嫉妬心 P6
その日の夕方から、恭平の作った料理が食卓に並んだ。
材料は来るときに買ってあったので、それを使う。
食器があまりないので各自取り皿を用意し、料理は大きな皿に一つにまとめるような形に工夫をしたら、見た目が派手になったので孝平以外の4人は目を丸くして驚いた。
「お〜〜!すごいなあ。」
「さっそく食べよう食べよう。」
4人は席につき、最後に孝平が椅子に手をかけてから、台所にいる恭平に声をかけた。
「恭平。お前は食べないのか?」
その声に他の者も料理から目を離して恭平のことを見た。
彼は少し気まずそうに肩をすくめて苦笑いをしている。
「うん…さっき少し食べたし。俺はいい。」
「…そうか。」
孝平はそれ以上追及せずに席についた。
隣に座っていた竹本は、つい先日の矢吹の言葉を思い出す。
こいつ、最近食事の量が女みたいなんですよ。
竹本は少し考えてからもう一度恭平のことを見た。
車酔いの症状はマシになったようで顔色は元に戻っているが、どこか浮かない表情をしている。
竹本の視線に気付いた恭平は、彼の方を見て、少しだけ微笑んだ。
その笑顔に、竹本はふっと視線を逸らしてしまう。
もう一度恭平の方を見ることはできなかった。
食事の後、恭平を除く5人は明日のための打ち合わせに入った。
この日はそんなに話すこともなく、ただ知っていることを情報交換していたようだ。
いずれにせよ恭平には関係なく、全員で話し合っている最中に、孝平のことを見る竹本の目が気になる。
それに応える孝平の何気ない仕草も、恭平は息が詰まる思いがした。
今までなんとも思わなかった光景が、どうしてこうもくっきりと印象付けるように視界に入ってくるのか。
恭平はいたたまれなくなって、早くに与えられた部屋に引きこもった。
シャツのボタンを上から2つほど外し、ベッドの上にうつ伏せに倒れこんだ。
「はぁ…。」
自然と溜息が出る。
目を閉じると、頭には孝平のことばかりが浮かぶ。
朝起きた時におはようと微笑んでくれた優しい表情とか。
車の座席越しに見えた肩だとか。
孝平が喋った一語一語が全て聞こえてくるようだった。
昨日の情事の時のことだって、気を失う手前までのことなら全てハッキリと覚えている。
「わわ…っ。」
そこまで考えて、恭平は慌てて起き上がって頭を振った。
孝平のいない時にそういうことを考えるのは、体に溜まる時間を加速させる。
恭平だけで自慰をすることはやらないのが二人のルール。
恭平は何とか気を静めて、再び溜息をついた。
明日は今日に教えてもらった温泉とやらに行ってみよう。
気分転換になるかもしれない。
孝平の打ち合わせはすぐには終わりそうになかったので、恭平はこっそりとペンションの外へ出た。
春の暖かい風が恭平の横を吹き抜ける。
壁に背をついてしばらく空の星を見上げていると、中から人が出てきた。
「恭平?そんなところで何をしている。」
孝平だ。
はっとして振り向いて、恭平は無意識に身構えた。
「話し合いは終わったの?」
「ん。いや、まだやってる。」
「じゃどうしたの。」
「資料を取りに部屋へ行ったらお前がいないものだから。探しに来たんだよ。」
「あ…ごめんなさい。」
恭平は謝ると同時に頭を伏せた。
「まだそこにいるのか。」
「うん…少し。父さん話し合いに戻らないと。」
暗闇の中で恭平は少し微笑んだのだろうか。
そのまま闇の中に溶けてしまいそうに感じて、孝平は恭平の腕を掴んだ。
突然思い切り掴まれて、恭平は驚いて目を見開いた。
「痛いよ父さん。…どうしたの?」
恭平は父の真意が読めなくて、きょとんとした表情をした。
よくはわからないが、すぐそばに孝平がいて、抱きしめてくれている。
微かに鼻を掠める孝平の匂いが恭平の気持ちを落ち着かせた。
「…父さん、早く戻らないと…」
「ああ。」
孝平は頷いて、そっと恭平の唇に自分のそれを重ねた。
「ん…ふ…っ。」
孝平の舌の動きに合わせて自分の舌を絡ませ、恭平は孝平にしがみついた。
こうしている間は一番近くに孝平のことを感じることができる。
竹本よりも、自分の方が近いと実感できる。
…本当に?
孝平は竹本ともこういう行為をしているというのに。
「…っ。」
恭平は舌で応えるのをやめた。
それに気付いて、孝平が唇を放す。
俯いて、ゆっくりと離れていく恭平のことを孝平は不思議そうに見つめた。
「どうした、恭平。」
「なんでもない。父さん、早く行って。竹本さんが心配するから。」
「…。」
俯いたままの恭平に、孝平は少し溜息をついて掴んでいた腕を放した。
「気分が治ったら部屋に戻りなさい。風邪を引かれたら連れてきた意味がないからな。」
そう言って孝平は恭平に背を向け、ペンションの中に戻っていく。
所詮、自分も竹本も、孝平がやりたいことをするための道具でしかないのだ。
恭平は締め付けられる胸の痛みに耐え切れずにその場に座り込んだ。
視界がぼんやりとして、次の瞬間に頬に熱い涙が一粒、零れ落ちたのを感じた。
わかっていたことなのに。