keeping secretの続きのようなもの
〜まずは貴方から頂きます!〜
「相変わらずですねぇ・・・」
一通りの言い争いを終え、双方が疲れたのかお互いに自社の駅へと戻っていく。
後方で西武と東武のいさかいが終わるのを眺めていた副都心は、
東上がクルリと振り向いたところで声をかけた。
当然だが、東上は嫌そうな顔をする。
「ふふ・・。そんな嫌そうな顔をしないでくださいよ」
不適で且、読めない笑みを浮かべながら副都心は東上へと近づく。
けれど東上からみれば副都心は恋敵なのでフイと顔を逸らし、
自社の休憩室へと足を進めた。
副都心は当然のようにその後に続くのだった。
「・・・ついてくる気かよ?」
「ええ。僕は今から休憩なんで。東上さんもでしょう?」
なんでそんなことを知ってるんだ?と思いつつも東上は小さく「ああ」と返事をする。
東上は警戒心が強いが、こうして変なところで警戒心がなかったりする。
つまりしっかりしているようで実は抜けているのだろう。
おまけに鈍い。
でも副都心の有楽町に対する気持ちは気づいているようなので、
救いようのない鈍さではないのかもしれない。
そう、東上の鈍さは「自分に関すること」に絞られるのだ。
現に副都心の東上に対する気持ちには気がついていないのだから。
先日、まずは有楽町からいただこうとしたら見事に逃げられてしまった。
ならば・・・と、押さえ込みやすい東上から頂こうと、副都心は機会を狙っていた。
自分と東上、休憩時間が重なった。
副都心のもう一人の想い人、有楽町は今は新木場にいるはずだ。
つまり、邪魔者がいないのだ。
東上に続き東武の休憩室に入った副都心は、一人心の中でほくそえんだ。
「それで?」
「あ?」
休憩室につくなり、副都心は東上に質問をした。
だが「それで?」だけでは意味の分からない東上は不機嫌そうに副都心を睨みあげる。
「怖いなぁ・・・、そんなに睨まないでくださいよ」
「睨んでねぇよ。コレがコレの真顔だ!」
「・・・・へぇ?」
そんなことはないでしょう?と心の中で呟いた。
なぜなら副都心は知っているからだ。
秩鉄や越生、そして今は有楽町もだが、彼らといる時の東上の顔は常に綻んでいる。
武蔵野といる時は眉間に皺がよっているが、
自分に向ける「睨み」とはまた別のものだ。
西武にむけるのは完全な怒りで、それ以外は常に彼は無表情だ。
そんな彼の真顔が「睨み顔」でないことは副都心は百も承知だった。
「それで東上さん」
「だからなんだよ!?」
「今回はなんで西武さんと争っていたんです?」
「!」
「先輩というストッパーがいなかったのによく殴りあいになりませんでしたねぇ」
あなた方も成長してるんですね!と、小ばかにすれば、
副都心の目の前にビュンッというものが横切った。
「うわっ!」
副都心が間一髪、東上の拳を避けると東上はチッと舌打ちをする。
「・・・ちょっと!危ないですよ!」
「・・・避けたんだからいいじゃねーか」
東上は悪びれもせず残念そうに副都心を見上げる。
まぁ、考えてみれば東上に殴られる(未遂だが)というのは初めてなので、
彼もだんだん副都心になれてきているのかもしれない。
副都心はクスッと笑ってもう一度何があったのかを聞くのだった。
「で?どうして喧嘩していたんです?」
「・・・そんなに気になるのかよ?」
「ええ、まぁ・・・」
「お前も物好きだよなぁ」
「そうですかねぇ?」
苦笑する東上に副都心はニヤッと笑う。
休憩室の入口付近で座ることなく立ったまま東上はヤレヤレと話し始める。
副都心はまだ大人になって数年だからこうして「ねぇ、どうして?」、
と聞かれるとなんだか断りづらいのだ。
・・・・越生や大師と多少、重なる部分があるのかもしれない。
ナリが大きくなってもまだ子供、といったところだろうか?
