女社長 P16



携帯が震えた。

肩で息をしていた森坂は、恭平の上から顔を上げた。
余韻でビクッビクッと痙攣し続けている恭平の下で、玲子も顔を上げた。
森坂は腕を伸ばしてMDを止め、恭平の身体を持ち上げた。玲子がするりと抜け出る。

「兄さんかしら。」
「たぶん。玲子さん出てよ。」
「え?どうしてよ、きっと貴方の携帯が鳴っているのよ。」
「うん。出てくださいよ。」
森坂は上の空で言うと、恭平のものからゴムを外した。そしてティッシュにくるんでゴミ箱にポイ。
意識の朦朧としている恭平はぐったりと森坂に体重を預けていた。
玲子は肩をすくめて部屋を出た。


森坂の携帯をソファの上から拾い上げ、画面を開く。
やはり、相手は三枝俊夫。玲子の兄だ。
玲子は風呂場からタオルを引っ張ってきて体に巻き、通話ボタンを押した。

「もしもし、兄さん?」
玲子が出ると、相手は一瞬黙ってから、静かな口調で言った。
『玲子か。森坂くんはどうした。』
「近くにいるわよ。それよりあとどのくらいで着くの?」
『もうホテルのフロントまで着いたよ。何階だったのか聞こうと思って。』
「え?」
玲子は慌てて左手首を見た。
そして腕時計のないことに気付き、携帯を耳から離して時間を見た。
…まだあれから三十分程度しか過ぎていない。
早すぎる。

「早かったじゃない。どうして?」
『タクシーを使った。早く着きたかったからな。おい、森坂は。』
「ちょっと待ってよ。こっちにも準備ってものが…」
『準備?』
「あ、ううん。早く着くならそう言ってくれればよかったのにってことよ。」
『ああ。予定を変更したことを電話したんだがね、留守電に繋がったんだよ。仕方なかった。』
「そうなの。」
『そこに恭平くんはいるか?』

ドキリとした。
いることはいるけど…

玲子は足音を立てずに、そっと寝室へ近付いた。
中からはベッドの軋む音と、どちらかの掠れた喘ぎ声が聞こえる。
…どちらかなんて、明白だ。

「いるけど…ちょっとトイレに。ワインを出したら飲み過ぎたみたいで。」
『ほう。代わってくれ。』
「だからトイレに!もう、話を聞いてよ。」
『…わかった。じゃあ何階なんだ?俺がそっちに行く。』
「ちょ…。……わかったわよ。」
玲子はこれ以上隠し切れないと踏んで部屋の番号を言い、ちょうど次のクライマックスにイきかけている寝室のドアを無遠慮に開け放った。

「ぁんぁ…あぁぁーーーっっ!!」

恭平が森坂の下で絶叫している。
細い腕を森坂の首に巻きつけてしがみ付き、長い足が宙を掻いてもがいている。右足の反応が少し遅くて、森坂の激しい律動についていくにはしんどそうだ。
ちょうど射精を終えたのか、二人の体の間は恭平の白濁の液で濡れていた。
はぁ、はぁ、と体から熱い蒸気を発して恭平が脱力する。
森坂が振り向いた。

「俊夫さん、なんて?」
「もう着いたらしいわよ。」
「えぇっ?早いなあ。もうそんな時間?」
「タクシーを使ったんだそうよ。」
「そうですか。」
森坂は平然と頷いて、恭平の中から出た。
大きな喪失感に恭平が大きく仰け反り、森坂が出た後も名残惜しそうに痙攣を続けている。森坂は笑って、恭平の股間に蹲った。
「あ…あぁっ」
生暖かい舌に丹念に舐められて、恭平が余韻から意識を引き戻されて再び喘ぐ。
「あっ、ひぅん…あはぁ…っ」
森坂は他人のものを口に含むなどということは滅多にない。
玲子は驚いて二人を見た。理性が散り散りになった恭平は、最初よりも妖艶さを増しているような気がする。

「森坂くん。いい加減にしないと。兄さん来るわよ。」
「ん…あと少し。すぐ。」
「はっ……はぁっ…はぁぁっぁんっ」

あと少し。すぐ、
…に、恭平がイくのだ。

ほとなく、恭平は森坂の口内に、淫らに腰を振って欲望を吐き出した。
僅かに残っていた意識の線が目の前で音もなく千切れ、恭平は静かに意識を手放した。


森坂は浴室のドアを閉め、シャワーを浴びた。
恭平の抱き心地が今も手の中に残っていて、もっと時間がほしかったと思った。まだ物足りないまま、彼を手放さなければならないのか。
…悔しいな。

天性にも近い、あの喘ぎ方は一体いつ、誰に覚えさせられたのだろう。
もし自分で調教することができたなら。
あと何回か抱けば、自分の思い通りに喘ぎ鳴くようになるかな。
森坂は考えただけでうずうずした。

一方玲子は、恭平の腕に注射器を当て、しばらく眠っててもらおうと鎮静剤を打ち込んだ。
火照った体を軽く拭いて、部屋にあった浴衣を着せる。シーツを取って、布団をかけた。酔って眠ったことにでもしておこう。

それから自分の服を着て、部屋を元のように片付け、俊夫がやってくるのを待った。
森坂がシャワーを浴び終わる前に、部屋のチャイムが鳴った。

俊夫だろう。


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(注意)++
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