一人じゃ出来ない! 1の続き・・・?
東上線にドーナツをご馳走したのが数週間前。
その後に会ったときに休みの日程を聞かれ、
丁度、彼と有楽町の休みが同じ日があった。
そして『約束』であるドーナツの試作品を作るから来て欲しいと誘われたのが3日前。
今、有楽町は東上線宿舎の台所で東上と肩を並べてドーナツを作っていた。
〜一人じゃ出来ない! 2〜
「越生が食べたのもそうらしいけど、
この前食べたのも、真ん中には生クリームが入ってるのがあったよな」
「・・・ああ、そうだね」
東上がドーナツを揚げている間、有楽町は一生懸命に生クリームを立てていた。
今は生クリームを立てる便利な機械が存在するが、
東上宿舎にそんな便利機器があるはずもなく、
有楽町は手を棒にしながらも懸命に立てている。
少し前まで東上とは話をしても無視されたり、
癇癪を起こされたりと色々悩んでいたというのに、
今ではそれが嘘のようにこうしてお菓子まで一緒に作ってしまっている。
有楽町はそのことになんだか疑問を感じつつも、
こうして二人で何かをやることは思いのほか楽しく、
なんだか胸がホッコリと温かくなるので気にしないことにした。
「東上、これくらいでいいかな?」
いい加減に腕がきつくなってきたところで、
いい具合に「ツノ」が出来始めた生クリームのボウルを東上に見せるべく、
油を使っている彼に近寄った。
東上もドーナツは全て揚げ終わったのか、
コンロの火を止めると、どれどれと有楽町の持つボウルを覗き込む。
「あー・・・、うん、まぁ、いいんじゃね?」
けれど返って来た返事はいささか頼りないもので、有楽町は苦笑するしかない。
「ははっ!なんだよ、それ」
すると東上はムッと口を尖らせ、少し斜め下から見上げながら、
「仕方ねーだろ?俺、生クリームなんて滅多につかわねーんだもん!」
と、エッヘンとばかりに言うものだから、
有楽町はキョトン、としたのちに盛大に笑い始める。
「くくくくっ、・・・・っ!!
そっか!そーだよなぁ・・・!
ドーナツ屋に行ったのもあのときが初めてだったもんな?」
「!!!うっせーな!笑うなよ!!」
東上の足が有楽町の脛を軽くコツン、と蹴る。
大分、力加減をしているそれは全く痛くはなかったが、
小さな声で「いてっ」と言うと、お返しとばかりに東上の頭をガシガシと撫でた。
「!うわっ!!やめろって!!」
ハタから見ればバカップルのようなこのやり取り・・・。
けれど二人ともがお互いの気持ちすら自分自身で気がついていないので甘いものにはならないのだ。
「東上は照れると足が出るのか〜。新しい発見だな」
「・・・・っ、う!」
ニッコリ笑いながら東上を見れば彼は少しだけ剥れていた。
そんな東上の頭から手を放すと、何を思ったのか
「この生クリーム、味見していいか?」
と自分の持っているボウルを指差しながら聞く。
一方で有楽町の照れると足が出る、発言に頬を赤くしていた東上は、
照れ隠しなのか、剥れながらもより一層口をへの字に曲げて、小さく縦に頷いた。
お許しが出たところで、有楽町はボウルの中に指を入れて少しの量の生クリームを掬い取る。
「(・・・あ、手で取ったけど大丈夫だったかな??)」
もう既にやってしまったことだが、今更ながらに自分の行儀の悪さを思い、チラっと東上を見たが、
彼はそんなことはどうやら気にならない様子で、「味はどうだ?」と首を傾げている始末だ。
「(案外、大雑把な性格なのかな?)ちょっと待って・・・、・・・・」
指についた生クリームをペロリと舐める。
舌の上で広がった仄かな甘みは、
お店で売っているものほどではないが「ツノ」の立ち具合といい丁度いい塩梅だ。
「うん。こんなんじゃないかな?」
「本当か?」
「ああ。東上も味見してみる?」
何気なしに、そう、有楽町は本当に何気なしにそう聞いて、
自分の指を再びボウルの中にいれ中の生クリームを掬い取ったのだ。
「ほら、自分で確かめるのが一番手っ取り早いと思うよ?」
と、やはり何気なしに自分の指を東上の口元へ持って行った。
東上は一瞬だけ目を瞬かせたが、生クリームは目の前にあるし、
何気なしに・・・、というか何も考えずに口を開き有楽町の指を口内に迎え入れるのだった。
「・・・・んっ・・・、甘い・・・」
ざらついた舌が有楽町の人差し指を舐めあげる。
