双子ですから P2



階下に降りて、何か食べ物ないかと探していると、聡平が帰ってきた。
「ただいま〜。」
「おかえり〜。」
良平は上の空で返事をして、冷蔵庫を覗いている。

聡平がリビングに入ってきて、マフラーと帽子を外した。
「あー寒くなってきた。お前よくジャンパー一枚で原チャなんかに乗れるな。」
「手袋してるよ。」
「マフラーとか。」
「まだそんな寒くねぇよ。」

良平は冷蔵庫でケーキの箱を見つけて、取り出した。
「これ誰のだ?食っていいかな?」
「俺の。やるよ。」
てっきり恭平のだと思っていた良平は、きょとんとして聡平を見た。
「お前の?…誰にもらったんだ?」
「友達。」
「……友達ィ?」

良平は箱をマジマジと見て、思い付いたようにニヤリと笑った。
「女だな。」
「…そうだよ。」
「んじゃー食えねぇや。お前責任持って食えや。」
聡平はソファーに置いてあったコートの紙袋の横にもう一つ持っていた紙袋を重ねて置いて、困ったように良平を見た。

「…俺も食えねぇ。」
その言葉に良平が首を傾げる。
「え。な、なんでだよ。」
「うーん。好きじゃない。」
「……。」
それはケーキではなくて。

「…しょーがねぇな。そいじゃ無関係な俺が、食べてあげましょう。」
良平はそれはそれで嬉しそうに箱を開けてケーキを取り出した。

美味しそうにケーキをパクつく良平を尻目に、聡平は紙袋から買ってきたものを取り出した。
グレーのフード付きコート。
もう一つの紙袋には日常品がバラバラと入っていた。

「コンタクトケース忘れんなよ。」
「うん、予備を買ってきた。」
聡平が頷く。
良平は残りのケーキを口に放り込んだ。
「うまいぞこのケーキ。」
「ふーん。お菓子作りが趣味とか言ってたような。」
「…食えねぇならもらってくんなよ。」
「捨ててもいいからもらってくれって言われたら、もらうしかないべ。」
「…あちゃー。」
良平は口許についた生クリームをぺろりと舐めとった。
立ち上がって使った食器を片付け、聡平のいるそばまで来てテレビをつける。

コンタクトケースと一緒に机に転がった、黒い物体を手に取って言う。
「これ何。」
「電源。向こうとこっちじゃワットが違うんだ。」
「……ほぇー。」
良平は驚嘆の声を上げてそれを机に戻し、テレビのほうを向いた。
テレビでは外国人歌手を迎えた音楽番組がやっていて、日本語の字幕が流れていた。
「お前、英語しゃべれるの?」
「片言だよ。だから行くんじゃないか。」
「度胸あるねぇー。」
良平が溜め息混じりに言った。
「やってみたいだけ。お前のほうが度胸あるよ、人前で歌うなんて俺には出来ないし。」
「そうか?簡単だぜ、慣れると。」
聡平は苦笑して黙った。
ついたままの値札をハサミで切り離す。

お互いの沈黙。
テレビの画面からの光がチカチカと反射して、音声が室内に響いた。
聡平が黙っているので、良平もあえて何も喋ろうとしない。

やがてぼそりと聡平が口を開いた。
「俺がいない間、残ってる俺の服、勝手に着るなよ。」
「えっ。なんで。」
「…着ようと思ってたんだな。」
「サイズ一緒なんだからいいじゃんっ。」
「…お前が着ると汚れるもん。」
あーそうでした。
同じ服を着ているのに膝小僧が磨り減るのは良平の方が早いし、同じ制服を着ているのにクリーニングに出す回数は聡平のほうが少ない。
良平はばつの悪そうな顔で舌を出して黙った。

「…ねぇ、良。」
「…なんだよ。」
聡平が手に持ったコートから目を離さずに言った。
良平もテレビから目を離さない。

「本当に俺は一ヶ月もイギリスに行って平気かな。」

良平は聞き間違えたかと思って、パッと聡平のほうを向いた。
「ん?何を言ってるんだ?」
「一ヶ月って…短いと思ってたけど、実際長いよね、きっと。」
「うーん。そうか?」
長いと言われれば長いが、短いと言えば短い。
良平は聡平言いたいことがいまいちよくわからなかった。

「なんだ、兄貴か?」
「うん…」
「ありゃやせ我慢してるだけっていうのは本当だけどな、んなこと言ってたら俺やお前や明美が結婚して家出たら、このままだと寂しくて死んじまうだろうが。兎かってーの。」
「…。」
「ああ見えても誰よりも根性あるから、俺たちが心配するようなことねぇって。」
良平は励ますつもりで明るく言ったが、聡平の面持ちはそう簡単には変わらなかった。

「なんだよ、辛気臭ぇな。ヤル気満々じゃなかったのかよ。」
「うーん。そう、だね。」
パッとしない返事。
良平は説得を早々に諦めて、テレビのチャンネルを変えた。
実はあんまり面白くなかったのだこの番組。

「おい聡平。」
「うん?何。」
「今週の…土曜日はなんか予定あるのか。」
「最後のバイト。しばらくお休みするから、その日はシフト最後まで入れた。」
「彼女とは会わねぇのか?」
「それは日曜日。どうして?」
「いやなんとなく。駄々こねそうだなって思って。」
「そんなことないよ。」
聡平が彼女について熱弁しているのはどうでもいいとして、良平は聡平の土曜が一日中空いていないことに愕然としていた。

どーしよう瑞樹〜〜

今のままではバイト外せとも言えない。


++
++
+表紙+