襲撃 P4
店の外にたむろしていた不良たちはいなくなったものの良平がなかなか戻って来ないので、良平の後輩はヤキモキとして店内をうろついていた。
良平が背の高い男と店の裏に回っていくのを見た。
気になるから様子を見に行きたいが、外は怖いので見に行くことができない。
ウロウロ、ウロウロ…。
「俺は、赤城智哉って名前。」
「へぇ。」
建物の裏に場所を移したので何かと思えば、彼はすんなりと自分の名前を名乗った。
赤城智哉。
聞いたことのない名前だ。
「年は?」
「十八。」
「年下か。やっぱりな。」
年齢が妹と一緒なので、もしかしたら明美の彼氏、清二なら知っているかもしれない。
「それで。話ってなんだ?」
「…。佐久間さんって、昔、少し有名だったよね。俺が小学生の時。」
「そうだっけ?…人違いだよ。」
「いや。さっきの明人に対する態度でわかる。あんたは喧嘩慣れしてる。」
「そうかな。気のせいだよ。」
「俺を見ても怯まないしね。さすがだな。」
誤魔化しても、智哉の確信は変えられそうにない。
良平は諦めてため息をついた。
「ま、もし仮にそうだったとして。だからなんだってんだ?」
「いや別に。今は噂とか聞かないけどさ、もう喧嘩はやめたの?」
「喧嘩はしてねぇ。」
「なるほど。だからこんなに、顔がかわいいんだ。」
「…は?」
無表情を貫いていた良平が、初めて顔を歪ませて智哉を睨んだ。
「肌がすげぇキレー。」
「おま…?何を言って…」
「明人も綺麗だけど、あいつのは偽者っぽい。中身は腐ってるからな。でも…佐久間さんは違うよね。」
「は?」
「…触りたい…。」
「!」
大きな手が良平の頬に触れそうになった。
咄嗟のことに、思わず腕でその手をガードしてしまう。
すると智哉はその腕を掴んで、ガンッと壁に押し付けた。
「いてぇっ!」
「腕も意外と細いんだね。喧嘩ってしてないと、筋肉落ちるよ。」
「うるせぇ!ってか…ふざけんな!離せ!!」
「触るだけだし。そんな騒がないでよ。」
「触んな!!」
良平は掴まれた腕をどうにか解こうと、精一杯に抵抗した。
しかし自分より大きく、下手をしたら杉野よりも背が高いのではないかと思われる智哉の体格には余程頑張らないと敵うわけもなく。
仕方なく、良平は足を上げた。
「ふざけ…っ!!」
「黙ってよ、佐久間さん。みんなに気付かれる。」
「な、ん…………っ。」
振り上げた足が、その場で動きを止めた。
思考が停止して、外の音が全て消えてしまったかの如く何も聞こえない。
拘束された腕も、押さえつけられた肩も、痛みなどまったく感じなかった。
ただ感じるのは。
重なり合った、唇から伝わる相手の体温だけ。
触れていただけの智哉の唇が半分開かれ、生暖かく柔らかいものが良平の唇に触れた。
はっと我に返り、良平は再び暴れだした。
「…っ!ヤメ……ッ!!」
良平の小さな嫌がる声が、智哉の中へ吸い込まれる。
抵抗した隙に少し開いたのを見逃さず、智也は良平の中に舌を滑り込ませた。
「…ぁ…っ!」
絡み取られて良平が小さく呻く。
二人の呼吸が激しく混ざり合い、智也はより一層強い力で良平を締め上げた。
肌以上に柔らかい感触に夢中になる。
嫌がる良平の必死な表情も予想以上に魅せるものがあった。
智也は良平の顎を取り、更に奥まで下をねじ込んだ。熱い口内を掻き乱し、良平に息をつく暇を与えない。苦しそうに息を止めた良平は、目じりから、一筋の涙を流した。
それと同時に唇の端からも、良平のものか智哉のものかもわからない唾液が一筋、頬を伝って流れ落ちる。
智哉が角度を変えるたびに、粘着質の卑猥な音が辺りに響いた。
この力強さ、逆らえない。
キスだけでこんなに激しく、こんなに求められたのは初めてだ。
…でもどこかに良平は、彼の心の寂しさを感じていた。
それがなんなのか。
智哉が良平に求めていたのはなんなのか。
強引に唇を奪われ、抵抗を許されない状況の良平には、それを考える余裕などなかった。
「佐久間さん。」
「…っせぇ!」
智哉が良平をやっと解放した途端、良平は智哉の身体を力いっぱい押しのけた。
手の甲で唇を拭い、涙も拭いた。
「どういうつもりだ!初対面の相手に向かって…馴れ馴れしいぞ!!」
「佐久間さん。俺のうちに来いよ。」
「誰が行くかってーの!!俺は仕事に戻る!お前はさっさと家に帰りやがれ!」
「終わるの待ってるから。」
「待つな!帰れ!!」
良平は怒りの形相で言い放ち、フンっと鼻を鳴らして店の方へ踵を返した。
コンビニのドアをガンッと力強く開けて入って来た良平を見て、オロオロとしていた後輩が駆け寄った。
「佐久間さん!大丈夫っす………か?」
近くまできて、良平の表情を見て凍りつく。
明らかに機嫌が悪い座った目で睨まれた。…触らぬ神に祟りなしといった感じだ。
「何びびってんだ。追っ払ったよ。」
「あ。ありがとうございます…」
「びびんなっつぅの!!」
「ひぇ〜っ。佐久間さん、怖いしっ!」
良平の一喝に、後輩は逃げるように良平の傍から離れた。
ちっと舌を鳴らして、良平はもう一度だけ外を見た。
ここからは智哉の姿は見当たらない。
…何様だ、あいつ。
良平のはらわたは煮えくり返っていた。