どーぞ?」

もういつもの素直じゃない彼に戻ってしまっていたが、
実はさっきの言葉がはっきりと聞こえていた有楽町は大げさに肩を竦めて見せる。
だから有楽町も聞こえるか聞こえないか位の小さな声で東上に返事を返した。

「・・・東上が作ってくれたってだけで美味しいと思うけどね・・・」
「・・・・・っ!!!!」

果たして、有楽町の声は聞こえてきたのかいなかったのか・・・?
有楽町の瞳に映る東上の顔が真っ赤だったのがそれの答えに違いないだろう。


2010/11/14


ありがとうございました。 だんだんくっついてきそうですね!はい! 今回は有楽町→←東上になって・・・きてるかな??? 戻る