グローバルな気持ちのちょっと前の話しのようなもの。
副都心は最近面白くなかった。
先輩である有楽町がルンルン♪とまではいかないが、
すごーくご機嫌だからである。
勿論、そのご機嫌の理由も分かっている。
有楽町は最近、とある人物と恋仲になたのだ。
相手は自分もよく知っている相手で、
だからこそ正直、納得がいかないのだ。
「(よりにもよってあの人だなんて・・・・っ!)」
副都心も知る『あの人』とは、
人見知りが激しい極度な篭りがちな路線で、短気で手も足も速いのだ。
長い前髪に顔が隠れているせいか暗いイメージは拭えないし。
まぁ、『新線』の頃から一緒に走ってきたのでたいした害がないことは分かっているが、
正直、有楽町には相応しくないと思っている。
「(先輩にはもっと相応しい人がいるはず・・!例えば僕とか!
あの人は先輩を好きなわけじゃない・・・!
ただ寂しいから優しくしてくれる先輩に靡いただけだ・・・!
うん、きっとそうだ!)」
副都心は何を思ったのか、ニッと笑うと急いで宿舎へと戻るのだった。
〜後輩の可愛い悪戯と恋の芽生え〜
東上が和光市につくと有楽町線が新木場方面から戻ってきたところであった。
そういえば今日はまだ会ってなかったな、と少しだけ頬をピンクに染めて、
東上は有楽町線の車両へ早歩きで近づいた。
電車が停車位置にピッタリと止まると、少しして中からサラリーマン風の男が出てくる。
東上は手を上げて有楽町の名前を呼んだ。
「ゆーらくちょー!」
有楽町は東上の声に気がつくと、同じように手を上げて東上の名前を呼んだ。
「東上!」
東上が有楽町の前に着くと有楽町は手を広げ抱きしめようとした、が、
東上はピタッと体の動きを止め、ジー・・・と有楽町を何故か見上げてきた。
「東上?」
どうしたんだろう?と、広げた腕を下ろし首を傾げれば、
東上は眉間に皺を寄せて有楽町を睨んでいる。
「どうかした?そんなに睨んで・・・、俺、何かした??」
やや困ったように苦笑して東上の身体に手を伸ばす。
けれど東上は、
「・・・・・いや、別に・・・」
と、首を左右に振って否定しながらもヒラリと伸ばした手をかわされてしまう。
「別にって・・・ならどうして俺から逃げるわけ??」
「・・・・お前に抱きしめてもらう理由がないからだ」
「??どうして??」
有楽町はゆっくりと前に一歩進み、東上に近づくが、
東上は険しい顔をしたまま有楽町から遠ざかる。
「なぁ、東上。俺たち付き合ってるんだろ?なら抱きしめてもいいと思うんだけど?」
「・・・・俺はお前とは付き合ってない」
「え?・・・」
東上の言葉に有楽町は悲しそうな顔でまた一歩、東上に近づく。
「付き合ってると思ってたのは俺だけってこと?」
そして逃げる東上の腕を掴み引き寄せようとしたら、
その手はバチンッと振り払われ、逆にネクタイを掴まれて引っ張られてしまうのだった。
「うわっ!東上!苦しいって!!」
ネクタイを引っ張る手首を掴み外そうとするが、
「お前、一体何のつもりだ!副都心!!」
と、顔中に不機嫌さをかもし出している東上の一言に『有楽町』は口端を上げて笑った。
「・・・・・・・!・・・・へぇ?」
東上はネクタイを放し、有楽町、ではなく副都心の胸板を押して自分から遠ざける。
「気がついてたんですか?と、いうか始めからわかっていたんですか?」
クスクスと笑いながら副都心は自分の頭から鬘(かつら)を取外す。
『新線』の頃は有楽町と同じ髪型であったが、
『副都心』となった時に切ってしまったので、
『有楽町』になるべく鬘をかぶったのだった。
「・・・なんで気がつかないと思ったんだよ?」
「・・・・貴方は別に先輩を特別に好きだとは思ってなかったもので」
「・・・・!」
「でもそうでもなかったみたいですね〜、どうしてわかったんです??」
「どうしてって・・そんなの当たり前だろ!第一に目が違うし!・・・アイツは目も金だ」
「・・・・・!ああ、そうでしたね」
「それに目線の高さも違う。お前は有楽町よりでかいだろ?」
「確かに・・・・!なるほどねぇ・・・・」
「それに・・・・・」
「?」
東上はそこまで言うと、何故か耳まで真っ赤に染めて俯いてしまった。
どうしたんだろう?と副都心は「なんです?」と少しだけ声とトーンを落として尋ねる。
正直、今の副都心は機嫌が悪いのだ。
結構自身のあった有楽町のマネも直ぐに見破られてしまったし、
東上の有楽町への想いの強さも思っていた以上に深いようなので面白くなかった。
けれど・・・・・。
「それに・・・・、雰囲気がぜんぜんちがう・・・。
アイツは俺と話すときとか・・・もっと優しい雰囲気っていうか・・・・その・・・」
