外へ P7



「い゛ッ」
「勝手なことをするな。」
一目見ただけで、これが吉住と呼ばれた男だとわかった。
会社に押し込んできた時もそうだったが、彼だけは他の素人とは違うような気がした。
「田辺。目を放す時は足も縛れと言ったはずだけどな。」
「は…はい、すいません。」
恭平が見ると、室内には田辺の他にも鈴木梨花子や高野もいる。
「金の受け渡し場所が決まった。よかったな、物分かりのいい父親でよ。」
「…っ。」
吉住は恭平の髪を掴んで、顔を近付けて脅すように言った。
恭平が顔を歪める。

果たして本当にそれでいいのだろうか…

その様子を見て吉住が笑った。
「なんだオイ、不満そうだな。一億じゃ安かったかな。」
「一億?!」
「あぁそうさ。そんな金くらい、吐いて捨てるほどあるだろう。」
「な…。」

吉住が恭平の胸倉を掴んで持ち上げた。
息が詰まる。
「口答えするんじゃねぇ。いいな。」
その言葉には凄みが溢れていた。
恭平は初めて、自分が誘拐されて命の危険にさらされていることを実感した。

この人は、怖い……

「おとなしくしてりゃいいんだよ。おい、高野。」
「おう。」
「車取ってきな。待ち合わせ場所へ行く。」
「あいよ。」
高野は逆らわずに、車のキーを持って部屋を出た。
やっと放された恭平は、力が抜けて地面に座り込んだ。
「腰でも抜けたか。言っておくが歩けねぇとかぬかしたらその場で手でも足でも撃ち抜くからな。俺は他の奴等ほど甘かねぇ。」
恭平の手足が、無意識の内に震えてきた。


しばらくして、車を取りに行っているはずの高野が、息を切らせて駆け込んできた。
相当慌てている。

「大変だ吉住!!外にサツが…!」
「何?」
「サツが溢れてる!!」

?!

全員に動揺が走った。
その吉住の頭に、後ろから拳銃の銃口が当てられる。

「ひっ…!」
「動くな!君達は完全に包囲されている!!」
現れた刑事が高野を取り押さえ、あっという間に部屋の中にぞろぞろと入ってきた。
梨花子と田辺は一瞬遅れて吉住のほうに逃げ込み、吉住は恭平の首を腕で掴んで下がった。

「無駄な抵抗はやめろ!!吉住栄一郎…やっと追い詰めたぞ。」
その場にいる刑事全員が、3人と恭平の方向に銃口を向ける。

吉住は恭平を掴んだまま叫んだ。
「ちっ…どういうことだ。お前ら裏切ったのか?!」
「馬鹿言わないでよ!誰が自分の身まで売る奴がいるのよっ!」
「そ、そうですよ…。ここはおとなしく投降したほうが…。」

「もう一度言う!君達は完全に包囲されている!人質をこちらに渡しなさい!!」
銃を構える部隊の後ろで、立ったまま隊長らしき男が警告した。
田辺が両手を上げたまま、背後の窓のほうをちらりと見て絶句した。

「あっ、社長…。」

その一言に恭平がビクリとして、窓に駆け寄ろうとした。
その体をいとも簡単に引き寄せて、吉住が恭平の頭に銃をあてがう。
恭平がぎゅっと目を瞑った。
「てめぇら、勘違いするなよ。指図する権利は俺のほうにあるんだ。」
刑事たちは動揺せずに答える。

「それはこちらも同じだ。お前の仲間の一人を拘束している。」
そう言って刑事数人に押さえ付けられている高野を指した。
「へっ。」
吉住が笑った。
「馬鹿言うなよ。俺がその場だけの仲間に同情するとでも思ってるのか?それに、俺はこいつを殺せるがお前らは高野を殺せはしないだろう。同じじゃねぇんだよ!」

叫んで銃口を恭平の頭に強く押しつける。
何かの拍子にこいつが引き金を引いてしまったら……
そう思うと、恭平は夢でも見ているのではないかという気分になってきた。
夢なら覚めて。
早く。

「おら!わかったら道を開けな!!」
吉住が銃を構えた刑事に順番に銃口を向けて脅した。
梨花子と田辺は、吉住の後ろで両手を上げたまま様子を見ている。

「逃げるのか?」
「当たりめぇよ。誰がてめぇらに捕まるかってぇの!」
「逃げてもいいが…。」
吉住たちが動揺した。

逃げてもいい?

「じゃ、どけよ!!」
「逃げてもいいが、いずれまた我々は追いつく。君達の中にそれを教えてくれる者がいるのでね。」
「…?!」

やはり裏切り者が?

吉住は今までも銀行で強盗をしたり金持ちの家に押し入ったりと犯罪をやっては逃げ回っていたプロだったが、さすがにこの事態には混乱しているらしい。
今回の仲間は足のつかないように寄せ集めにしてみたのだが、それが仇になったか。

「…おい!誰だそれは!」
「人質を放して、署に同行してくれるのならば教えてやろう。」
警察側はいたって強気だ。
「ち…。おい、鈴木。お前か?」
「ふざけないでって言ってるでしょ?!あたしは佐久間くんとは知り合いだけど、金が欲しいのは事実なのよ!」
「…じゃお前か田辺!」
「わ、私は…!」

田辺が顔を横に振って吉住から後退った。
その行動が吉住のカンに触った。

「てめぇかぁぁ!!」
「ち、違うっ!」
吉住が恭平から銃を離して田辺に向けた。
田辺が窓の方を向いて逃げる。
彼の瞳に映ったのは、恐らく愛してやまなかった男の姿。

「社長……!」


パン!


銃声が鳴り響いた。


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