襲撃 P11



昼食後。
岡田瑞樹は授業もそこそこに、昔の仲間と連絡を取ろうと、一人、一緒にいた友達と別れた。
知っている番号はそうないが、そこから順番に輪を広げていけば、誰かが知っているだろう。
闇雲に探すよりはいくらか手間が省けるかもしれない。
いざ連絡をとってみると、その世界から手を引いた連中も多くて、五人目くらいでやっと、有力な情報を得た。
高校を卒業した後、パチンコ屋で働いている野村という男だ。


「え?」
瑞樹は我が耳を疑った。
携帯電話を握り締めて、大学構内の食堂の裏に一人で座っている。

『だから。赤城はやべぇって。なんかしらねぇけど高校生のくせに一人マンションで暮らしててさ、両親いねぇかと思いきや、実家はすっげぇ金持ちなの。なんか親は警察の人間らしい。赤城が起こす事件は全部親父が揉み消してんだと。』
「ふーん…。赤城の起こした事件って?」
『女をそのマンションに一週間ほど閉じ込めてたらしいぜ。もちろん、タダで閉じ込めてたわけじゃねぇだろうし。』
「うわ。それも揉み消せるのか?」
『その女は今精神科に通ってるらしいんだけど、その治療費、全部あいつんち持ちらしいんだ。それで女の両親も渋々了承させられてる、みたいな。』
「…ひでぇ話だな。」
『かわいそうだよな、その女の子たち。』
「女の子、たち?!」
『ああ、一人じゃないって聞いたぜ。結構常習犯ぽい。』
「うわっ。うぜぇ…。」

瑞樹は大きく溜息をついた。
どうしてそんな奴に、男の良平が狙われなくちゃならないんだ。

『とにかくさ、何してんだかよくわかんねぇけど、赤城だけはやめとけよ。』
「わかったよ。サンキュー。」
『わかってねぇだろ!お前、悪いことは言わねぇから、そのまま普通にのんきな大学生やっときな。』
「…でもなほっとく訳にもいかねぇんだ。」
『ほっとく?誰……』

ドカッ!!

瑞樹は電話口から突然聞こえてきた異音に、緊張して腰を浮かせた。
今のは何の音だ?…人間を殴ったような音がした。
次いで聞こえる、地面に叩きつけられたような音。

「おい、ノム!野村?!」
瑞樹は慌てて呼びかけたが、騒がしい音がするだけで野村からの返事はない。
「ノム!どうした?!」

しばらく待つと、ガガガと異音がしていたのがピタリと止んで、向こうで答える者がいた。
「ノム?!」
『……やぁ、瑞樹くんかな。』

野村じゃ、ない。
瑞樹は浮かせていた腰を落ち着け、深呼吸をしてからまっすぐと前を見た。
「…誰だ。」
『覚えてないかな。昨日君が都代子といる時に会ったじゃないか。』
あいつか。
瑞樹は昨日のことを思い浮かべて、確かトーコが“アキヒト”と呼んでいたことを思い出した。

「うろ覚えだな。何の用だ。野村は?」
『ちょっと眠ってもらっただけだよ。手違いがあってね…苦労したけど、ようやく君と話ができそうだ。』
「俺と?」
『そうさ。君なら知っているんじゃないかと思ってさ。佐久間くんの、居場所。』
「…佐久間か。」

やっぱり。
瑞樹は昨日の良平の話を思い出し、明人というのはトーコの知り合いで間違いなさそうだと確信した。
一体どうなってやがるんだ。

『佐久間良平はどこにいる?』
「教えるかっつーの。一体てめぇら、あいつに何の恨みがあるっつーんだ。」
『まぁまぁ、そう怒らないでよ。君には関係のないことじゃないか。』
「うるせぇ。そっちこそどこにいるんだよ、赤城って野郎は。」

『…こいつがどうなってもいいのか?岡田。』

一気にたたみかけようと意気込んでいた瑞樹の胸にぐさりと突き刺さるような言葉が聞こえてきた。
気を失った野村が、今、向こう側にいる。
「こいつを返してほしければ、佐久間を連れてこい。いいな。」
『…なっ?!』
「そうだな…二時間以内に連れてこい。さもないと、こいつは明日には海に浮かんでるかもなぁ?」
ヒャハハ、と下品な笑い声をたてて、明人が笑う。
後ろから数人の違う笑い声も聞こえるので、彼が一人ではないことがわかる。

…畜生っ。

「場所はどこだよ!それまでに野村に何かしやがったらただじゃおかねぇからな!!」
瑞樹は怒りに我を忘れて怒鳴り、勢いよく立ち上がった。


こんな卑怯な手で良平を渡してたまるか。
もちろん、野村も助け出してやるっ。

瑞樹は明人との電話を切ると、一目散にバイクのある場所まで走った。
途中で携帯電話を開き、“牧村都代子”の電話帳を探す。
見つけるとすぐに、通話ボタンを押した。

しばらく呼び出し音が鳴って、授業中なのか、留守番電話に繋がった。

「もしもしトーコ?!俺!これからでかけるけど、俺と良平にはコンタクトを取るな。片付いたら連絡するから。祐也にも伝えといて。じゃあ!」

口早に録音させて、瑞樹は電話を切った。
駐輪場のバイクにひょいと跨って、ヘルメットを被る。
ちらりと時計を見て道路の彼方へ姿を消した。


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