襲撃 P12



良平は、瑞樹の寮部屋の窓からぼんやりと清清しいまでに晴れ渡った外の世界を眺めていた。
この寮、大学の構内にあるといっても講義棟からは少し離れていて、人影は数分に一つあるかないかだ。
テレビを見たりゲームをしてみたり、ありとあらゆることをして気を紛らわそうとしたが、ふとした時に浮かんでくるのは、赤城智哉の狂気の目。
そして、それとはまったく正反対の、杉野拓巳の優しい瞳。

良平は珍しく、杉野の腕でぎゅっと抱きしめられたいと心底思った。
それさえかなえば、何も怖いことはない。

考え出したら止まらないので、何度かこのまま杉野の家まで行ってしまおうかと思った。
瑞樹の家に逃げているのなら、彼の家に逃げても所詮は同じことだ。
そう思って腰を上げ、玄関に立つ。
しかし昨日のように、どこかで智也やその仲間たちが待ち伏せしていて、アパートに連れて行かれてしまったらどうしよう。
二度も逃げられるかどうか、自身がない。

玄関とリビングの窓を行ったり来たりとウロウロしていると、突然、インターホンが鳴った。

ピンポーン。

どきりとして心臓が飛び出るかと思った。
良平は恐る恐る玄関に近付いて、覗き穴から外を伺った。
きょとんとした表情で、同じ科の沢村が立っている。

良平は静かに戸を開けた。

「あ、ごめんなさい、ここは岡田瑞樹さんの………って、良平?!」
「よう…。」
沢村は良平を見るなりびっくりして飛びのいた。
まさか見知っている顔が出てくるとは思わなかったからだろう。
「え?嘘?え??」
沢村が異常にパニックに陥っているので何かと思えば、沢村の横に、自分とそっくりの顔があった。
「あ…聡平。お前、どうしてここに…」
「良平…っ無事かっ」
普段兄弟の中でいつでも冷静で、あまり感情を変化させない聡平が、良平を見るなり表情を崩してそのまま抱きついてきた。
良平はドアから手を離し、弟の体を抱きとめる。
ぎゅっと強く抱きしめられて、不思議と体の力が抜けていくような気がした。

抱擁し合うそっくりな兄弟を、傍から沢村は不思議そうな顔をして見ていた。
どういうことだ?良平が、二人…??
良平は大学の仲間たちに自分が双子であることをあまり明かしていなかったので、沢村はしばらく呆然と成り行きを見守っていた。


良平と聡平はとりあえず沢村に適当な説明をつけて帰ってもらい、二人で瑞樹の部屋に入った。
聡平は玄関に鍵をかけ、窓を閉めてできるだけ小さな声で話し始めた。
「さっき、岡田の携帯から電話があって。取ったら、知らない男の声だったんだ。」
「知らない男…?」
「うん。アカギ…って名乗ってた。」
良平は一気に背筋が凍ってしまったかと思った。
ぞわりとした悪寒が消えない。
どうしてそいつが、瑞樹の携帯なんかで、聡平に電話をかける必要があるんだ…?

「それで?」
「そいつが言うには、岡田瑞樹を助けたければ、佐久間良平を連れて来いって言うんだ。
「え?」
良平は驚いて目を見開いた。
聡平は神妙な面持ちで、まっすぐに良平を見つめている。
…この状況でジョークを言えるような弟ではないから、きっと本当なのだろう。

「瑞樹が…どうかしたのか?」
「そこまではわからない。でもね。実は、今日俺の大学にも怪しい奴らがやってきてさ、俺のことを良平だと勘違いして、車に連れ込まれそうになったんだ。」
「…はぁ?!」
「すぐにお前に電話したんだけど繋がらなくて…家にも帰ってないっていうだろ。杉野先輩にも聞いたんだけど、居場所はわからないって言うし…俺、すっげー心配になっちゃって。」
聡平は今にも泣き出しそうなほど唇を噛み締めて、目を伏せた。
良平はとても申し訳なくなって、弟の肩にポンと手を置いた。

「ごめんな聡平。巻き込んじゃったみたいで。」
「ううん。そんなことはいいよ。」
「杉野にも詳しくは言ってないんだ。迷惑をかけたくないから。」
「うん。正解だと思う。まぁ良平と先輩の関係なんてちょっと調べればすぐにわかっちゃうと思うけど…。」
「奴らは高校時代の俺を知らねぇみたいだから、しばらくは大丈夫だと思う。それよりも、瑞樹だ。」
「お前、また危ないことしようとしてるんじゃねぇだろうな?やめてくれよ。」
「大丈夫だよ。」
良平は安心させるように極力微笑んで、聡平の肩から手を離した。
瑞樹はどうしたのだろう。
助けたければ…ってことは、あいつらは瑞樹のことを捕まえたということだろうか。

…自分と同じ目にあっていなければいいが。

良平はここまで考えて、今度は本当にいてもたってもいられなくなった。
助けなければ。
瑞樹だけは、何に代えても。

「聡平、頼みがあるんだ。聞いてくれるか?」
「頼み?…なんだよ。」
聡平は怪訝そうに顔を歪めて、良平を見た。
良平の瞳にはついさっきまでとは違う、闘志がみなぎっていた。

「兄貴と明美をなんとかうまく言って、父さんの会社に連れて行って。」
「え?」
「あそこならたぶん、どこよりも安全だから。一晩そこで泊まってくれ。家には帰るな。わかったか。」
「おい、待てよ。危ないことはすんなって、今言ったじゃないか!」
聡平は怒鳴った。良平も声を荒らげる。
「でも、このまま瑞樹を放っておくわけにはいかないんだよ!」

聡平は今にも胃に穴が開きそうなほど心配そうな面持ちで、自分と同じ遺伝子を持つ兄のことを見つめた。
…気持ちは痛いほどわかるのだ。


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