双子ですから P3



その夜、良平は夕飯後に二階へ上がり、杉野拓巳に電話をかけた。
もう仕事は終わっているだろうと思ったが、杉野は出なかった。
二回やってみたが出ないので、残業かと予想がついた。

良平は諦めて携帯を閉じた。
階段を上がる音がして、聡平が部屋に入ってきた。

「うわっ。くらっ。電気付けろってー。」
聡平は入るなり、窓からの明かりのみで真っ暗な部屋に驚いた。
扉脇のスイッチを押すと、部屋に光が満ちた。

「んだよ、入ってくんなよ!」
「あほか。ここは俺の部屋でもあるだろっ!」
「ああ言えばこう言う。」
「どっちが?」
良平は腕を伸ばしてベッドに背から落ちた。
毛布が一緒にバウンドする。

「…そいやお前。」
聡平が机に座りながら言った。良平が目だけそちらに向ける。
「一昨日くらいに、商店街の薬屋に言ったろ。」
「へ?…あ、ああ。言ったけど。」
「昨日目薬買いに言ったら、“一日で使い切ったのかー”って笑われたよ。」
それを聞いて良平が苦笑する。
「あそこのばーちゃん、もうそろそろ年だからなぁ〜。」
「うん。いくらなんでも今頃になって間違えられるとは思わなかったな。」

昔はともかく、今は服の趣味も微妙に違うし、髪の長さも違う。今は良平のほうが少し長い。
良平はピアスをしているが聡平はしてなくて、でも銀の指輪をしている。

「今でこそないけど、昔はよく間違えられたよな。」
「そだな。俺はいっつも、良平の代わりに怒られた。」
「俺はお前のお陰でしてないことで褒められたな。」

同じ服、同じ背格好でそれぞれが違うことをやると、その現場を次に通った片方が怒られたり褒められたりする。
この二人の場合、大体がいたずらするのは良平で、褒められることをするのは聡平だったが、何分周りの人間は二人の見分けがつかないからどうしようもない。

小さい頃から間違えずに見分けられたのは、母と妹だけだった。
兄はというと、これが意外に鈍感で、必ずどっち?と口で聞いてきた。
どっちだと聞かれると100%聡平ダヨと答えていた良平も、彼には正直に言うしかなかった。嘘をついてもどうせばれた。

「何回か、入れ替わって学校行ったよな。」
「行ったな。担任気付かなかったからな。」
「算数のテストと体育、とかだよな。」
「そう。俺だって体育やりたかったのに。」
小学校の頃は二人の学力も運動も能力は変わらなかったから、入れ替わっても他の人に勘付かれることはなかった。

中学に上がると良平の素行が乱れ始め、その反動で聡平は優等生と呼ばれるようになった。
「中学は、やばかったな。」
聡平が呟いた。
同じことを考えていたのか、良平は苦笑して頷いた。
やれやれ出ましたよという感じで肩を竦める。
「あれは、若気のいたりってやつだよ。記憶から抹消したいくらい自分勝手でどうしようもない。」
「はは。」

こんな両極端な二人が、同じ高校に同時に入学できたのは奇跡に近かった。
双子だったからできたのかもしれない。

聡平は机の上に広げた英語の参考書をペラペラとめくりながら、良平を見た。
ベッドの上で足を上げて、体操でも始めそうだ。
足を頭の上まで持ってきたところで、携帯から着メロが流れ出した。
「あっ、来たぁ!」
「先輩か?」
「おう。ちょっと、内緒の話だからお前聞いちゃだめ。」
言って良平はニヤリと笑って部屋を出ようとした。

「内緒って…変なことすんなよ。」
「変じゃねぇー!」
いーっと顔をしかめてから良平は部屋を出て行った。

すぐ別れると思ってたけど…よく続くなあの二人。


良平は廊下に出て、突き当たりの明美の部屋の前あたりにきてしゃがみこんだ。通話ボタンを押して、小声になるように口元を手で押さえた。

「もしもし?」
『あ、良平?俺、拓巳だけど。なんかあった?』
「土曜日のことだけど。」
『ああ。……なんで小声なの?マズイ用事でも入った?』
「いや。瑞樹が、集まれって。お前と約束があるって言ったら、一緒に来いって。」
『え?俺もか…。それはそれでめんどくせぇな。』
「そう言うなよ。実はさ。」
良平は聡平の留学のことと、瑞樹が何か企んでいることを話した。
杉野は無言で聞いている。

『へー。聡平イギリス行くの。』
「うん、一か月。」
『そりゃ壮大に送り出してやらなきゃだな。…よし、行こう。』
「ナイス!さすが☆」
『じゃ、その代わり良平は金曜から俺んち泊まってってね。』
「んな?」
『それくらいやってくれるんでしょう?折角二人きりで遊ぶんだったんだから。』
杉野にこう言われてしまっては、良平は断る術を持たない。

…これといって用事もないし。

「わかったよ。」
『じゃ、決まり!』
杉野のニヤニヤとした笑顔が良平の脳裏にちらついた。


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