東上はもう顔だけではなくきっと全身が真っ赤にそまっているのだろう、
ということが、身体が見えていなくともわかった。
身体をモジモジさせ、恥ずかしそうに小さな声で話す姿は、
まるで小動物が甘えてきているようで可愛らしかった。
「・・・(・・・あれ??なんだろう??僕、今、東上さんを可愛いとおもった?)」
「だからその・・・目の温かさが違うっていうか・・・・、
お前、外見はそっくりで驚いたけど・・・やっぱ眼の温かさが違うから分かった」
「・・・・・・・」
東上が恥ずかしさを堪え、告白、というか惚気を言い終えたとき、
目の前にいる副都心から何の返事もなかったので、
東上は顔を真っ赤に染めたまま不審そうに上を見上げる。
「・・・副都心?」
「・・・・!え?・・・あ!」
「お前、どうしたんだ??」
普段は嫌味なくらいに丁寧な口調で皮肉のようなものを言っているのに、
なぜか黙ったまま突っ立ている副都心に東上は下から覗き込んで顔色を伺う。
有楽町になりすましたり、急に黙ったり、
今日の副都心はどこかおかしい(いつもおかしいがそれ以上に)。
一体、何がしたいのかが本当に分からないし、
こうして黙られてしまっては更に分からなくなる。
「お前、熱でもあるのか??」
「・・・・い、いえ・・・そんなことは・・・ない、です」
「ふぅん?なら変なモンでも喰って腹でも痛いのか?」
「・・・・お腹も痛くないです」
「・・・・ならどうしてあんな真似したんだよ?急に喋らなくなるし・・・」
「それは・・・・・」
あんな真似、それは有楽町の真似事のことに他ならないだろう。
それについての理由は明確だ。
ダイスキな先輩を奪った東上の愛情を試す為だ。
正直なところ、自分と有楽町の区別がつくとは思っていなかった。
そして気がつかなかったらそのままキスでも何でもして、
そのことを、東上は浮気性なんだと有楽町に報告し別れさせるつもりだったのだが・・・・。
けれど今、東上を目の前にして副都心は有楽町といる時のような緊張感に襲われている。
その緊張感の『理由』も分かっている。
分かっているからこそ、戸惑い、なにも喋れなくなってしまったのだ。
「副都心?」
ドギマギして本当に何も話さなくなった副都心に、
東上は具合が悪いんだろうと、
熱を計るべく副都心のおでこに手を伸ばす、が、
その手は副都心に払われ、
折角の人の親切心を、と文句を言おうと副都心を見上げた時、
頬をピンクに染めた彼と目が合い、
「な、なんでもないです!!僕はもう行きます!!!」
と、副都心は颯爽と有楽町線の車両に乗り込み出発してしまった。
ソレとほぼ同時に副都心線の車両に乗った有楽町が現れ、
逃げる副都心に向かい怒りの言葉を投げかける。
「コラーーー!!副都心!お前はぁ!!」
まぁ、有楽町の怒りは最もだろう。
自分の車両を海賊ならぬ路賊されたのだから。
しかし慌てて逃げる彼に着いたばかりの有楽町が追いかけるわけにもいかず、
はぁ・・・と大きなため息をついたところで東上に話しかけられた。
「アイツ、熱でもあるんじゃねーのか?」
「!東上・・・・、熱って?」
「なんか知んねーけど、会った時お前の真似っ子してたし」
「はぁ!?」
有楽町は目をパチクリさせて東上を凝視する。
どうやら俄かにはその言葉を信じられないようだ。
まぁ、それはそうだろう。
東上だって自分の目で見たのでなければ絶対に信じない。
「開通して異例の速さでダイヤ改正して、
あんな図太そうなヤツでも疲れが溜まっておかしくなったのかもな〜」
「・・・・い、いや・・・どうなんだろう?今朝は普通だったけど・・・」
「ふぅん・・・?ま、俺はダイヤが乱れなければ別にいいけど、
身体は大事にしろって伝えておいてくれよ」
「あ、うん・・・わかった。」
有楽町はまだ納得がいかないのか返事も曖昧だ。
そんな彼に東上はそっと寄り添うように近づくと、
何故か恥ずかしそうに俯いてしまったので有楽町は優しく聞いた。
「東上?どうかした?」
「・・・ああ、・・・あいつってさ、お前にそっくりなんだな外見」
「へ?」
「さっき、言っただろ。現れた時お前の真似っ子してたって。
お前と同じ髪型の鬘を被ってさ・・・、遠目から見たときは本当にお前だと思った」
「・・・・・」
そこまで言うと東上は顔を上げて本当に恥ずかしそうに、
それはもう初めてキスしたとき以上に恥ずかしそうな顔で続きを言い始める。
「でもすぐに気がついたけどな、お前じゃないって。
こ、これって・・・その・・・やっぱ、さ・・・あ・・ああああ、・・」
「・・・・??『あ?』」
『あ』なんだというのだろう?
