双子ですから P5
作戦決行の前日の金曜日は雨だった。
今日はあまり冷え込まないので、雪に変わることはないだろう。
良平は早々にバイト先を引き上げて、コンビニに寄ってパンとおにぎりを購入した。
明日の朝食のつもりだ。
良平はコンビニを出て傘を差し、徒歩で杉野のアパートへ向かった。
まだ杉野は帰ってきていないだろうから、ポケットから合鍵を取り出した。
自分の家のそれと同じキーホルダーの輪の中に、繋いである。
彼が一人暮らしを始めた時に、作ってくれた鍵。
良平はウォークマンを聴きながら歩道橋を渡り、杉野のアパートに着いた。
案の定、家の主は帰ってきていない。
鍵を開けて中に入った。
勝手に冷蔵庫を開けて野菜を取り出し、簡単に炒める。
炊いてあるご飯を茶碗によそって、一人で夕飯を始めようとしたら杉野が帰ってきた。
「あ。俺の分は?」
「そこ。」
良平は箸で台所を指して、いっただっきまーすと口を開けた。
「ここまで来て先に食うな…。」
「はやふひろ。」
良平は熱いごはんにひーひー言いながら答えた。
待つ気はないらしい。
杉野が荷物を置いて背広を壁に掛け、とりあえずコップに烏龍茶を注いで一気に飲み干した。
「あー…疲れた。」
「どうした?」
「どうもこうも。」
良平は夕飯を食べている間ずっと、杉野の仕事場での愚痴を聞いてやった。
社会人は大変だなー、なんて呑気に考えながら適当に相槌を打つ。
一通り喋って満足したのか、杉野は夕飯が終わるとテレビをつけた。
「そういや、明日の聡平のなんとかっていうのは何時からなんだ?」
「聡平のバイトが終わってから。だから夜の十一時とかかな。」
「遅いなぁ。お前んち大丈夫なわけ?」
「兄貴か?大丈夫、明日は親父が出張で明美が帰ってるはずだから。」
「ふーん。」
杉野には良平の家庭の詳しい内部事情まではわからない。
良平もほとんど話に出さないので、ちょっとした時に聞く話の内容や、なんとなくの雰囲気で推測を巡らしているだけだ。
あえて聞いてみることもしなかった。
「作戦があるんだよね。みんなで考えたんだけど。」
「へー。どんな?」
「あのね、まず聡平がバイトしてる店はイタリーってパスタ屋なんだ。」
「ああ。」
「そんで七時ごろから十時ごろまでに、俺たちは外で店に入っていきそうな客を捕まえる。」
「…“店の売り上げ向上に協力しよう”作戦…?」
杉野が不思議そうに良平を見た。
「んなわけあるか。」
「だよね。」
「捕まえた客に、カードを渡す。そこには一文字ずつ平仮名を書いておいて、店に入ったら聡平に渡してくれって言うんだ。」
「はい?」
「聡平の顔がわからないと困るから、俺の写真を見せる。」
「…カードに何が書いてあるわけ?」
「暗号。」
真面目な顔をしてそんなことを言った良平に呆気に取られて、杉野が一層眉をひそめた。
「なんの暗号?」
「バイトが終わったら河原に来いっていう意味の暗号。」
「…ほう。」
「頭のよろしい聡平くんはきっと解いて、河原に来るだろ。」
「まあ…無視されなきゃいいね。」
何気ない杉野の相槌に、良平が愕然と黙り込んだ。
慌てる杉野。
「え、いや、もしもの話ね。」
「…いや、ありうるよな。聡平だもんなぁ…。」
早くも作戦が失敗したように気落ちした表情を見せる良平。
杉野は更に慌てた。
「ようは来るように仕向ければいいんだろ?」
「来るように…?」
「聡平の大切な何かを確保して、それを取りに来いとか…方法はいくらでもあるさ。」
「……!さすがだ!見直した杉野!」
「どうも。」
杉野は人差し指と中指を軽く立てて、ピースサインをした。
「そいで次はどうするの?」
「俺たちは河原の近くに隠れてて、現われた聡平を驚かす。それからは普通に花火して、まあちょっとしたプレゼントでもあげて、飲み屋直行〜♪みたいな。」
「こんな季節に花火?売ってるのか?」
「トーコが夏にできなかった花火セットが残ってるんだって。」
「ふぅん…。」
杉野がどこか不満そうに唸ったので、良平が首を傾げた。
「なんかおかしなとこあったか?」
「いや。ってゆーか…もう少しインパクトが足りないな。」
「インパクト?」
「もっと派手なこと、しようぜ。」
良平が驚いて杉野を見つめ、楽しそうに目を輝かせた。
「派手??派手って、どんな??」
「例えば、打ち上げ花火とか。ドーンと一発。」
「…それこそ売ってねぇだろ。」
「それに代わるもの…牧村はロケット花火は持ってるのか?」
「あるって言ってたよ。」
「んじゃそれ使おうぜ。プレゼントも驚きもののきなものがいいよな。」
「明日、買いに行こう!」
「決まり。」
杉野がウインクして、食べ終わった食器を片付け始めた。
良平は胸がドキドキしてくるのがわかった。
明日は楽しくなりそう。
聡平のやつ、ちゃんと驚くかな。
どうせならおもしろおかしく送り出してやればいいんだ。