挑戦 P10



「やあ、来たね恭平。」

社長室の扉を開けると、ソファに座ってくつろいでいた孝平が新聞から顔を上げた。
バサリと音を立ててその新聞を折りたたみ、立ち上がる。
恭平は扉を閉めた。
「鍵をかけて。」
孝平の言葉に従って、ドアノブの下にある鍵を回した。
ガチャンと金属製の音がする。
「こちらへ来なさい。」
手招きする孝平に言われるがままに、恭平はソファへと近付いていった。

「昨日は誰の家に泊まったって?」
「矢吹さんだよ。矢吹、弘人さん。」
答えながら、恭平は父の隣に腰掛けた。

「食事とやらは、楽しかったかい。」
「うん。矢吹さんの他にも寺崎さんって人もいたんだけど…二人とも明るくて楽しい人たちだったよ。」
「それはよかった。」
孝平は抑揚のない言い方をして、恭平の腕を引き寄せた。
体勢を崩した恭平の体を支えて、その唇を奪う。
半ば予想していたことだったので、恭平は初めに少し身を引いただけで、孝平に体重を預けた。

「ん…。あっ。」
何度も重ね直した後、孝平は恭平の身体をソファに押し付けた。
恭平を見下ろしたまま、ネクタイを外す。
その動作に、恭平の心臓がドクンと高鳴る。

「起きたら裸だったって?」
「あ…。」
孝平がまっすぐに、恭平のことを見下ろしている。
恭平はその視線から目を離すことができなかった。
組み敷かれた身体は、まるで麻痺しているかの如く指一本動かせる気がしない。

孝平が責めるように続けた。
「何もなかったと、証明できるか。何か反論は?」
「え…証明なんて、できないけど…でも。」
「それじゃ、私にお仕置きされても文句は言えないな。無断で外泊するのを許可した覚えはないよ。」
「それは。…ッ!」

孝平がいきなり恭平のベルトに手をかけた。
硬直したように動かなかった身体に力がこもる。
恭平は、自分のズボンを脱がそうとしているその手を阻止するように掴んだ。
「や、やめて…そんないきなり。」
「なぜだ?何か見られてはまずいものがあるのかな。」

例えばキスマークとか。

孝平は言わなかったが、恭平は言外の言葉を汲み取って、赤面した。
そんなもの、あるわけがない。
恭平が頬を染めて黙ると、まるでそれが気に食わないとでも言うように、孝平は乱暴にズボンを脱がしにかかった。
足を持ち上げて、一気に膝の辺りまで下ろした。

「待って…いやだ。父さ…」
「すぐに終わるよ。それとも、上にもあるのか?」
「あ…ぁ!」

孝平の手が、すばやく股間の間に滑り込み、恭平のものを弄った。
突然の刺激に、背筋がジンワリとする。
孝平は足を持ち上げて、息子の秘部を蛍光灯の下に曝け出した。
羞恥心により、恭平が身を捩った。

「や…見ないで…ッ。」
「見られたくないものでもあるのかい。」
「ち、違う…」
「ではおとなしくしていなさい。」
「……ッ。」

明るい蛍光灯に照らされて、恭平が耳まで赤く染めながら目を閉じた。
身体が熱い。
孝平の視線が、ねっとりと絡みつくように恭平の身体を犯し始めた。
見られているという感覚が、恭平の羞恥心を煽る。

「あ…や、やだ…。」
「ふむ。見たところ傷はないようだな。」
孝平が恭平の股間から目を離さずに一人で頷く。
恭平は死んでしまいたいくらい恥ずかしい思いをしていた。

孝平が股間から目を離して、恭平の目を見て言った。
「恭平、シャツのボタンを自分で外しなさい。全部が見えるように脱ぐんだ。」
「……えっ。」
足を上に折り曲げて、ただでさえ無理な体勢をしているというのに、自分で脱げと?
恭平は耳を疑い、目を丸くした。

孝平は訂正せずにじっと恭平を見つめている。
「え、ほ、本当に…。」
「ボタンを外して。ちゃんと見ているから。」

み、見てなくてもいいんだけど…

恭平は言葉を飲み込んで、視線に絡まれて動けなかった腕を折ってボタンを外し始めた。
1つ。
…2つ。
3つ目になったあたりから、指が震えてうまくできなかった。

ボタンの外れた肌の上を、孝平の視線が何度も滑っている。
ボタンを握った手の上を、這うように視線が絡みつく。
恭平はそれだけで呼吸が早まるのを感じた。

身体が熱い。
恭平は目を閉じて、上を向いた。
なんとか呼吸を沈めてから、ボタンを外すのを再開する。
でも2つも外れないうちに、また孝平の視線が気になりだした。

「あ…はぁ…。」
恭平の息遣いが部屋の中に響く。
孝平は恭平が興奮し始めたのを察すると、意地悪そうに笑って恭平に顔を近づけた。

「見られて興奮してるのか、恭平。早く脱ぎなさい。」
「んぅ…ッ。」
恭平がその言葉にも恥ずかしそうに顔を歪めて、無意識のうちに腰を捩る。

一度だけ触られた恭平のものは、恭平がボタンを完全に外すのに成功した頃には、膨張して孤立していた。
身体を落ち着かせようと思っても、孝平の視線がそれを許してくれない。
恭平は涙を浮かべながら、全身を仰け反らせた。


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