仕事と関係 P4
この日の孝平の抱き方は、いつもよりも数倍も乱暴だった。
まるで何かのストレスを一気に発散させるかのように。
恭平がいくら痛いと泣き叫んでも、優しく切り返してくれるような父ではなかった。
「いや…っ!痛い…っあぁ…!!」
いつもなら聞いてくれる恭平の嫌がる悲鳴にも、孝平は耳を貸してくれなかった。
感情を押し殺したように何度も何度も恭平を突いた。
こんな父の前では、恭平は無力だった。
ただ波が去るのを待つしかない。
「ん、あはぁ…っ!痛…っやめ…っ!!」
「我慢しなさい。お前の望んだことなんだから。」
「い…っ!ぁ……ッ!!」
涙が溢れた。
中心から引き裂かれたみたいに、激痛だけが全身に走る。
「…恭平。」
暴力的に掻き抱いたあと、自分の下で今にも気を失いそうなほど精力を奪われた恭平を見て、初めて孝平が優しい声をかけた。
涙で濡れた頬が、浅く速い呼吸と共に揺れている。
「ん…。」
目を閉じたまま、夢うつつの中で恭平が微かに呻いた。
繋がったままの状態で、組み敷いた恭平のことを見下ろす。
乱暴に扱った痕跡が、胸や腕に紅い跡になって残っていた。
「恭平。大丈夫かい。」
「ふ…。」
恭平が小さく息を吐いて、うっすらと目を開けた。
孝平の顔を確認して、瞳がぼやけて涙が溢れた。
「だ、大丈夫…。ちょっと、驚いただけ…。」
小さな声で、恭平が言う。
いつもの優しそうな声の孝平に、少しだけ安心した。
身体の節々がヒリヒリと痛んでいる。恭平は流れる涙を手の甲で拭った。
「驚いた?」
「そう…驚いた。こんな痛いの…久しぶりだったから。」
言って恭平は少しだけ身じろぎ、身体の痛みに顔を歪めた。
正確に言うと、孝平からこんなに乱暴に抱かれた記憶はない。
恭平は思い浮かんだ事柄を否定するように首を振って、改めてまっすぐに孝平のことを見つめた、
「何かあったんでしょ、父さん。」
「…?」
「何か、あったんでしょう。なんとなくわかる。俺でよかったらつきあうよ。」
恭平が、腕を伸ばして孝平の肩に手を這わせた。
筋肉質なこの辺りのラインがすごく好き。
そんなことを思いながら、痛む身体を持ち上げて、恭平の頬に唇を寄せた。
「…っ。」
余程痛むらしい。
恭平は孝平の耳元で小さく息を止めて、それから熱く長い吐息をもらした。
「…竹本さん。」
耳元で聞こえたこの単語。
孝平は恭平に疑いの眼差しを送ったが、恭平はそれに気付かずに力を抜いてベッドに背を預けた。
はぁ、としんどそうに溜息をついて、また手の甲で涙を拭っている。
「…竹本が、どうかしたのか。」
「あの人に何か言われたんでしょう。俺のことで。」
「…え?」
「前父さん言ってたよ。竹本さんは勘のするどい人だから気をつけろって。」
確かに孝平にも言った記憶がある。
そう遠くない最近、社長室で恭平を抱いていた時だった気がする。
「お前も十分勘がするどいらしいな。」
孝平は苦笑して、恭平から腰を引いた。
「は…、あふ…っ!」
突然の動きに恭平がびくりと痙攣する。
傷つけられた内壁がジンジンと傷む。
孝平はどこからかタオルを取り出すと、恭平の股間にそっとそれを滑り込ませた。
その感触に、恭平が安心したように息を吐いた。
「その通りだよ。悪かったな、少し血が出ている。」
白いタオルに紅い鮮血が染み込んでいた。
恭平は恥ずかしさのためすぐにそこから目を逸らし、手をついて上体を起こした。
「いたた…。」
「無理をするな。これ以上傷が広がったらしばらくお前を抱けなくなるじゃないか。」
孝平が何気なく言ったその言葉に、恭平は顔を赤らめて微笑んだ。
竹本に何を言われたのかは知らないが、少なくともこの関係を終わらせるつもりは孝平にないことに安心したのだ。
「話して。…教えて、竹本さんのこと。」
「…お前が聞く必要はないよ。」
「それでも…教えて。こんな痛いのは、もう嫌だよ、父さん。」
恭平は、股間の辺りでタオルを押さえている孝平の腕をそっと掴んだ。
孝平が目だけを恭平に向けて、彼の意図を読み取ろうとした。
触れた指に力が入る。
「ただ力任せに俺を抱くのは、これからはやめてほしい。俺はもう代わりじゃないんだから、そういうの我慢したくない…。」
力任せに組み敷いたのでは、叔父の孝介と何も変わらない。
言われて孝平は、頭を石で殴られたような強烈な衝撃を受けた。
目の前の恭平は、その弱く華奢な身体で何度も乱暴に抱かれていたのだ。
自分の知らないところで、よく知る弟に。
あの泣き顔を忘れていた。
熱にうなされながら、無意識のうちに身体に触れるもの全てを拒否していたあの時の恭平の姿を。
忘れてはならないあの光景を、フラッシュバックされたかのように思い出した。
不安そうに孝平を見る恭平のことをまじまじと見つめて、孝平は何も言えなくなった。
そんな孝平より先に恭平が口を開く。
「…でも、どうしても力任せに抱きたい時は…そうしてもいい。父さんなら、怖くない。…でも、説明して。どうしてそうなったのか、教えて。後からでもいいから…俺にも教えて、父さん。」
「恭平…!」