外へ P2



そんな時だった。
近くで、大きな音が鳴った。

銃声。

次々に聞こえる悲鳴。
恭平は驚いて音のした方を振り向いた。

「手を挙げろ!この場にいる全員だ!!」

さっきの黒ずくめの男達が、どこから取り出したのか両手に銃を持ってあたりを牽制している。
一人の男がフロントにいた女性に銃を突き付け、怒鳴っていた。
「抵抗したら撃つ!この場にいる全員、手を挙げて一列に並べ!!」

恭平のところにも黒服のうちの一人が来て銃を突き付けた。
「聞こえなかったの?手を挙げて立ちなさい。」
やっぱり女だ。
恭平は座っていた椅子に飲み掛けの缶コーヒーを置いて、両手を挙げて立ち上がった。
女が誘導するままに歩かされ、一か所に集まった所で彼女は恭平の下げたネームプレートを見た。

「佐久間…恭平?」

女はまじまじと恭平の顔を見てから、一歩下がった。
「ここでじっとしてな。」
そう言って、フロントにいる男の所に駆けていく。

手を挙げたままじっとしていると、横にいた男が話し掛けてきた。
「よぉ恭平くん。奇遇だね。」
「あ…峰山さん。」
「お前さん、こんな時間に何故ロビーにいる?オフィスじゃなかったのか?」
「あの…ちょっと休憩を。」
「そりゃ災難だったな…。」
恭平は峰山が気楽そうに話しかけてきたので、いくらか気持ちがなごむのがわかった。
拳銃なんて初めて見た…。足がすくむ前に冷静になれてよかった。

「峰山さんは?」
「俺はたまたま営業から帰ってきたとこだった。」
「…そちらのほうが災難でしょう。」
「はは。言うな。」
峰山は苦笑して、周囲を見た。
ロビーにいたのは取引先の役人やら会社のOLやら全部で十五人くらいだったらしい。
侵入者は全部で三人。
上の階にいる人間が気付いて警察に連絡するのも時間の問題だ。
最初からずっと銃を突き付けられているフロントの女性が、今にも泣き出しそうなほど真っ青になって震えている。

その女性に銃を突き付けている三人のボスらしき男が、仲間の女性と入れ替わって恭平の方へ近付いてきた。
「おい。こっち来るぞ。」
「え…。」
恭平は峰山の声に振り向いて、近付いて来る男の方を見た。

男は銃を上げたまま目の前まで来て、恭平に向かって言った。
「お前、佐久間恭平っての?」
恭平に答える時間を与えず、ネームプレートを手にしてそれを確かめて、ふーんと呟いた。
「かわいそうにね。君、ちょっと来てもらうよ。」
「え…っ。」
男が恭平の腕を掴んで引っ張った。
それを咄嗟に制して峰山が言う。
「ま、待て!何故彼を…!」
「ああ?」
男がイラついた声を上げて峰山に銃口を向けた。
「うるさいよおっさん。こいつがここの社長の息子だからに決まってんだろ。」
恭平がビクリと体を強張らせた。
ロビーがざわつく。
男は舌打ちをして、頭上に向けて弾を一発放った。
銃声に怯えて、あたりが静まり返る。

「いいか、社長に伝えな。息子は預かったってな。」

「待て!彼は…彼は足が。」
「黙れっつってんだよ!」
男が峰山の腹のあたりを蹴り飛ばした。
峰山が音をたてて倒れる。
「峰山さん!」
駆け寄ろうとした恭平の肩を押さえ込んで、男は恭平の顎の下に銃口を向けた。
ヒンヤリとした鉄の感触が恭平に伝わる。

「無駄な殺生はしたくないんだよ!テメェらも無駄に死にたくはねぇだろ。」
言い放って恭平を後ろに引っ張る。
その拍子に転びそうになった恭平を押さえて、男が囁いた。
「外まで歩け。そこに車があるからそれに乗れ。抵抗はするな。わかったな。」

恭平は頷いて、いつものように右足を引きずって歩き出した。
「恭平くん…!」
峰山さんの声が聞こえたが、振り返ってはさっきの男が何をし出すかわからない。
恭平は振り返らずに進んだ。

彼の後ろから犯人グループ三人がピッタリとつき、外に出た。
平日の昼間だが、人通りは少ない。
目の前に止まっていた車からまた一人男が出てきて、恭平の前に立った。
「思ったより早かったな。」
「気の利いた人質がいたんでね。ラッキーだった。」
そこまで聞いて、恭平は目隠しをさせられた。
四人目の男が恭平に当て身を食らわせて、倒れた体を抱えて車に乗せた。
全員が乗り込んで車を発車させる。

ロビーに残された人々は沈黙していたが、車が走り去るのを確認すると騒ぎだし、上の階へ走る者や逆に上から降りて来た者が何事かと叫んだりでパニックになった。

ビルの社長室にいた孝平に知らされたのはそれと同時期で、警察が到着したのはそれからさらに十分後であった。


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