そんなに顔を真っ赤にしっちゃって、まぁ・・・と、
苦笑しながら東上を抱き寄せようとした、が・・・・、
「だから・・・その・・・あ、あ、・・・愛の力って・・・ヤツ・・かな・・・?なんて・・」
と、もう恥ずかしさのあまり目に涙を溜めながら言う東上にクリーンヒットさせられ、
有楽町は東上以上に一瞬にしてボッと顔に火がついてしまうのだった。
「と、とととと・・とーじょー・・・??」
抱きしめようとしていた手は肩に置かれ、目を瞬かせて東上を見下ろす。
「だって、そうだろ?あ、あんなにそっくりなのに直ぐに分かったんだぞ?
目の色を見る前に・・雰囲気だけで・・・、それって、さ・・・その・・・」
「・・・・っ、あー・・!もうっ」
「へ?・・・うわっ」
有楽町は話し続ける東上の言葉を封じるように強く抱き寄せた。
普段は必要最低限な事以外は本当に話さないのに、
どうしてこうして嬉しいことを言う時は饒舌になるのだろう?
しかもソレを知っているのは自分だけかと思うとたまらない愛おしさがこみ上げてきて、
有楽町は 強く、強く、抱きしめた。
「・・・っ、・・く、苦しいって・・・ゆうら・・んっ」
「東上、・・・それ以上可愛いこと言うなよ・・・?抑えられなくなるだろ?」
「んっ・・・んっ・・・」
これ以上、可愛いことを可愛い顔で言われたらこの場で押し倒してしまいたくなるから、
それを避ける為、つまりは自分のために有楽町は角度を変え、何度も東上に深く口づける。
唇を啄ばみ、戸惑い逃げる舌を強く吸い続けた。
「・・・・ぁっ・・・、ゆうらく・・・ちょ・・・・」
「東上、ありがとう・・・・」
「・・・・ぇ・・・?」
「直ぐに俺じゃないってわかってくれて、さ」
「そんなの当たり前・・・・ふ・・・ぅ・・・」
「うん、でも・・本当に・・・うれしいから・・・」
キスの合間に、「ありがとう」と「うれしい」、「当たり前」を繰り返す二人。
そのやり取りはなかなか電車が発車しないため、
不審に思った東上線と有楽町線の職員が呼びに来るまで続いていたという・・・・。
一方、小竹向原についた副都心線は、
丁度居合わせた西武有楽町をとっ捕まえて、
なにやら相談を持ちかけていた。
当然、幼い西武有楽町は話しの殆どがチンプンカンプンであったが、
恋の相談ということは分かったので、自分が思ったことを口にした、
「それは恋の芽生えというものだ。会長もそうおおせである!
・・・・一度に二人を好きになっても良いのではないか、と私は思うぞ」
と、幼い西武有楽町に諭され泣く泣くその事実を受け入れることにしたらしい。
そして受け入れてしまえば気分は晴れ晴れしたもので、
次に会ったときにはどんな会話をして彼を怒らせようか、
それが楽しみになってきたというから困ったものだ。
副都心はマゾではないが有楽町といい好きな人に怒られる、というのがどうやら好きらしい。
まぁ、その前にその日の夜に勝手に有楽町線をのっとたことを、
有楽町とメトロの親分である銀座にこっぴどく怒られたのだけれども・・・・・。
2010/10/17
ありがとうございました。
有楽町×東上←副都心の話のプロローグ的な話し。
最後に西武有楽町が出てきたのは私の趣味です。
可愛いですよね♪
西武有楽町と越生と、西武池袋と東上のほのぼのなお話をかきたいのですが、
そんなの好きな人いるのか?といま考えあぐねいている最中でございます。
BLな話も好きですが、ほのぼのも好きなんですよ☆
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