挑戦 P5



「ん…。」
恭平の、小さな呻き声が聞こえる。
バサッとベッドの下に服が落とされる音が、聞こえる。
ベッドが軋んで、寺崎が恭平の上でもそもそ動いているのがわかる。

「……あっ。」

普段聞きなれない、囁くような小さな吐息に、矢吹は心臓が口から出るかと思うくらいドキリとした。
寺崎が恭平をどんな風にしているのか、とても気になる。
一つしかないベッドの上で恭平の服を脱がし始めた寺崎の行動を最後まで見ていられずに、矢吹は部屋の隅で彼らに背を向けてうずくまっていた。
恥ずかしくなって見ていられなかったのに、二人の動く音は耳を塞いでも聞こえてくる。

「はぁ…っ。」

恭平が、また色っぽい息を吐く。
矢吹は一瞬振り返りたい衝動に駆られるが、体が硬直して動かなかった。
耳を塞いでいるはずの手が、何時の間にか少しだけ浮いていて。
気付いたら耳をそばだてるようにして、恭平の息遣いを追っていた。

寺崎は今、恭平くんの何をどうしているのだろう。
気になりだしたら止まらなかった。

「あ…あ、はぁん…ッ!」

ベッドが軋んでいる。
恭平が、寺崎の手によって弄ばれて喘いでいる。
矢吹は体の中心が熱くなった。
背中に目があればいいのにと、これほど切に願ったことは未だかつてない。
手に汗が浮かんできて、喉が渇いた。
どうしよう、振り返りたい…!!

「あ…アッ。やだ…。」
軽く被りを振って嫌がった恭平に、昂ぶった感情を抑えきれずに寺崎が言う。
「やだ、じゃないでしょ恭平くん。イイ、だよ。」
「イ…ッ。はぁ…。」
「かわいいなー恭平くん。身体は正直だね。」

会話を聞いている矢吹の背中が硬直する。
変態だ。寺崎、お前は変態だ。

頭の中でできるだけ大声で意味のない単語をたくさん叫んでみても、恭平の吐息だけが耳に飛び込んでくる。
上ずった細い声。
苦しそうに呼吸を速めて、誘うように惹きつける吐息。
矢吹は思わず二人の行為を想像してしまって、慌てて首を振った。

最悪だ。
こんなことなら寺崎なんかに付き合ってやるんじゃなかった。
薬を飲ませて眠らせて、挙句の果てに脱がして身体を弄ぶ友達の姿のを見ていたなんて、人生最大の汚点だ。
しかも、その友達に襲われている男の声を聞いただけで、興奮して欲情しちゃうなんて。

一歩間違えば犯罪だ。
……ん?待てよ。

「…んあぁ…っ!」

矢吹が何かを思いついて顔をあげた瞬間に恭平が一際高い嬌声をあげた。
ビクリとして固まる矢吹。
今まで考えていたことが脳内であちこちに吹っ飛んだ。

「はぁ…はぁ…。……あぁっ。」
恭平が寺崎の手によって、絶頂に上り詰めようとしていることが声だけでもわかる。
矢吹は固まったまま。
身体の中で、止めた方がいいような、でもこのまま聞いていたいような、複雑な感情がうごめいている。
しかし、後者の意見に軍配が上がるのにはさほど時間がかからなかった。
そして、見てみたいとさえ思うようになる。

「てらさ…っ」
矢吹は思い切り二人の方へ振り向いた。
すぐに目に入ってくる、恭平の白くて細い二本の足。
左右に大きく開かされて、その中心には寺崎の大きな手があてがわれていた。
上半身は寺崎の背中に隠れて見えなくて、その背中に回された細い腕の指の先が、苦しそうに爪を立てていた。

「…あっ!」

足が、腰が、そして腕がビクリと痙攣し、身体を仰け反らせた瞬間に恭平の髪の毛が跳ねた。
寺崎の体の影から、一瞬、苦しそうに顔を歪めた恭平の横顔が垣間見れる。
その妖艶な光景に、矢吹は身動きがとれなくなった。
ドクンッと心臓が高鳴って、恭平の身体の細部から目が離せない。

もっと、声が聴きたい。

「あ…ア…父さん…ッ!!」

矢吹がそう考えた瞬間に、恭平の口から漏れた驚くべき発言。
矢吹は耳を疑ったが、寺崎は近くにいながら夢中なのか恭平の股間で激しく動かす手を止めない。
今の小さな呟きが、矢吹の心を正気へと引き戻した。

「寺崎!!待て!やっぱりダメだ…犯罪だよ!!」
矢吹が寺崎の肩を掴んで引っ張った瞬間に。

気を失ったままの恭平が、寺崎の手の中で、白濁の液を放った。

呆然とする寺崎。
矢吹は寺崎の肩に手をおいて立ったまま、硬直するしかなかった。
見てしまった、恭平が射精する瞬間の、色っぽく顔を赤らめる瞬間を。
汗の滲んだ、無防備な全身を。

一方の寺崎は、その瞬間を矢吹に引っ張られたために見逃してしまっていた。
恭平の身体の動きと手の中の液体、そして矢吹の表情で全てを悟った。
「…矢吹!なんてこと…」
「ま、待て!なんてことはこっちの台詞だ!!眠っている人間を…その…こういうことはやっぱりダメだ!!」


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+表紙+