襲撃 P2
「…で、その話のオチは?」
『ねぇよそんなもんは。ただ、いい奴もいたもんだなぁって話。』
「んなことで電話してきたのかお前は。」
瑞樹は呆れて苦笑した。
彼は今日、大学の講義が休講続きで、更にトーコが普段何もない日だというので街中まで二人で買い物に来ていた。
良平の着信はそんな時にあり、横でトーコも笑っていた。
「よかったなぁ。…と、これでいい?」
『ぬいぐるみいる?三体もあるんだけど。』
「お生憎様。俺はいらねぇよ。」
「トーコ欲しい!一個ちょうだいよ良平!」
「…トーコがくれってさ。」
『あっ、なに今デート中?てっきり大学にいるものだと…それはわりぃな!』
「今更?まぁ別に気にすんな。」
『うん。でも邪魔して悪かった。またな!』
「おう。」
良平との電話を切った瑞樹は、トーコと目を合わせて苦笑した。
「良平ったら、変わらないねぇ。」
「あいつはいつでもあんな感じだよ。さ、行こうぜ。」
瑞樹はトーコの手を取って、駅ビルの中へ入っていった。
「そういえば瑞樹。」
「あ〜?」
「先週、合コン行ったって?私に報告、なかったわよね。」
「ぎ、く。」
トーコが眺めているキャミソールを一緒に隣で眺めていた瑞樹は、笑顔を引きつらせて視線を逸らした。
「たまたま女子側に私の友達がいてさ。その子がプリクラに写ってる人がいるよって、教えてくれたの。」
「あちゃ…。」
「あちゃーって!じゃあ本当なのね?」
「えと、いろいろありまして。友達がどーしても来てくれって言うから…。」
「止むを得ず行ったってこと?」
「そうそうそうそう。相手の子の一人がさ、俺が来ないなら行きたくないって言ってたらしくて…。」
「だから行ったの?」
「うん。友達をほっとく訳にはいかないしな。」
「…で。その子と最終的にいいムードだったって?」
「はぁ?いや、あんま覚えてねぇけど…なんもしてねぇよ。」
「怪しいなぁ…。」
「怪しむな!」
瑞樹は思ったよりもトーコが怒っていないことにほっとして、ポンポンと彼女の肩を叩いた。トーコも渋々頷く。
瑞樹はルックスと会話のテンポだけはいいから、彼がその気になればどんな女も落とせるだろう、とトーコは信じている。
それだけに彼の女に対する行動一つ一つが気になるのだ。
だが、嫉妬深い女だとは思われたくない。
「ね。瑞樹、このキャミ似合う?」
「似合うよ。でもな〜、俺はこっちの方が好きだな。お前は柔らかい色の方が似合うよ。」
「そうかな。」
トーコは機嫌を直したのか、にっこりと微笑んだ。
買い物を済ませて、二人は駅ビルを出た。
夕飯でも食べるかと瑞樹が腕時計を見た瞬間に、トーコの後ろから声をかけられた。
「あっれ?都代子。お前、都代子じゃねぇ?」
名前を呼ばれたトーコと、それに反応した瑞樹が同時に声の主を見た。
それは茶髪にピアスをし、Tシャツとジーパンをきちっと着こなした男だった。
肌が女のように白く、スベスベしていそうだった。
「あ。明人?!」
トーコが驚いて口を手で覆った。
どうやら顔見知りらしい。
「何やってんの?嬉しいな…何年ぶりだろう!」
「あんたこそ…今まで何やってたのよ?音信不通だって、友達が騒いでたよ。」
「いやぁわりぃ…。ちょっとね。」
明人と呼ばれた男はポリポリと頭を掻いて、ふとトーコの隣に立つ瑞樹に気がついた。
「あ。どうも、彼氏さんですか?」
明人はペコリと軽く頭を下げた。
「どうも。」
瑞樹は軽く頭を下げた。
すかさずトーコが瑞樹の腕に抱きついて、幸せそうに笑う。
「瑞樹くんっていうんだよー。トーコがお世話になりっぱなしの人。明人も仲良くするといいよ!」
「へー。また、ノロケちゃって。」
明人は笑ったが、目だけは笑っていなかった。
目ざとくそんなところが気になった瑞樹は、トーコの手を握った。
「じゃあ、俺たちは行くところがあるので。失礼します。」
「あ、ごめんなさい、引き止めてしまって。」
「明人、またね〜。」
トーコは瑞樹に引かれながら明人に手を振って、無言で先を行く瑞樹に歩調を合わせた。
彼が少し、機嫌を損ねたような気がする。
「瑞樹…。」
「ん?」
「どうしたの?明人のこと…何か気になった?」
「…いいや。そんなことねぇよ。ただ…」
「ただ?」
「…どこかで見たことあるような気がするんだ。俺は仲良くなれねぇ気がした。」
「そんなこと。ないわよ、瑞樹に限って。」
トーコは心配そうに、前だけを見つめる瑞樹の横顔を見つめていた。