5万ヒット記念小説>桜舞う季節 P11
桜が散って、しばらく経ったある昼下がり。
クラスで仲良くなった友達と喋りながら掃除をしていたら、音楽室の掃除当番だった瑞樹が駆けて戻ってきた。
「良〜。」
「おー。お帰り。早いな、もう終わったの?」
「うん。それよりさ、杉野先輩が体育の時間に怪我したって。聞いた?」
「えっ?」
持っていた箒の動きが止まった。
…怪我?
「知らない。…そんなすごい怪我なの?」
「やー、よくわからない。掃除記録を職員室に出しに言ったら、保健室の先生に言われた。」
良平は保健室にはまだ世話になったことがなかったので、いまいちその先生の顔が思い浮かばなかった。
その怪我はどのくらいなんだろう…
考えると少し不安だった。
「行ってみれば?」
「なっ、なんで俺が。」
「なんとなく。心配じゃん。」
瑞樹はそう言ってポンと良平の肩を叩き、自分の席に戻ってしまった。
鞄の中に教科書やら筆箱やらをしまっている。
そういえば、今日も他のクラスの女子とカラオケだとか言っていた。
最近なんとかって女と付き合い始めたって、隣のクラスの牧村が言っていた。
「瑞樹。帰んの?」
「うん。今日は急ぎです僕。」
「誰がボクだよっ。」
「はは。じゃあね〜!あっ、良平、明日は俺とカラオケだからな!忘れんな!」
「はいはい。お前こそ忘れんな!」
瑞樹は爽やかに手を振って、教室を飛び出していった。
高校に入ってやたらモテ出したような気もする。
モテるといえば、聡平もだ。
サッカー部のマネージャーが増えたとか増えないとか。
俺はといえば……
「オラ良平!掃除さぼんなっ!」
後ろからクラスメイトの男子が箒の先っぽで尻をつついた。
「いてぇ!」
「さぼってたら、雑巾がけやらせるぞぉ〜。」
「そこ!佐久間くんとこ!ちゃんと掃除やってよぉ。」
良平の周りにわらわらと集まっていた男子の集団に、女子が一石を投じた。
言われて文句を言いながら離れていく友達を見て、良平は溜息をつく。
友達だけは誰よりも豊富って自慢できそうだ。
良平は早いところ掃除を終わらせて、鞄を持って保健室の前に立った。
堂々と音を立てて扉を開き、中を覗く。
保健室の先生はいなくて、ベッドのところに体育着のままの杉野が座っていた。
良平を見て、目を丸くする。
「うそぉ。どうしたの、良平。体の具合でも悪いの?」
「別にどこも悪くねぇ。杉野先輩が怪我したっていうから。」
「えっ。見舞い?」
「…まあ…。」
良平は今更ながらに気まずくなって頭を掻き、杉野の方へ近付いた。
どこを怪我したのか見ようと思ったのだ。
なるほど、右の膝小僧に手当てを施した跡があり、ガーゼで包まれていた。
「なんだ、膝だけ?」
「うん。別に大したことないよ。サッカーでこけただけだから。」
「へぇ〜。」
「でも嬉しい。良平の耳に入るなんて思ってもいなかったけど、来てくれるなんて夢にも思ってなかった。」
ニッコリと微笑む杉野に、良平はぷいと恥ずかしそうに顔を逸らした。
「よかったっすね。じゃあ、俺はこれで。」
「あっ、待ってよ…」
去ろうとした良平の手を、杉野が掴んで引っ張った。
予想外の強さに良平がバランスを崩し、杉野の腰掛けていたベッドの上に転がり込む。
鞄が大きな音を立てて地面に落ちた。
「いてぇ…。」
「あれ。良平くん、意外と力弱いなあ。」
ふふ、と勝ち誇ったように笑って、杉野は良平の体の脇に両手をついた。
またキスをされるのかと思って、良平が慌てて杉野の額を押さえる。
「…痛いんだけど…。なに…。」
「や、二度目はもうない。」
「そんなこと言うなって〜。あれはキスだったけど、キスじゃないんだよ。」
「え?」
「キスっていうのはね…」
そう言って、杉野は慣れた手つきで額に当てられた良平の手をうまくベッドに押さえつけた。
あっという間で良平の反射神経もおいつかない。
次の瞬間に、良平はまた、杉野に唇を奪われていた。
触れて、すぐに離れるかと思ったら、なかなか離れない。
杉野の前髪が頬の辺りに当たってくすぐったい。
そんなことを考えていたら、柔らかくて生暖かいものが唇の中を掠めた。
「んぅっ?!」
良平が驚いて思い切り杉野に抵抗したが、杉野の力は思ったよりも強くて。
上からのしかかられている分、うまく動けなかった。
杉野の舌が、良平の口に割り込んで入ってくる。
その熱さが良平の感覚を狂わせた。
唇が、頬が、体が、熱い。