監禁 P9



祐也の言葉に杉野の顔色が途端に変わった。
杉野は祐也の肩を掴み、心配そうに聞く。
「び、病院…?まさか良平に、何か?!」
「いえ、違います。運ばれたのは、瑞樹です。詳しい話は行きながらします。」
「瑞樹が?…わかった。今、すぐに行こう。」
「野田さんは…?」
「全然構わないよ。…まぁでも、一応声をかけていこうか。」
杉野は一瞬考えて、ドアを開けて中を覗いた。

「野田。ちょっと出かけてくるから。」
かけた声に、奥から野田が顔を出した。
「えーっ?いやや!せっかく仕事休み取ったんに!観光はどないするん?」
「あとあと!大事な用だから。すまん!」
「薄情モン!だったら俺もついてくしっ。」
調子がよくて、強引だ。
祐也はどこか少しだけ、良平に似ているような気がした。だから尚更、タダの同級生ではない、という野田の言葉が、祐也の脳裏から離れなかった。


岡田瑞樹、と札のかかった病室を開けると、そこにはベッドに横たわる瑞樹と、その横の椅子にトーコと聡平が座っていた。
瑞樹は杉野を見るとぎこちなく微笑んで、軽く会釈をした。
無理をするな、というジェスチャーで杉野は軽く右手をかざし、左手で、花束をかざした。
「ひどいことになってるな。大丈夫か。」
「見た通り。大丈夫とは言い難いっす。」
「そうか。」
杉野は頷いて、花束を傍にいたトーコに手渡した。
受け取ったトーコはそのまま席を立ち、花瓶を持って外へ出て行った。

祐也がどこからか取り出してきたイスに腰掛けて、杉野はふと溜息をついた。
「良平について、何か知ってるって?」
「その話を今、していたところです。」
瑞樹は微妙に顔を歪めて言った。
話を続けようとした時に、杉野の横にいた野田が、俯いていた聡平の顔をひょいと覗き込んだ。
「顔色悪いで。大丈夫なん?」
「あ、いえ。大丈夫です。」
聡平は突然知らない誰かに覗き込まれたことに驚き、顔を上げて手を振って否定した。
「大丈夫って…やせ我慢はあかんで。水でも飲むか?」
「いえ、本当に…」

大丈夫です。

そう言おうとしたはずなのに、視界が揺れた。
くらりとしてすぐに、天井が見えた気がした。
咄嗟につこうとした手が宙をかく。

ガタン!とイスが倒れる音がして。
気が付くと、聡平は杉野の腕に抱えられていた。
「聡!!」
「え…?」
「馬鹿、すごい熱だ。いつから無理をしてた?」
杉野が聡平の額に手を当てて、怒ったような顔をする。
抱きかかえられている腕が大きくて、良平の気持ちを少しだけ実感する。
この人に支えられるというのはこんなに安心するものなのか。
「祐也、医者呼んできて。」
頭上で杉野の声がして、祐也がイスから立ち上がる。

「いいです、せんぱ…」
「よくないよ。心配くらいさせてよ。良平のいない時にお前に何かあったら、気がおかしくなりそうだ。」
言いながらぎゅっと手に力をこめた杉野の気持ちに、聡平はほっと満たされたような気がして目を閉じた。

この安心感が、良平に少しでも伝わればいい、な…。


良平と同じ顔をした聡平に倒れられることほど、気分の悪いものはない。
杉野は聡平を医者に預け、一時だけその面倒をトーコに任せ、瑞樹のいる病室に戻ってきた。
「聡平は?」
「眠っているよ。精神的なものらしいから、良平のことを早く解決してやらないとって思う。あいつら二人は、不思議なところでシンクロしてるから。」
「…そうっすね。」

瑞樹は頷いて、ちらりと祐也のことを見た。
実は今でも、良平の身に起こっていることを杉野に伝えるべきか否か、判断がつかなかった。
ただの先輩・後輩以上の関係なのだから、当然伝えるべきだとは思うが。
あまりにその内容がショッキングすぎる。

見知らぬ男に連れ去られ犯されそうになっていることを知ったら、杉野はどう思うだろう。
もはや手遅れかもしれないことを知ったら。

警察にも話をしてみたが、相手が警察のお偉いさんの息子だということ、そして男同士の問題だということで、とてもじゃないが頼りにできそうな反応はしてくれなかった。
自分たちで助け出そうにも、瑞樹は全身の怪我で思ったように動けないし、祐也やトーコたちを巻き込むようにはしたくなかった。

…杉野はなんと思うだろう。
彼の心中を察すると、瑞樹はとても居た堪れなくなった。

瑞樹の言いたいことを理解したのか、祐也は硬い表情で頷く。
話せ、ということだろう。
「先輩。これから話すこと、落ち着いて聞いてください。」
「うん。」
「決して無茶をしようとか思わないでくださいね。」

瑞樹の声は重かった。
しかし、それを受ける杉野の声も同じくらいに重かった。

予想はできている。

瑞樹の語る内容が、予想を上回る内容であることを杉野が理解したのは、それから数分後のことだった。


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