「西武が百貨店の売り上げの件で食って掛かってきたんだよ」
「百貨店の売り上げ・・?東武と西武のですか?」
「・・・ああ。
『お前達は百貨店の売り上げも我が西武に劣っている』とか抜かしてきやがった」
「・・・・確かに東武百貨店は西武百貨店に比べて多少、売り上げは落ちますよねぇ。
でもそれって立地のせいでしょう?西口には丸井さんと東武さんくらいしかありませんし」
「だろ?俺もそう思って食って掛かったら・・・」
「・・・かかったら?」
その時のことを思い出したのか、東上の顔が苦いものになる。
拳をギュッと握り、吐き捨てるように言った。
「『負け犬の遠吠えだな』」
「・・・・!」
「あのやろぉ・・・、そう言いやがった・・・」
みるみる眉間に皺のよる東上に対し、
副都心はブッと噴出し、東上はギロッと睨むのだった。
「なに笑ってやがる!?」
「ふふふっ・・・、すみません・・・。でもそう言われてしまっては何も言い返せませんよね。
・・・・ああ、でも・・・・」
「なんだよ?」
「東上さんだって西武さんに勝てるところあるじゃないですか?」
「あぁ!?そりゃ、俺はいつも西武に負けてるってことかよ?」
「・・・そういうわけでもないんですが・・・」
副都心は東上に1歩近づくと、ニコッと笑って言うのだった。
「・・・秩鉄さんのことでは負けたでしょう?少なくとも・・・、ねぇ?」
「・・・・ぐっ!!」
副都心お得意の古傷を抉る攻撃に衝撃を受けた東上はズーンと肩を下ろす。
そんな様子にはお構いなしに話を続ける副都心。
「でも秩鉄さんには捨てられてかもですが、」
「・・・俺は捨てられてねぇ!!」
「・・・まぁ、その辺は横においておいて」
「横に置くな!だいたい・・・!!」
その後もぎゃいのぎゃいのと叫んでいたが、副都心は無視して話を続ける。
「不二○さんは東武さんを捨てませんでしたよ?西武さんからは撤退しましたけどね」
「・・・・不○家??」
「そうです」
・・・そういえば何年か前に○二家が不祥事を起こしたとき、
不二○はお店を大分たたんでいた。
当時、西武にも東武にも不○家のレストランがあり、
○二家は西武からは撤退したが、東武には残ったのだ。
あの時の西武の怒りは思い出すと今でも優越感がわくものだ。
「・・・そういやそうだったな」
「でしょう?それに・・・」
「ああ・・・」
不二○の件でご機嫌が多少、直ったのか・・・、
東上は副都心の話しに耳を傾け始める。
しめしめ、と心の中で笑いながらまた一歩東上に近づく。
「それに・・・」
東上の耳元に口をよせ、囁くように言った。
「それに西口は東口よりラブホテルが充実してますよ」
「!?」
吐息とともに囁かれた単語に東上は全身に火がつき真っ赤になった。
副都心は面白そうにそんな東上を見下ろす。
「なにを赤くなっているんです?先輩と、よく行くでしょうに」
「・・・!な、な、・・ななななっ」
「ねぇ?東上さん・・・、先輩は何と言って貴方をホテルに連れ込むんですか?」
「!!!!?」
東上は真っ赤になって、ブルブル身体を震わせながら、
それでもやっとの思いで副都心を殴りにかかる、が・・・。
「おっと・・・!」
拳は易々と捕らえられ、挙句に腕は背中に回されてしまい、痛みに東上の顔が歪む。
「痛っ!!」
「・・・ああ、すみません」
副都心は一度、手を離すと東上の左腕を素早く掴み、東上の背中に回す。
そして右腕で東上の両腕を背中に拘束すると、
左手は東上の顎に沿えクイッと上に向けさせた。
「東上さんは乱暴ですよねぇ・・・。でも単純だから押さえ込むのは楽ですけど」
「なっ!?」
俺は単純じゃねぇっ!と真っ赤になって叫び、暴れるが拘束は外れない。
頭上からクスクス笑う副都心の声が聞こえ、怒りだけが先回りしていく。
「東上さん、僕の質問にまだ答えてませんよ?
先輩はどうやって貴方を連れ込むんです?」
「・・・っ!知るかよ!?だいたい!知ってどうするんだ!?」
「・・・・ふふ、野暮ですねぇ」
副都心は今一度、東上の耳に顔を近づけると、カリッと耳朶を噛んだ。
「うひゃっ!!」
耳元で副都心が笑う気配がする。
それと同時に耳朶の後ろに濡れた感触がして、
耳朶の丁度後ろ辺りの首筋をチュッと据われるのだった。
東上の背中にゾワワワワッと悪寒が走った。
「こ、この!!やめろ!!」
「ふふっ・・・・」
バタバタ、がむしゃらに暴れるが拘束は外れない。
その間も耳元でクスクス笑う副都心だったが、
フイに耳元から気配が消え、フッと目の前が翳っていく。
「・・・・?」
「・・・・東上さん・・・、僕と、ラブホに行きません?」
「・・・は?・・・!!ん、んんんぅ???」
『ラブホに行きません?』に驚いてポカンと口を開けた間抜けな顔をしていたら、
すかさず副都心に唇を掠め取られ、舌まで侵入を許してしまった。
「んんっ・・・、は・・・うっ、・・」
濡れた音を立てて、唇が離れ、合間に副都心が囁く。
「ねぇ?東上さん。僕とホテルに行って、そこで教えてください。
先輩がどうやって貴方を誘うのか・・・、抱くのか。
僕は先輩が好きだから、あの人のことは全て知っておきたいんです」
・・・もちろん貴方も同じくらい好きですけど、と心の中で呟きながら。
でもまだ言わない。
言ったら面白くない。
・・・・もう少し、東上が自分の言動で傷つく様子を愉しみたい。
副都心は腹黒くそう思いながら、再び東上にキスをしようとした、その時だった。
「・・・・!!ぐぇっ!!」
鳩尾に急激な痛みを感じたかと思ったら、
その衝撃に思わずはなしてしまった東上の腕が自分のネクタイを引っ張り、
前かがみになった、と思ったときには胸倉を掴まれており、
さらには宙にまって、気が付けば床に尻餅をついていた。
東上を見上げれば、はぁはぁと息を乱しながら仁王立ちして副都心を見下ろしていた。
コメカミにははっきりと青筋が浮かんでいる。
「・・・調子にのんなよ・・・っ、この!若造が!!」
「・・・若造って・・・(僕??)」
「誰が!あの時の有楽町の様子を教えたりするかよ!?