その瞬間、ザワリと背筋を何かが走り抜けたのが分かった。
「(・・・あ、あれ??なんだ?今の・・・、てかそれより・・・)」
有楽町の指にはまだ生クリームが残っているのだろう。
東上は目を細めて有楽町の指を舐めている。
どうやらことの重大さにはまだ気がついていないようだ。
対する有楽町は自分がしでかしたことに気がついたらしく、
最初は青くなったが、すぐに全身を真っ赤に染め始め、
終いにはなんだかおちつかなげに口をパクパクさせ始めている。
そして生クリームを舐め終わったのか、東上は口の中に指を含んだまま感想を述べた。
「ん・・・甘いけど・・・丁度いい仕上がりだな・・・って、有楽町??」
そこまで言ったとき、目の前にいる有楽町がカチンコチンに固まっていたことに気がつき、
不審に思い顔を上げて彼を見るのだった。
「・・・・????お前、どうしたんだ??」
見れば有楽町は真っ赤な顔のまま硬直している。
手に持っているボウルは今にも彼の手からずり落ちそうで、
東上は慌ててそのボウルに手を添えた・・・、その時だった。
東上の手が有楽町の手に触れ、弾かれたように有楽町がピクリと動き始めた。
「・・・!!うわぁぁぁぁっ!!」
「へ???!!!???あ、ばかっ!!」
口に入っていた指が抜け、同時にゴトンという音が台所に響く。
生クリームの入ったボウルは有楽町の手からはなれ、
無残にも床に散らばってしまったようだ。
当然、東上は眉間に皺を寄せて有楽町を罵ったが、
上のほうはまだ使えるじゃん、と床に屈みボウルを起こし、生クリームを拾おうとした時だった。
「(流石に手で拾うのはまずいよなぁ・・、味見じゃあるまいし・・・。ん?味見??)」
『味見』という言葉に今度は東上が真っ赤になる番だった。
それと同時に有楽町が固まっていた理由も分かったのだ。
「(お、おおおおお俺!俺!!今、何してた!!?どうやって味見した??)」
床にかがみこんでいた東上は真っ赤な顔で有楽町を見上げる。
彼もまたいまだに真っ赤な顔で東上を見下ろしていた。
そして床に零してしまった生クリームに視線を移すと、
ゴメン、と小さく呟いて自分も屈みこみ生クリームを拾おうとする。
「あーあ・・・、こんなんじゃ使えないよなぁ」
真っ赤な顔で苦笑いをしながら床に落ちた生クリームを指で掬い、もう一度舐めた。
その時に赤い舌が少しだけ垣間見えて、東上は何故か心臓がバクつくのだった。
「(・・・・な、なんだよ!?これは!!!)」
東上は迷いを断ち切るかのように頭を左右におもいきり振る。
そうだ、今の自分はどうにかしているのだ!有楽町があんなことをするから!と、
どうにか自分を納得させ、しどろもどろに何とか口を開いた。
「ま、まぁ・・じょうがねーよ!上のほうは大丈夫だろうし別の容器に移し替えて・・・」
と、自分も床に零れた生クリームを指で掬おうとした時だった。
またも有楽町の手と東上の手がふれあい、お互いが弾かれたように手を自分の方へと引っ込める。
当然、二人とも真っ赤なままだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
数十秒の沈黙が、お互い見つめあったまま続いていた。
そして先に動き出したのは有楽町だった。
手に生クリームをつけたまま、再び東上の口元へ自分の指を持っていった。
人差し指と中指で軽く唇に触れ、そっと撫でると、
目を大きく見開いた東上は、コクンと小さく唾を飲み込み、
誘われるがまま小さく口を開いて有楽町の指を招き入れる。
口内へ誘われた指は東上の前歯をそっと撫で、そのまま奥歯の方まで移動させる。
奥歯をそっとなで、そのまま頬の内側を撫で、ようやく熱い舌に到着した。
二本の指でざらつきのある表面を優しく撫でると、
東上は舌を機用にゆっくりと動かしはじめた。
二本の指の間に舌を割り込ませ、丹念に生クリームを舐めていく。
生クリームのついていた東上の手は自身に差し出されている有楽町の右手首を握り締めていた。
「・・・・ん、・・・・んん・・・・」
自分の指を舐めている東上の赤い舌がチラチラ見えるたびに有楽町は落ち着かなくなっていく。
心臓は大きく打ち続け、下半身には覚えのある疼きが灯っていく。
東上のソコも自分と同じようになっているのだろうか?
