今回、リーくん出てきません。オリジナルキャラと我愛羅くんの話になってしまいます。でも、根幹は我リーです。
「リーくんも出ない上に、オリジナルキャラだと!? 許さん!!」と言う方はお戻りください。
それでも良い、という寛大な心を持っている方は、このまま下へどうぞ。




















舞台では、美しい女性が一人、歌っている。
我愛羅は、木ノ葉の里に流れる清流のような声に、耳を傾け、そして歌い手を眺めた。
数分後。我愛羅は右隣に座って、酒を美味そうに飲んでいる兄、カンクロウに唐突に話しかけた。
「おい。あれはどういう歌なんだ」
「は?」



砂の里に、本当に珍しく軽やかな音楽が流れていた。
風影の屋敷から漏れ出たそれは、里の者達の耳も潤していた。
砂の里に、本当の本当に珍しく、旅の一座が来たのだった。
彼らは、二十頭の馬に大量の荷物を積んで、日の出と共に砂の門を叩き、まずは上役達によって里の中へ招き入れられた。
一座は総勢三十人。老若男女問わず、すっきりとした色合いの布を体に巻きつけ、健康的に日焼けをしていた。
上役達は、砂の里が外に開かれて以来、こんな旅の一座が来るなんて本当に久々だと笑い合い、
「・・・・・・だが、風影様が何と言うか・・・」
という、誰かの言葉に一瞬で暗い表情に戻った。
「・・・まあ、とりあえずは聞いてみよう。期待はせんがな・・・」
と、誰かが言ったが、杞憂に終わった。
なぜならば、里の長である風影があっさりと一座の滞在を認めたからである。
「このような時、我々はどうすればいいのだ」
風影はどことなく好奇心を滲ませながら、上役に問いかけた。
上役は数秒、空に目を走らせた後、
「・・・宴会、などして一座の芸を楽しむべきかと・・・」
「分かった。宴会の準備をしろ」

そんなわけで、今日は木ノ葉の里との定例宴会とは別に、宴会が開かれている。
宴会場の奥には即席の舞台が作られ、一座の小道具係の指示に従い、金属で出来た照明が当てられている。
今、一座の中でも一番の力持ちだという肉団子のような男が、大岩を素手で粉々にして、拍手喝采が起こった。
無論、忍びにとっては大岩を粉々にしようが、指の先から火を出そうが、大きな水槽の中で数分間笑っていられようが、驚く理由はない。それ以上の脅威を、毎度のごとく忍びの間で行っているのだから。
けれども、一種素朴とも言える一座の芸に、酒の力もあるのだろうが、砂の忍びは純粋に感動し笑い拍手をしていた。
『それでは、我が一座の至宝、アリアの歌声をご堪能ください!!』
一座の長、頭が禿げ上がった人懐こい笑顔をする男が大声で言うと、またしても拍手が沸き起こった。
室内の明かりが落され、舞台が一層浮かび上がる。舞台の袖から、背の高い女性が現れた。
腰まで届く長い髪の毛はゆるく巻かれ、にも関わらず蝶が舞うように女性の体に纏わりつく。そして、整いすぎているほどに整った鼻筋。長い睫毛に縁取られた双眸はオアシスの水色をしていた。前列にいた忍びの数人が、ほう、とため息をついた。
女性が部隊の真ん中に立ち、一度お辞儀をすると、拍手と歓声が起こる。
すう、と女性は息を吸い込み、音楽も無いまま歌いだした。
瞬間、宴会場にいる全ての人間が、息を呑んだ。
まるで清流のような、涼しく吹き渡る風のような、甘く突き刺すような、耳を介さず頭に直接響くような歌声。音楽が無いだけに、いや音楽があれば彼女の声は存分に楽しめないだろう。
うっとりと、何人かは目を閉じて歌ではなく、声に酔いしれている。だが、それは彼女の歌が異国の言葉で紡がれていることもあるのだろう。
その美しい歌い手を、上座にいる風影、我愛羅は黙って眺めていた。

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