5万ヒット記念小説>桜舞う季節 P2



そんなこともあった春休みはすぐに過ぎ去り、杉野たちの学年は気付けば高校最後の3年生になっていた。

クラス替えをして、初めて教室に入った時に、河原崎は杉野が教室の端で友達と笑い合っているのを見つけた。
あ、また同じクラス。

杉野の方も入ってきた河原崎を確認して、笑顔で手を振った。
「あっ、カワちゃん。今年もよろしくね〜!」
杉野と話していた友達が一斉に河原崎の方を見た。
なんだか恥ずかしくなって、小さく手を振り返しただけで教室を出た。
トイレに入ると、数秒後に何故か杉野も入ってきた。
「連れショ〜ン。」
なんて下品な言葉を明るく言って、河原崎の隣へ来る。

「あ、あのさ。この前…」
「あれびびったね〜。今時の中学生は怖いのな。」
「うん。あの時は…ありがとう。」
「いやいやいや。河原崎くんの後輩なんでしょ、あの二人。」
「…えっ違うよ?」
「は?」
二人はお互いの顔を不思議そうに見つめ合って停止した。
杉野はあの時の二人の台詞を思い出して、しきりに首を傾げた。
同時に河原崎も首を傾げて言う。
「杉野くんの友達が機転をきかせてくれていたのかと思って…今度その二人に会ってお礼を言わせてって、お願いしようと思ってたんだけど。」
「…うそぉ。俺の知り合いでもねぇよぉー。」

では、あの二人は誰だったのだろう。
この疑問は彼らが杉野たちの高校へ入学してきたことで明らかになる。


翌日は新入生の入学式だった。
入学式には保護者と教師以外、関係のある在学生しか出席できない。
生徒会副会長なんてものを押しつけられていた杉野は影の放送席からその様子を見ていた。

「今年、双子が揃って入学してるらしいですよ。」
「えっ、マジ?」
放送部の後輩の話に寄ると、その双子のうち片方はかなり勉強ができると評判らしい。
「へぇ〜双子。会ってみたいな。」
小学生の時以来、双子になんてお目にかかったことはなかったので、純粋に楽しみだった。

しかしあまりそんな機会もなく、杉野は仲間と共に新歓行事で例年通り予想外なハプニングを起こして場を盛り上げ、生徒からの人気を上げて教師からの人気を下げた。
職員室に呼び出され、生徒会の誇りだの責任だのと散々説教を受けた。
仲間5人と全校のトイレ掃除を任されて、ぶーぶー文句を言いながらそれに従った。
文句を言うならやらなければいいのに、楽しいからやめられない。

モップとバケツを持って3階の1年生の教室の前を歩いていると、生徒が何人か話しかけてきた。
かっこよかったです!最高です!と憧れのまなざしやら声援やらを送られるのは、満更でもなく嬉しい。
そんな時、一番奥の教室からどこかで見たことのある人物がポケットに手を突っ込んで出てきた。
そのルックスのよさ、忘れるわけがなかった。

「…。」
杉野がぼんやりと見つめていると、彼も杉野に気付いて足を止めた。
トイレ掃除用具を持ったままの杉野に見つめられて、眉を寄せて怪訝そうな顔をした。

「…なんすか?」

春休みに駅前のゲーセンの近くで河原崎を助けてくれた少年の片割れだった。
あんな派手に喧嘩をしておきながら、ちょっとした進学校であるこの高校に入って来れる人物もいるんだな、とくだらないことで感心してしまう。

杉野が口を開こうとした時、背後から駆けてくる人影がいた。
「おーい瑞樹。良平いる?」
駆け寄った少年は、彼より少し身長が低くて、幼さの残る顔立ちだった。

あの時のもう一人に間違いないと、杉野でなくても確信しただろう。

「良平なら教室にいるぞ。」
「よかったよ、二人とも入学式さぼらなくて。」
「高校からは真面目になるって言ったじゃんか。」

二人が私的なことを話し始めたので杉野は割り込むのをやめて廊下を通り過ぎた。
あの二人共が一年にいるんだ…、河原崎に教えてやろう。

「あっ。あれ、杉野先輩だったんじゃない?」
瑞樹に駆け寄った少年、佐久間聡平は行き過ぎた杉野の背中を指差して言った。
「スギノ?」
「うん、新歓で一番派手なことやってた人…舞台の照明壊してた。」
「ああ。ははっ、あの人か。」
瑞樹がその時の光景を思い出して笑った。
「すごいな瑞樹、もう知り合いになったのか?」
「んなわけないじゃん。あの人は俺のこと、知ってるみたいだったけど。」
「はぁ〜?」
それこそそんなわけない、と言わんばかりに苦笑して聡平は瑞樹の肩を叩いた。

「今日俺サッカー部に借り入部してくるから、夕飯は良平の係なって言っておいて。」
「わかった。兄貴はいないのか?」
「今日はあっちも大学の新歓があるんだって。」
「はーん。」
瑞樹は適当に頷いて、廊下の向こうへ消えていった。


++
++
+表紙+