外へ P4



しばらくすると、竹本と一緒に良平が現れた。
竹本から話を聞いたのか、良平の顔は明らかに不機嫌そうだ。
つくづくカルシウムの足りない奴だな、と聡平は思った。

「おい!何やってんだよ親父!!」
開口一番、孝平に噛み付く勢いで良平が怒鳴った。
驚いた刑事たちが声の方を振り返る。

「静かにしなさい。」
「静かになんかしてられるか!こともあろうに自分の膝元でやられやがって。ふざけんなよ!!」
「良平さん、落ち着いて下さい。」
竹本が孝平と良平の間に入って仲裁しようとした。
が、良平は彼を力づくで押し退けて、孝平の胸倉を掴んだ。
「兄貴にもしものことがあったらどうしてくれんだよ!謝って済む問題じゃねぇぞ!!」

「良平!」
たまらず聡平が飛び出して、良平の後ろから彼の体を引っ張った。

「落ち着け!怒る相手が違う。」
「うるせぇな、頭にこねぇのかお前は!よりによって…こいつが兄貴の一番近くにいたんだぞ!!なのに…!」
「そんなこと言って、一番近くにいたからといって、防げたとは限らないだろう?!」
「だから黙ってろよ!俺は親父に言ってんだよ!」
良平は聡平の腕を振り切ろうとしたが、聡平に加えて竹本も彼の体を押さえたので、出来なかった。
良平が悔しそうに舌打ちをする。

「ちくしょう!兄貴…兄貴を返せよ!!」

暴れる良平を二人がかりで押さえ付けて、やっとおとなしくなったところで、孝平が前に出た。
押さえ付けられて座り込んだ良平と同じ位置までしゃがみこむ。

パンッ

平手打ちが飛んで、良平の頬が音を立てた。
「って…!」
「恭平にもしものことがあったら、私もそうなろう。それでいいな?わかったら無駄に騒ぐのはやめろ。」

「…!」
良平が孝平を睨んだまま黙った。
力が抜けて、そのまま目線を落とす。
「ちくしょう…。」
消え入りそうな小さな声で呟く。
良平は必死に涙を堪えて、孝平を見上げた。
「何とかしてよ………父さん。」

孝平は良平の頭に手を当ててから立ち上がった。
良平を押さえていた竹本も同時に立ち上がる。
「竹本。」
「はい。」
「金は用意できそうか?」
「はい。」
「……何がなんでも引き換えるぞ。」
「はい。」

立ち上がった良平と聡平が、同じ顔、同じ表情で孝平の後ろ姿を見つめた。


「う…。」
恭平は体にあたる冷たい感触で目を覚ました。
視界には灰色の壁と天井。
起き上がろうとして、腕が後ろで縛られていることに気付く。
足も動かなかった。

「こ、ここは…。」
「目が覚めた?」
恭平の頭上から女の声がした。
その声で自分の置かれた状況を思い出し、理解する。
俺は会社で四人の男達に連れ去られたんだ。
そして、その犯人の中に一人だけ女性がいた。
その人を、恭平は知っていた。

「…鈴木さん?」

「そうよ。久しぶりね佐久間くん。」
鈴木梨花子はあっさりと認めると、恭平の目の前で座った。
帽子とサングラスを取ると、恭平の見知った顔があらわれた。
恭平の中学時代の同級生だった。

「鈴木さん…どうして。」
「ごめんなさい。貴方だけは巻き込みたくなかったのだけど。」
梨花子は恭平の身を起こして、座らせてやった。

「どうしてこんなことを。他の人とはどういう関係?」
「話せば長くなるわ。でもそうね…彼らはみんな、佐久間建設に恨みがあるみたいよ。」
「…恨み?」
恭平が自分に問い掛けているかの如く小さな声で聞き返した。
「父親がリストラされて家族が路頭に迷ったとか…得意先を奪われて手柄がなくなったとか。あたしからすれば他人のことだしどうでもいいことばかりだけど。」
「…。」
恭平は黙った。
自分にはどうしようもないことだが、父親の会社のせいで迷惑を被った人がいるならば、少し責任を感じなくもない。
「…鈴木さんも、何か…。」

恭平が悲壮のまなざしで見てくるので、梨花子は苦笑した。
「馬鹿ね。貴方のせいじゃないし、貴方にはどうにも出来なかったことだわ。自分のことみたいに悲しい顔をしないで。」
「でも…鈴木さんは?」
「あたしは、お金が欲しかっただけよ。日本を出たいの。逃げたいの。」
「逃げたい?」
梨花子はふと視線を逸らして、部屋にある唯一の窓に目をやった。

「佐久間くんちは…お母さんいなかったわよね?」
「うん…。病気で。」
「そう。うちは父親がいなくてさ。アル中ってやつ?あたしが小さい時にポックリ死んだらしいわ。」

恭平は何も言わなかった。
いや、言えなかった。
彼女の今までの苦労が手にとるようにわかるような気がした。


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