嫉妬心 P3
その日家族全員を追い出すように家から出した恭平は、自分もぎりぎりになって家を出た。
孝平と竹本が家を出る手前に一緒に車に乗っていくかと聞いてくれたが、恭平は気が進まなかったので断った。
本人にも伝えた通りもう気にしていないつもりなのに、いざ竹本の前に出ると不安になってしまう。
いつだったか良平や聡平が、あの笑顔が気に食わない、と言っていたがその意味がやっとわかった。
それまで純粋な笑顔に見えていたあの表情が、今はなんとなく怖い気がする。
どんどん信用できる人が減っていく気がする。
孝介叔父さん、竹本さん……
少し寂しくなって落ち込んでいたら、会社での昼時に、矢吹が訪ねてきた。
「やっほー恭平くん!」
「矢吹さん。」
「今日は午後の仕事ココでだから、一緒にお昼食べよう。」
ニッコリと楽しそうに笑って恭平の肩を優しく叩く矢吹に、恭平は涙が溢れそうになった。
きゅっと唇を噛んで我慢していると、目の前の矢吹は心配そうにに恭平のことを覗き込んだ。
「恭平くん?どうした?」
「矢吹さん…矢吹さん…」
「…うん?」
「…矢吹さん。今日は俺がおごります!」
「はぁ〜?」
矢吹はきょとんとした表情で、恭平を見て笑った。
矢吹は急に言われて何度も断ったが恭平がどうしてもと言うのでとうとう折れ、二人分の代金は恭平が払った。
そうして二人で他愛もない話をしていると、その食堂に竹本が入ってきた。
入口でその姿を見つけたが、恭平は咄嗟に目を伏せて矢吹の体に隠れるような仕草をとった。
どうしてそんな行動をしたのか恭平自身にもわからない。
矢吹は熱いうどんにふーと息を吹きかけていたので気付かなかった。
早く、どこかへ行って。
恭平の願いもむなしく、大きな矢吹の背中を見つけた竹本は二人の元へと近付いてきた。
「矢吹くん。恭平くんの行方知りませ…。あ。」
話しかけると同時に矢吹の体の陰に隠れて見えなかった恭平のことを見つけ、竹本は言葉を止めた。
うどんをちゅるちゅると吸うのをやめずに、矢吹が竹本のことを見上げた。
「たっ、竹本さん。俺に何か用ですか?」
恭平の言葉の中にぎこちなさを感じる。
竹本はそれを隠すように大きく息を吸って、気を取り直して言った。
「社長がお呼びです。少し重要なお話があるので、私も一緒に行きます。」
社長、と聞いて矢吹の箸の動きも止まった。
恭平は重要な話とはなんだろうと考えたが思い浮かぶ節はない。
自分たちの関係が竹本に知られてからは社長室に呼び出されることも少なくなったので、今回もそういう用事ではないのだろうと思う。
「今、ですか?」
「いえ、昼食をお食べになってからでよろしいですよ。20分くらいたってからまた戻って参りますから、一緒に行きましょう。私は少し用事を済ませてきます。」
「…はい。」
恭平が小さく頷いたのを確認して、竹本はその場から去っていった。
その後姿を少し恨めしげに見送っていた矢吹は、恭平に視線を戻して、寂しそうに聞いた。
「…あの人、社長の秘書だよね?」
「そうだよ。」
「ふーん…。俺も秘書になろうかなぁ。」
「えっ?」
「そうしたら、ああやって恭平くんを呼びに来れるだろ?仕事も一緒にできるし…。何より、社長のこと見張ってることができる。」
「…見張る?」
「あ、いやいやこっちの話!」
見張りたいのは、社長と恭平が余計なことをしていないかということ。
恭平は矢吹が言いたいことをなんとなく察して、頬を染めて俯いた。
「…矢吹さん。」
「うん。」
「ありがとう。」
恭平は口早にそう言って、慌てて水を飲み干した。
きっちり20分後に竹本は食堂の恭平たちの座るテーブルまで戻ってきた。
まず初めに食べ終わった恭平の食器を見て、首を傾げた。
「恭平くん、もういいのですか?」
食器の上には半分ほどしか食べ終わっていないサラダとコロッケが残っていた。
恭平は恥ずかしそうに頭を掻いて苦笑い。
「今日はなんだかお腹いっぱいで。」
「こいつ、最近食事の量が女みたいなんですよ。もっと食えって言ってるのに。」
そういう矢吹の皿は二人分はあるかと思われた。
「矢吹さんは食べすぎなんですよ!」
「え…そうか〜?」
矢吹は豪快にアハハと笑い、二人分の食器を持って立ち上がった。
「呼ばれてるんだから先に行っていいよ。後は俺がやっとく。」
何気ない気遣いが、とても嬉しい。
恭平はきゅんと胸が苦しくなるのを感じた。