気になって有楽町は生クリームで服が汚れるのも気にすることなく東上との距離を縮める。
寄り近づいて指を舐める東上を見下ろせば、
彼の目にはいつの間にか溢れんばかりの涙が浮かんでいるではないか。
「・・・苦しいのか?」
優しく問いかければ東上はフルフルとそれを頭を振ってそれを否定した。
それだけでなんだかとても熱いものが有楽町の胸を焦がし、
東上の口内に入っている自分の指を動かして、彼の舌の裏部分を撫でてやった。
「んっ!!・・んーーー!」
流石にそれは少しだけ苦しいのか、
目を閉じた東上は苦しげに有楽町の手首を持っている力を強めてきた。
「・・・これは苦しいんだ?」
「・・・ん・・・」
東上が無言で頷く。
ああ、苦しそうな顔は好きじゃない。
もっと気持ちよさそうな顔がみたいな・・・・、と有楽町は強く思う。
「じゃあ、これは・・・?」
「・・・ん?」
有楽町は口内から指を引き抜くと、その手を東上の顎に添えた。
東上の頬は彼自身の唾液で濡れていく。
「・・・ゆうらく・・・・」
『有楽町』と最後まで呼べなかった。
その前に東上と有楽町の唇が重なり合っていたからだ・・・・。
翌日、メトロの休憩室で有楽町は頭を抱えていた。
あの時、吸い込まれるように東上と口を合わせていた。
東上の体を抱きしめながら、東上に抱きしめ返されながら夢中で口を吸ったり吸われたりしていたら、
遊びに行っていたであろう越生が帰ってきたのか、越生の声がして、
弾かれたように東上から身体を離した。
どうやらそれは東上も同じだったようで、
口が離れた瞬間に泣きそうになっていたのだ。
有楽町はなんだか居た堪れなくなり、
というより東上のそんな顔は見たくなくて勢いよく立ち上がると、
そのままバタバタと廊下を走り、
すれ違う越生に挨拶もロクにしないまま逃げるようにメトロの宿舎へ戻ったのだ。
「(あーー!何であんなことしたんだろ??俺ってば欲求不満??
いや、そうじゃねーだろ!?・・・てかそれよりなにより・・・・)」
最後に見た東上の表情がずっとひっかかっていた。
俺とのキスがそんなに嫌だったのだろうか?
そうだとしたら嫌だな、傷つくな、落ち込むな・・・・、
と、グルグル考えていたとき、
またも以前に武蔵野が言っていた言葉が頭を過ぎったのだ。
『お前って自分のことには疎いんだな』
『疎い』=『鈍い』。
「(なんだってこんな時に・・・。
今はそれよりも東上だろ・・・、て)あーーー!!」
叫びながら有楽町は座っていた椅子から勢い欲立ち上がった。
幸いにも他のメトロは誰一人いなかったから有楽町の百面相は見られずに済んだが、
ある事実に気がついた途端、というか認めてしまった瞬間に心臓が妙に早く脈打っていく。
「待てよ・・・、待てよ、俺!!落ち着け!!
相手はあの東上だぞ!?あの一番扱いにくくて、偏屈で・・・でも時々可愛くて・・・、あ!」
そうだ、以前から自分は時々、最近では頻繁に東上を可愛いと思うことが多々あった。
東上が自分以外の誰か(あの時は八高と秩鉄だったが)と一緒にいるのも腹が立ったし。
こんなに前触れがあったというのにどうして気がつかなかったのだろう?
いや、それは武蔵野が指摘している通り『疎い』からに他ならないのだろうが・・・。
有楽町はガックリと肩を下ろすと再び椅子に腰掛ける。
「どうしよう??どうしたらいいんだ??・・とりあえず告白???
てか東上も俺とキスしたって事は俺を好きなのか??秩鉄はいいのか???
あー!もうっ!ぜんっぜんわかんねーんだけど!」
普段から真面目で優等生な彼は自分のことになるとパニックに陥るらしい。
これからどうしよう?と有楽町が一人頭を抱えているメトロの休憩室のドアの外では、
唖然としている半蔵門と面白そうに笑っている丸の内、そしてニコニコ笑っている銀座がいたという。
有楽町の試練は続く・・・・。
2010/11/23
ありがとうございました。
この二人の話もあと少しで終わりますね。
他の話も書きたいのですが、この二人の話は最後までまとまっているので、
とっととくっつけちゃいます!!
なのでさいごまでお付き合いくださいますと嬉しいです。
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