このお話は、「リーくんが忍びを諦めて、里から出て暮らす」という設定になっています。 「リーくんが忍びを諦めるなんて、あり得ない!!」と言う方は、ここで引き返してください。 それでも良い! と言う方は、そのまま下へ・・・。




















まさに碧羅の天。空には雲ひとつ無い。
緑には光が跳ね返り、乱反射を起こす。
風は思い出したように穏やかに吹く。
そんな空と木々の中を、マイト・ガイはひたすら、東へと歩いていた。
もう何度こうしてこの道のりを来たことか。
リーが忍びをあきらめてから。



「ガイ先生、やっぱり、ぼくには無理です」
病室のベッドの上でリーは言った。ガイは思わず、目を覗き込んでしまったが、それはいつも通り輝いていた。痛々しいのは、包帯だらけの身体だけだった。
中忍試験で負わされた傷は、心よりも身体のほうに深くしつこく残っていた。夜毎、少年は痛みにうなされ、はた目にも分かるほどに痩せていった。
少年は懸命にも一生残る傷と、いつ消えるか分からない痛みにも耐えていたのだが、
『忍びを諦めろ』
というツナデの宣告から数日後、リーは熱を出し、大事を取って入院していたのだが、ふと窓の外を見ながらガイに告げた。
「ぼくは、忍びには戻りません。退院したら、家を探すのを手伝ってくれますか?」
里にそのまま暮らすのだって、まったく問題は無いのだ。だが、知り合いの忍者が多すぎるここは、一般人になったリーには耐えられそうにないのだろう。いや、むしろ自分の方が耐えられない、とガイは思った。お前のそんな後姿を見たくない。
リーは笑って、
「先生、ぼくなら大丈夫です。里を出ても、ちゃんと暮らしていきます」
ガイの大きな肩をさすった。
泣いていたのはガイの方だった。少年の方が辛いはずなのに、言葉にも出来ず、涙も流せなくなった心境を思って、ただガイは声を殺して泣いた。

中忍試験での傷は、ツナデが九割まで治してくれた。あとの一割は、リーが癒すべき傷だ、とツナデは言った。
それから二ヶ月ほどが経ち、リーは退院すると、ガイと一緒に家を探し始めた。
そして見つけたのは、里から森を抜け、山の中腹にある古い家だった。屋根は緑色に塗られて、森に自然に溶け込んでいた。元は、火の国の富豪が建てた別荘らしい。古いが、二階建ての重厚な造りで部屋数は多く、そのまま置いていかれたという調度品も、さすがに値が張るようなものばかりだった。
不動産屋は、この物件ならば、ただ同然で売っても良い、と言った。
「こんなに住みやすそうなら、オレも引越ししたいくらいだ」
冗談で言ったつもりだが、少年は真剣な顔でそれを止めた。
「里にはたまに買い出しに行きます。先生はここに引っ越さないで下さい」
もうその頃には、リーはガイスーツを着ていなかった。

引越しの準備は、ほとんどリーが一人で行った。
里を去る日、ガイは少年の少ない家財道具を全部背負った。
「・・・じゃあ、テンテン、ネジ。見送りありがとうございました。本当にここまででいいですよ?」
少年は笑いながら振り返り、木ノ葉の門前まで無言で着いて来た、テンテンと日向ネジに言った。
少女は悲しくて何も言えない、という顔をし、もう一人の少年は不機嫌そうに口を真一文字に結んでいた。
「・・・今まで、ありがとうございました」
言って、リーが包帯を巻いていない、白い左手を差し出すと、テンテンはその手を握って、長いこと離さなかった。
「・・・・・・馬鹿」
数分後、テンテンは呟いたが、それ以上は言葉が出てこなかった。
次いで、ネジにも手を差し出したが、彼は握り返してはくれず、仏頂面のまま一言だけ、「そのうち寄る」と呟いた。
サクラやナルトには挨拶しないのか、とガイは訊ねたが、少年はゆっくりと首を振った。その必要は無い、と表情が語っていた。
「・・・さようなら」
最後のリーの言葉は、里全体に対するものだった。

少年が引越し、ひと月、ふた月過ぎる頃には、ガイの周りもいつも通りの空気が漂うになった。
ただ、そこにリーがいないだけの日常。ただ、そこにリーがいなくても、里は変わらなかった。
たまにツナデが、「ロック・リーはどうしている」と聞いてくるだけだった。ガイは明るく、「元気にしていますよ」と笑う。
それが日常。それが当たり前。
ただ、ロック・リーが里にいないだけの日々。

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