そんなに・・・せ、せせせせ・・・」
「・・・・せ?」
「セックスに興味があるなら西武でも誘って押し倒しておけ!このエロガキ!!!」
言いなれない単語を真っ赤になって叫びつつ、東上は自信の休憩室から足早に去っていく。
残された副都心はポリポリと頭を掻きながら、
「うーん・・・、単純で押し倒しやすいと思っていたけど違ったようだ」
と呟いていた。
蹴られた鳩尾と、尻餅をついたお尻がズキズキ痛む。
けれど副都心は東上の言葉を思い出し、ニヤッとなぜか笑いを浮かべた。
「・・・でも面白いことを言ってましたよね。
西武さんを押し倒しておけ、とかなんとか・・・・。
ふむ?考えたことはなかったけど・・・・」
副都心は立ち上がるとパンパンと尻を叩き、西武池袋を思い出してみる。
有楽町、東上と同じく「新線」の頃から彼とも走ってきた。
まだ子供であった自分に西武は時折、声をかけてくれたりもしたものだ。
まぁ、東上に比べたらその回数は格段に少なかったが。
「・・・なるほど、西武さんね。
先輩や東上さんほどときめきませんが、面白いかもしれませんね」
フフッと笑って東武の休憩室を後にする副都心。
その顔はとてもとても黒く笑っていた。
数日後・・・・。
「あれ?西武?」
有楽町が池袋に着くとなにやら青い顔をした西武池袋とすれ違った。
いつもなら会えば電波な会話を一方的にしてくるというのに、
今回は自分を見るなり何故か怯える西武。
「き、きききき貴様は営団の有楽町!?」
「???(なんだか様子が変だな)お前、どうかしたのか?様子が変・・・、あれ?」
「な、なんだ??」
西武の首筋をみるなり首を傾げる有楽町。
スッと半歩近づくと、何故か2歩下がる西武。
「(????なんなんだ?)池袋、それ・・・」
「なんだ??どれだ???」
「うん。だからさ、その首の・・・」
指でその場所を差す為に腕を上げれば、西武はまた2歩下がった。
「よ、よるな!営団が!!わ、私は今!金髪の男に寄られるのは無性に腹立たしいのだ!」
「はぁ?」
また電波な事を・・・、てかお前も金髪の男じゃんか、と思いつつ、
有楽町は呆れ気味に首筋のことを教えてやった。
「お前、首筋が赤くなってるぞ?虫刺されか?」
「!!!??」
その瞬間、ボッと真っ赤になる西武に有楽町はポカンと口を開けた。
「こ、これは・・・、その!そう、虫刺されだ!断じて唇の痕ではない!」
「・・・・はあ?ってことはキスマークなんだな?それ。
へぇ?お前がねぇ・・・、相手は誰?」
ちょっと野暮かな?と苦笑する有楽町に西武はギロッと睨んでくる。
「そんなハレンチな痕ではない!
それに危機一髪逃れたのだ!!断じて副都心などにヤラれてはいない!」
「・・・副都心??」
西武はよほど混乱しているのか、先ほどから自分で墓穴を掘っていることに気がついていないらしい。
それよりなにより有楽町は西武の相手が副都心ということに驚いている。
なんで西武?とおもうが、直ぐに何かに思い当たり、「ははは」と引きつった笑顔を浮かべた。
「・・・ご愁傷様、池袋」
「なにっ!?」
「がんばってくれよ?」
「どういう意味だ!!まて!有楽町ーーー!!」
西武の静止を聞かず、有楽町は東武改札方面へと歩いていく。
背後から罵詈雑言が聞こえるが、耳に塞ぎ聞こえないフリをする。
有楽町にはわかっていたのだ。
副都心が西武を襲ったわけを。
副都心の恋愛感情。
有楽町はずっと一緒にいたから好き。
東上ともずっと一緒に走っていたから好き。
・・・・つまりそれは西武にも当てはまることで・・・。
人身御供ではないが副都心がしばらく西武にかまけていれば、
自分や東上の身の危険が少しは減るというものだ。
この間も東上の耳の後ろにつけた覚えのない痕があって、
問いただしたら副都心に付けられた、と言っていた。
まぁ、間一髪逃れたらしいが、やはり油断は出来ない。
やはり人身御供は必要なのだ。
すまん、と西武に心の中で謝りつつ有楽町は東上の元へ急いだ。
でも有楽町はすぐに知ることとなる。
西武が増えたことで自分たちの身の危険がなくなったわけではないということを。
結局副都心が目指すのは一夫多妻制。
誰か一人増えようが、身の危険はたいして変わらないのだから。
2011/1/16
ありがとうございました。
さらに西武を加えてみました☆
副都心を使って池袋組みを振り回すのは楽しいです♪
戻る
|