▼佐久間恭平くん誕生日企画06
02:良平
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ミーンミンミンミーン…
セミが暑さを倍増させるように鳴いている。
良平は暑さに寝返りを打ち、布団を蹴飛ばした。
暑い…っ、誰かクーラー付けて。聡平!兄貴……
ん?
「やべっ!!」
良平は跳ね起きた。
慌てて目覚ましを確認するが、既にアラームはしっかりとオフにされている。
窓の外は太陽の光で溢れていた。
反対側の壁にある聡平のベッドは当然のように空っぽで、寝過ごしたことは明白だ。
良平はさぁっと血の気がひいていくのを感じた。
あのやろー…起こしてくれたっていいのにっ!
良平はパジャマのまま部屋を飛び出て階段を駆け下りた。
「兄貴兄貴兄貴ッ!」
「はいはいなに?」
同じ数だけ恭平が返事をする。
リビングでは恭平と聡平、明美の三人が切ったスイカを囲んで笑っていた。
「おはよう、良平。よく寝れた?」
「う、うん…」
というより寝過ごした。
「寝過ぎだろ、こいつは。」
「うっ…」
「そのうち目があかなくなっちゃうと思うわ。」
「そんなことねー!」
良平は必死になって弁解したが、どうやってもこの場は不利である。
申し訳なさそうに恭平を見た。
恭平は隣の席から箱を持ち上げて笑った。
「プレゼントもらっちゃった。ありがとう。」
「あーっ!!やっぱり…俺、俺も一緒にあげたかったのに!!」
「いま三人がどうやって選んでくれたか聞いてたとこだから。ね。」
「バカッ聡平、起こせよ!」
「あまりに気持ち良さそうに寝てたもんだから。」
「もっと気を利かせ!!」
「んな自分勝手な…」
「まぁまぁ良平、座りなよ。」
「うっ、だって…俺も…」
「ほら、スイカおいしいよ。早く食べないとなくなっちゃう。」
「…。」
恭平にあやされるように言われては条件反射的に断ることができず。
良平は自分の椅子を引いて、ヘタリと座り込んだ。
箱の中身は腕時計だった。
それは恭平の左手首にピタリとハマって落ち着いた。
「よくサイズわかったね。誰か知ってたの?」
「明美がね、兄貴の寝込みを襲ったんだよ。」
「寝込み…?」
「聡ちゃん!その言い方誤解だらけだから!」
「じゃ、忍び込んだんだよ。」
「…。」
忍び込んだのは事実らしい。
明美は黙って赤くなった頬を膨らませた。
「気に入った?」
良平がスイカの種を皿に並べながら聞いた。
恭平は手首を回して時計を眺め、当たり前のように微笑んだ。
「大事に使うよ。」
「デザインは俺が選んだんだよ。飽きたら遠慮なく、お下がりを俺に。くれ。」
「えー?どうしようかな。」
「待ってよ兄貴。悩むとこじゃないだろ。」
すかさず聡平が口を挟んだ。
良平が見えないところでペロリと舌を出した。
さらに聡平が言う。
「それに、言っておくけど資金源はほとんど俺だからね?俺3、良2、明美1くらいの割合だからね?良平は大きなこと言えないんだよ。」
「そうなんだ。」
「世の中金じゃねーだろ!?心だよ心!」
「あとでちゃんとくれたから良いものの、買いに行った日に財布に千円しか入ってなかった男に心がないとか言われたくないね。」
「うっ…。あれは…事故だ。前日ちょっと…使いすぎたんだ。」
そして銀行に寄る時間がなかった。
結局会計は聡平が全額支払い、あとで清算したものの、今度は銀行にもあまり貯金がなく、あの比率になったというわけだ。
「財布といえば、腕時計と財布だったらどっちがよかった?」
明美が身を乗り出して聞いた。
腕時計を眺めていた恭平は顔を上げて妹を見た。
「どちらでも。俺は嬉しいよ。」
「どちらかというと、どっちがよかった?」
なおも明美が食い下がる。
「かっこいい財布を見つけちゃったんだってさ、コレ買った後に。」
良平が注釈をつけた。
恭平はナルホドと頷いた。
「本当になんでもいいんだよ。良平が言ってたように、大事なのは心だろ?」
「そりゃそうだけど…」
「俺は、三人ともそれぞれやらなきゃいけないことがある中、俺のために仲良く話し合ったり買い物したりしてくれたってことの方が何十倍も嬉しい。」
恭平は一人一人の顔を見て、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を連ねた。
良平が照れ隠しに顔を背け、次のスイカに手を伸ばした。
「当たり前だろ、兄貴のためじゃん。」
いつも迷惑かけてばっかりで、面倒みてもらうばっかりの、唯一の兄のためである。
母親がいなくなったって、この人がいれば耐えられた。
外の人がなんと言おうと良平たち三人にとってそれはかけがえのない事実だった。
恭平は微かに眉を寄せて、ぎこちなく微笑んだ。
「ありがとう。」
そして俯く。
明美が慌てて兄の顔を覗き込んだ。
「やだっ兄さん、泣かないでよ。」
「ふふ。泣いてないよ。」
恭平は明るく笑ったが、心の奥では嬉しくて泣いてしまいそうだった。
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