仕事と関係 P11



しがみついた恭平の腕は震えていて、矢吹の耳元にかかる恭平の吐息は何かを堪えているように熱かった。
それもそのはず。

矢吹は両腕で恭平を持ち上げたまま、彼の下半身の中心部を見たまま硬直していた。
恭平の汗ばんだ手から伝染したかのように、矢吹にも変な汗が出てくるような思いだった。
「…恭平。お前、ぼっ…」
「言わないでください!はぁ…恥ずかし…っ舌噛んで死にたい!!」
「わっ。馬鹿馬鹿、滅多なことを言うな。」
矢吹が慌てて首を振って、恭平の股間から目を逸らした。
震えている恭平は、きっとまた涙を流しているのだろう。
今度は、恥ずかしくて。顔もさっきより更に真っ赤になっているに違いない。

「下ろして…矢吹さん。」
恭平が耳元で囁いた。
その声に、背筋がぞくっとする。
思えば、こんなに恭平を近くに抱いたことはないような気がする…

「下ろしてって言われても…下りて、どうするんだ。このままここで我慢するのか?」
「…っ。もう、やだ…っ。」
矢吹の言葉に恭平が苦しそうに絶句した。

恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
こんなところで一人で何故こんなにコーフンしちゃってんだろ。
しかもそれを矢吹さんに見られてしまった……

矢吹が咳払いをして言った。
「ええと。俺、自分以外の人間がこういう状態になってるの初めて見たんだけど…。」
「やだ…っ。」
「いや、嫌がらないでくれよ、責任は持つから。それで、えーと…こういう場合、トイレとかに行くもの?お前いつもどうしてんの。」
「…。や、矢吹さんは。」
恭平が真っ赤な顔を上げて、矢吹を見た。
気付けば矢吹の顔も真っ赤だ。
困ったように視線だけを恭平に投げかけて、溜息をついた。
「…トイレ…。」

おれは、ね。

だがそれも本当に切羽詰ったときだけだし、大体昼間人に会ってる時にこういう状態になったことってあんまりない。
「あ。それに、トイレに行くにはビルに入らなきゃ…。」
「い、嫌です。人に会いたくない。ごめんなさい、やっぱここに下ろして…!」
「でもここってわけにもいかないだろ…。そんな、無理だよ。ここですんの?」

何を?

「…。」
「…。」
二人して赤面して、黙り込む。
恭平はまたしても目から涙が流れるのを止められなくなった。
「…っく。ひっ…」

恭平が耳元で泣いている。
一緒になって真っ赤になっていた矢吹は、ふと、泣きじゃくる恭平を真剣な表情で見つめて、抱き上げたまま歩き出した。
驚いた恭平の腕に力が入る。

「あっ。あぁ…やぶ…っき、さん?!」
「俺の車、すぐそこだから。そこなら誰にも見られないし。」
「ひ、あぁ…っ!や…矢吹さんっ!!」
「なに?」
「もっと、ゆっくり、歩いてください…。あの…その、揺れると、キます…。」
「…ゴメ。」
恭平を見つめたまま、矢吹は一旦立ち止まった。
目が点になっている。


車の後ろのドアを開けて、矢吹は恭平をシートに下ろした。
はぁはぁと耳元で聞こえていた恭平の呼吸音が、閉ざされた車内でやけに意味に響く。
恭平はシートに横になり、再び腹の辺りを抱えるようにして足を折って蹲った。
「んぅ…っ。」
身を捩り、なんとか身体の興奮をどこかへやろうとしている。

「あのさ、余計なお世話かもしれないんだけど。」
しばらくその様子を見つめていた矢吹が、おずおずと切り出した。
苦しそうに目を閉じていた恭平が、片目を開けて矢吹を見た。

「…我慢するより、イっちゃった方がいいと思うんだけど。車のことだったら、その…気にしなくてもいいから。」
そう言って頭を掻く。
「俺外にいるし。見ないから。」
「…っ。」
耳まで真っ赤にした恭平が恥ずかしそうに俯く。
こんなこと言ってる矢吹本人の方が数倍恥ずかしかったが、たぶん勃っちゃってる姿を他人に見られるよりはましだろうと思われる。

「だめ、なんです。俺、そういうの…」
「…え?」
「我慢できますから…たぶん。」

だから、我慢するよりはイってしまった方が断然楽だと思うんだけどな…
っていうか、冷静に考えたら、こんなに身体が興奮するのって、なんか異常じゃねぇ?
「…つかぬことをお聞きしますが。」
「…?」
「どうしてこんなに、その…、興奮しちゃってるんですか。何か、見たとか聞いたとか、したの?」
「…………!!」
恭平が目を見開いて黙り込んだ。
見当違いのことを言ったようだとすぐに反省し、矢吹は打ち消すように両手を振った。

「や、なんでもないです。答えたくないなら、答えなくても!」
「…くすり。」
「…へ?」

恭平がうっすらと開いた唇の隙間から、信じられない言葉が飛び出してきた。
なん、だって?

「…薬。そういう薬、たぶん、飲んだんです。俺。」
「……どうして。」


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