遠距離恋愛 P3



良平は、杉野を見送った後、帰宅しようと改札へ向かった。
財布を取ろうとポケットを探っていると、突然後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、自分と同じくらいか少し高めの短髪の男が立っている。
黒いサングラスをちょいとあげて、その奥から碧い瞳が覗く。

「Excuse me ?」
「…?」

いきなり英語で話しかけられて、良平は咄嗟に持ってる知識を掻き集めた。
えーとえーと、道を聞かれた時は……。

「What charming boy you are ! What's your name ?」
「………What ?」

ちょっと待て。
なんか道を聞かれてるのではないような気がするけど…。

「あの…えっと…」
「your name ?(あなたの名前は?)」
「…あー…My name is Ryohe.(良平です)」
「Yes,Ryohe.Nice to meet to you.(良平ね。はじめまして)」

男は大きな手を差し出して、良平の手を取り、半ば無理やり握手をした。
困惑の表情を浮かべる良平に対して、男は一人、通じない英語をべらべらとしゃべっている。
ジャパニーズボーイ、キュート、セクシー、他にもなんか関係ない言葉が飛び交っているような気がする。
道を尋ねているわけではなさそうだ。

良平は男を制止させるために一旦手を解いた。
「プリーズ!えー…、I cannot speak English. Ok ?(俺は英語をしゃべれない。わかる?)」
「Oh , sorry !」

片言の英語でも理解はしてくれたようだ。
ほっと一息つくと、先程放した手をもう一度掴まれて、顔に迫られた。

「私の名前は泰史です、よろしく!」

……日本語じゃんっ!

「…おまっ!日本語しゃべれるならしゃべれると……!」

どうりで初め外国人だと感じなかったわけだ。
見れば見るほどアジア系の顔をしてるじゃないか。

「なかなかしゃべれるね、良平くん。」
「……は?!」
「いや〜それにしてもそっくり。おっどろいたー。」
「…はっ?!」

意味が分からない。
怖くなって一歩後ずさると、背中に人がぶつかった。

「あっすいませ…」

頭を下げながら振り向いて、目が点になった。
自分の顔がそこにある。

「ハァイ、良平。久しぶり。」

そいつはお気楽な声を発してニッコリと笑った。

「…何がハーイ、だっ!聡平!!」

そこに立っていたのは双子の弟、聡平。
彼はイギリスに留学しているはずだった。
確か帰国は来週だと聞いていたけど。

「…いつ帰ってきた?」
「今日の朝。秘密にしようと思ってたのに、さっき杉野先輩といるとこ見ちゃって。そしたらこいつが話しかけたいって言うもんだからさー。」
「泰史でーす。イギリスに住んでますけど、日本人です。」

そう言う泰史は、今も良平の手を掴んだままだ。
はっと気付いて良平が解こうとすると、放さないようにぐっと力を入れてきた。

「ちょ、ちょっと…。」
「良平、今から帰るの?」
聡平が良平の顔を覗きこんで聞いた。
行く前にトーコからもらっていた帽子がとてもよく似合ってる。

「…帰るよ。なんでだ?」
「兄貴に伝えて。一週間後ちゃんと帰るって。」
「はぁー?やだね。てめぇで言えっ。」
「頼むよ。泰史が日本文化見たいんだって。」

「良平くんも一緒にいかが?」
泰史が手を握ったままにこにことした笑顔で聞いてくる。

この無邪気な笑顔……苦手だ。

「…俺はいい!」
「それは寂しいですぅ。」
「…ッ!聡平!こいつどうにかしろ!!」
「泰史、良のこと気に入っちゃったみたい。」
「私、良平みたいな元気な少年、大好きです。」
「少年言うな、このタレ目ッ!」

手を上下に振り回して解こうとする良平に、聡平がさりげなく耳打ちした。
「…言っとくけど、泰史節操ないから。気をつけてネ。」
良平が絶句する。

掴んだ良平の手の甲に、泰史は唇を寄せてキスを落とした。
良平と聡平が驚いて同時に泰史の方を向く。
顔を上げた泰史は、にっこりと目を細めて、良平を見つめた。

「良平くんは、好きな人いますか?」
「…は?」
「いないのなら、私を好きになってくださーい。」
「…!」
良平の頬に血が上る。

困り果てた顔で聡平に目をやるが、弟は他人事のように涼しい顔をしているだけ。
助けてはくれなさそうだ。

「私は良平くん大好きでーす。」
良平は呆れて何も言えなかった。

仲間を待たせているという聡平と泰史を振り切って、良平は帰途についた。
掴まれていた手がじんじんとする。

杉野に見られてなくてよかった。

そんなことが頭に浮かんで、慌てて首を振った。
別にやましいことなんてしてないのだから、罪悪感を感じなくてもいいのだ。

こんなんであと一週間やっていけるのだろうか。


++
++
+表紙+