知らない人 P3
「やっ、やめ…っ。ぁっ………ぁああぁぁんっ!!」
恭平がビクンビクンと痙攣する。
火照った身体に乳首への刺激は強すぎるようだ。
「いいぞ、恭平くん。」
「はぁあっ。ふぅ…っあぁぁぁっ!」
「すごい…そろそろ我慢の限界だな。」
「くっんはぁ…っ!」
恭平に痙攣の治まる隙を与えず、孝介が動き出す。
何が何だかわからないほど感じてしまっている恭平に、孝介の言葉は何も入ってこなかった。
次から次へと与えられる全身への刺激に頭がついていかず、耐えることしか考えられない。
ひっきりなしに熱っぽい声で喘ぎ続けることしかできなかった。
孝介は半年ぶりだと言ったが、実は恭平もそれとあまり大差がない。
孝介との情事は確かに半年ぶりだが、この頃は、孝平ともそれほど頻繁に体を重ねているわけではなかったからだ。
彼女の美咲とそういうことをしないわけでもないが、これほどまでに衝撃的な快感は得られない。
そういう意味では恭平もセーブがきかなかった。
孝介の持つ闇に、引きずり込まれた。
そこは右も左も、天と地さえもわからない闇の中。
恭平は孝介から与えられるままに鳴き、共に果てた。
気がついたら部屋のベッドに座っていた。
孝介の車で家にたどり着き、自分の足で玄関に入ったことは覚えている。
よく考えてみると既に夕飯も作ったし、風呂も入れた。
良平と明美も帰ってきたような気がするし、聡平も、バイトを終えて帰宅したような気がする。
…そういえば夕飯も食べた。
恭平は呆然としたまま、しばらくベッドの上に座っていた。
ふと、別れ際の孝介の言葉が蘇る。
助手席から降りて、ドアを閉めようとした時。
「恭平くん。」
孝介は声をかけてきた。
振り向くと、あの優しい笑顔でこう言った。
「今日はありがとう。今度は、正式に誘うよ。こんな狭い車の中じゃ、やっぱり満足にできないからな。」
もう、二度とこんなことはやりたくない。
孝介に抱かれる度に思う。
どうしてあそこで拒否できなかったのだろう、と…。
後悔しても、すでに時は遅い。
孝介はまたやってくるだろう。
恭平の心を掻き乱し、全てを脱がされ奪い尽くす。
逃げたくても叔父と甥であるから離れられないし、何より、快楽を感じてしまっている自分がいる。
情けなくて涙が出た。
このままではいられない。
誰か、助けてくれないものだろうか……
次の日の美咲との食事は、ほとんど上の空だった。
それで彼女の機嫌が少し悪くなってしまったことを覚えている。
孝介との関係がある限り、彼女のことを裏切ってしまっているような気がする。
言っても信じてもらえないだろうから説明しない。
だけど…
このままではいられない。
恭平は一週間後、美咲に突然の別れを告げた。
強気だけれど意外と泣き虫の美咲は、案の定泣き出した。
どうして、としつこく理由を聞かれたけれど、説明できなかった。
ただひたすらに、謝ることしかできなかった。
これで何人目だろう。
自分から別れを告げたのは……
恭平が彼女と別れたと知って、明美だけが喜んだ。
嬉しそうに鼻歌を歌いながら、次の日曜日は買い物に行こうとねだってきた。
中学生にもなって、と恭平は半ば呆れたが、無邪気に喜ぶ明美の姿が傷ついた恭平の心をどれだけ癒したことだろう。
恭平はその日、自分でも驚くほど、可愛い妹をとてもとても甘やかした。
当時の孝平はというと、ことさら仕事ばかりをしていた。
二、三日帰宅しないというのは驚くことではなかったし、たまに帰ってくると泥沼にはまったように眠り続けた。
良平や明美には不満があったようだが、自分もバイトを始めて楽しんでいた聡平と慣れきっていた恭平はさして何も言わなかった。
忙しそうにしている孝平を見ていると、恭平は何も言えなかった。
たまに恭平は、孝平が資料を見つめたままリビングで腕を組んで座っている姿を見た。
その凛々しい横顔にすがりつきたくなる。
と同時に、迷惑をかけたくないという気持ちが湧き上がる。
「恭平。」
「えっ?」
「今、手が空いているようなら茶を入れてくれ。コーヒーでもいいよ。」
「あ…うん。わかった。」
ぼんやりとしていた恭平に孝平が話しかけた。
この会話も、実は何日ぶりかわからないほど久しぶりのような気がする。
「仕事、大変なの。」
「いや?大変ではないよ。なかなか面白い。」
「ふーん…。」
「お前もそのうちわかると思うよ。…いや、わからないか。」
孝平は自分の言った言葉の内容に苦笑して、資料に目を戻した。
恭平は食器棚からコーヒーカップを2カップ下ろした。
「コーヒーでいい?俺も飲む。」
「構わないよ。ありがとう。」
孝介叔父さんにも、父さんのような礼儀正しさがあったらいいのに。
良平や明美が嫌う他人行儀な孝平の態度が、この時の恭平には妙に居心地良く感じたのだった。