非日常 P6
どさっと乱暴に地面に下ろされて、良平は尻餅をついた。
「ってぇ!何すんだよっ!!」
「おーおー。怒ってるよ。どーする?」
「早めに手をつけちゃって、大人しくさせるしかないねえ。」
良平は本能的な悪寒がした。
やばい。
ジリジリと迫ってくる二人に、良平は、手をついて後ろに下がった。
暗くて、男たちの顔が全然見えない。
それが良平の恐怖心を煽った。
「ちょ…ッてめぇら、ふざけんなっ!」
自分の声の響きから、ここが相当狭い空間なのかもしれないと思った。
「ふざけてないよ。君がちょっと、反抗的すぎるから、世の中を知ってもらおうと思ってね。」
「な…」
「力のある者には、跪かなきゃいけないんだ、よっ!」
良平から見て右側の男が、一気に良平に近付いた。暗くて視界が悪いのと、体にこもった熱のせいで良平の反応が遅れた。
そのまま左右の手を取られて、良平は地面に押し倒された。
「って!」
「具合、悪そうだね。」
「大丈夫、きっと下半身は元気になるよ。」
「ふ、ふざけんな!……あっ!」
両手を押さえた男が、良平の首筋に噛み付いた。
それを合図に、もう一人の男が暴れる良平の足を掴んだ。
「やめ…やめろッ!!」
「大人しくしないと、服が破れちゃうよ。」
「おい、ちゃんと足押さえろって。」
これでもかというくらいに抵抗したが、体の細部に力が入らない。
悪いことが重なる時は重なるけど、それが何も今でなくても…
さっき考えた似たような事柄が、頭の中を走った。
男の手が自分のベルトに伸びたのがわかった。
「ちょ…やめっ!ほんとに……ッ!!」
悲痛な叫びもむなしく、腕は動かないし、足にも力が入らなくなってきた。
首筋を舐めている男の舌が、服の下にも潜り込んでいく。
嫌だ。
イヤだ…助けて!杉野………!!
「アアッ!」
熱で敏感になった良平の身体が跳ねる。
「…ッ。」
「すげー反抗的だったのに、大人しくなったぞ。」
「今のうちにヤっちゃいましょう。俺、先ね。」
「いっつもそれだな。じゃあ、俺は上半身トロトロにしとくから。」
男たちの声が遠くに聞こえ始めた。
このまま、俺は…
誰ともわからない男たちを喜ばせてやんなきゃいけないのか?
「や」
「ん?」
「…やめろっつってんだよ!!」
良平は、懇親の力を振り絞って右手を振り切り、腕を押さえていた男の横っ面を殴り飛ばした。
ガツン!!
殴られた男がもう一人の上に倒れこむ。
「うわぁ?!」
その男が慌てて彼を支えこみ、良平のベルトから手を離した。
辛うじて醜態を晒すことを避けた良平は、涙目になって二人を睨んだ。
自分の息が、白く、何度も吐き出されるのが見えた。
「て、てめぇら…死ねっ…!」
そう言い残し。
良平はその場に倒れこんだ。
今ので残った全部の力を使い果たしたらしい。
動かなくなった良平の横で、殴られた男が、頬を押さえながら起き上がった。
「こ、こいつ…許さねぇ。」
「だ、大丈夫か?腫れてるけど。」
「どってことねぇよ!続きだ!殴るだけ殴って気を失いやがって!恥ずかしい写真いっぱい撮って末代まで晒し者にしてやらあ!」
殴られた男が半ば頭のキレた言葉を吐いて、勢いよく良平に襲い掛かろうとした、その時。
彼と良平の間に現れた長い足が、その男の腹を思い切り蹴っ飛ばした。
どこから発したのかわからない悲鳴を上げて、男が少し離れた場所へ倒れこむ。もう一人は、呆然として、暗がりに現れた人物を見上げていた。
背が高くて。
握った拳の強さが、彼の怒りを表しているようにも思えた。
「…誰だ、てめぇ?」
言った声が震えている。
蹴られた男は、余程打ち所が悪かったのか、潰れたまま動かなくなっていた。
「てめぇの方が誰だ。」
「…。」
「さっさと失せねぇと、ボッコボコにして末代まで晒し者にするぞ、くそったれが!!」
日中ならともかく、暗がりで見るその男の佇まいは、恐怖以外の何ものでもなく。男は怯えるように後ずさりして、倒れた男を肩に担いで一目散に逃げていった。
良平の前に立っていたのは、紛れもなく、杉野拓巳。
彼はしばらく男たちの逃げた方向を睨みつけていたが、やがて、ふっと表情を和らげて良平の元にしゃがみ込んだ。
「良。大丈夫?良平。起きて。」
杉野は良平の身体を抱き起こして、揺さぶった。良平の目尻には涙が溜まっていて、その頬は昨日よりもはるかに熱かった。
「ボロボロじゃんお前…。」
杉野は良平のズボンとベルトを元に戻し、襟元もきちんとしてから、良平の身体を抱き上げた。
鞄は後から取りにこよう。
あと…落ちていた携帯電話。
電源が切れていても、ちゃんと良平の居場所を教えてくれた。
車の後部座席に良平を運び込むと、僅かな衝撃で、良平が微かに目を開けた。
「ん…。」
「良?気がついた?」
優しく声をかけると、その声で良平が目を大きく見開いて、次いで、ポロポロと涙を流し始めた。
「すぎ……ッ。」
言葉にならない。
良平は紡ごうとした言葉ごと、杉野の首にしがみついた。
驚いて杉野がバランスを崩す。
「良平。もう、大丈夫だから。」
「っく。ひっ…!」
「もう泣くな。…泣かないで。もう大丈夫。側にいるよ。」
良平の涙が、首筋に触れた気がした。
体も熱いが、涙も十分に熱いようだ。
「怖かった…。」
小さく言った良平は、安心したように、そのまままた気を失った。