抱擁 P7
な、な、なんだって?
野田が今、赤城智哉と関係のある水口明人という男の家にいるって?
なんで?どうやって?知り合い??
「おいっ、詳しく説明を…」
『まぁまぁ。そいでな、明人んちから智哉くんちは近いねんて。今から住所言うから、近くまで来いや。』
「え?それで、お前は??」
『昨日、明人と一緒に良平くんのこと確認してきたで。向こうは眠っとったから知らんやろうけどな。』
「え?!」
『安心し。裸んされてたけど、無事やったで。見たところ大変な怪我とかもしてへんかった。瑞樹くんっちゅー男の方がよっぽど重症やわ。』
「…………っ。」
動揺することばかりを次から次へと言ってくれる。
怒っていいんだかほっとしていいんだかよくわからない。
…勝手に自分だけコトを進めやがって!
「おい、野田、今から行くから大人しく待ってやがれ。住所は?」
『おーこわ。えっとなー今から言うで?』
野田の言う住所を繰り返して祐也にも覚えさせ、杉野は急いで車の方へと歩き出した。
「一応聞いておくが…なんで、一人で明人と接触した?今明人はどうしてるんだ?」
『…俺の隣でスヤスヤ寝てる。しばらくは起きひんよ。』
「隣で?」
『そ。俺、いま裸やねん。カラダ気だるいから、早う来て。』
…。
そういうことか。
杉野はあまりのことに絶句した。
野田が勝手にやったこととはいえ、その明人という男を一発殴ってやりたくなる。
つまり、野田は体と引き換えに良平の情報を手に入れたのだろう。
携帯電話を乱暴に閉じて、杉野は荒々しく運転席へと乗り込んだ。
反対側から慌てて裕也が助手席へと座る。
瑞樹が空気で事態を察し、眉をしかめて聞いた。
「先輩。何かわかったんですか。」
「ああ。野田の奴がやってくれたよ。今から明人とかいう男の家へ行く。」
「えっ。」
瑞樹とトーコは同時に驚いたが、杉野はそれにまったく構わず車を発車させた。
野田の教えてくれた住所の近くまで行くと、杉野は車を広い通りに止めて全員に降りるように言った。
「ここからは徒歩だ。牧村は残るか。」
「い、イヤです。良平を助けるんだから。」
「でも…。」
「トーコ、残ってて。」
瑞樹が強い口調で言って、彼女を後部座席に押し込んだ。
「もう明人を殴ったりはしない。大丈夫だから。」
「でも、良平が…」
「俺たちに任せるんだ。何かあったら電話するから、携帯電話を握ってて。」
「…。」
「頼んだよ。」
瑞樹はトーコの肩を抱いて力をこめると、車の中に首を突っ込んでトーコにそっとキスをした。
ドアを閉めるとニヤニヤと笑う裕也と目が合って、瑞樹が顔を赤らめる。
「こんなに優しい瑞樹、初めて見たよ。」
「…たまにはな。」
瑞樹は肩をすくめて歩き出した。
アパートの一角まで行くと、電灯の下に小柄な野田の姿が浮かんでいた。
杉野たちに気付くなり大きく手を振って、ニコニコと近付いてくる。
杉野は声の聞こえる範囲に来るなり大きな声で怒り出した。
「野田!お前、まったく。好き勝手やってんじゃねぇよっ。」
「怖いってぇ…。怒んのは良平くん助けてからにしとき。俺だって尋常じゃないのはわかってんねんから。」
全てはこの男のため。
かつて愛し合った男のために、彼が今愛している男を救う。
…自分でも馬鹿げてるって思うってる。
「あそこや、智哉の住むアパートは。」
野田はアパートから道路を挟んで向こう側のアパートの一角を指差した。
二階で明かりのついている部屋がある。
「昨日入れてもらった感じだと、中に部屋は二部屋。曲がりなりにもオートロック仕様やった。」
「オートロック?!」
「そ。で、一日中あそこの電気はついてるから、智哉のヤローもほとんどあの部屋にいるんじゃないかな。」
「…良平は?」
「同じ部屋や。ベッドの上に手錠を付けられて寝とったわ。」
体中の血が逆流したような感覚が杉野を支配した。
手錠?
…しかも裸、だという。
きっとヒドイ目に逢っているのだろう。
良平が見知らぬ男に押し倒されて、無遠慮に陵辱されている光景を考えただけでも鳥肌が立った。
「先輩、大丈夫ですか。」
祐也が見かねて声をかけた。
すっかり日の落ちた暗がりの中、電灯の光に照らされた杉野はきっと真っ青な顔をしているのだろう。
「大丈夫。早く、助けなきゃ……。」
杉野は思いつめた声で言うと、右手で左腕を抱いた。