おめでとう P7
「良平、今日はいっぱいかわいがってあげるからね。」
「い、いらねぇ、!……くふぅ…っ」
「俺、今年、謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
「は、あ?」
良平が首を傾げると同時に、杉野は立て続けに良平の前立腺を貫いた。たまらずヤメロ、バカァ、と弱々しい声を上げる良平。
「今年の良平の誕生日、一日お休みできなかった。午後から出勤しなきゃなんないみたいなんだ。」
…よくもまあ、こんな状況でそんなことを言えるな…。
良平は半分感心しながらも、半分呆れて絶句した。
怒れないじゃないか。
「ごめんな。」
「…許さね、え、よ!」
「ごめん。その代わり前日は大丈夫だから。遊ぼう。」
「ふざけ……あぁんっ!ふぁぁ!」
こんな状況で、許さないわけがないじゃないか。
イくもイかないも、杉野の手にかかっているのだから。
それに、前日に祝うってことは、それなりにそれなりの何かを用意するに違いない。気が付けばいつでも用意周到、準備万端な彼の場合は特に。
この状況も、彼に導かれてまんまとはまった、予想範囲内の出来事だったに違いない。
「あぁん…っ」
杉野は話しながらも良平の股間を攻め続けた。
器用な男だ、と良平は思う。それに喘がされて嬌声を止められない自分も人のことを言えた義理ではないが。
「わか…わかった…っ」
「ごめん。本当…」
「ぁ、ん…っ!」
良平は仰け反った。
もう少しで射精できそうなのに、その手前で杉野がなぜか揺さぶる箇所を変えてしまう。内壁は全て性感帯と化しているのに、別々のところを抉られると注意が離散する。
おまけに時折、股間よりも心地よい刺激が乳首から与えられるので意識があらゆる方向へ離散してしまう。二点同時に攻められるのは慣れていない。
生理的な涙を浮かべて、ついに、良平は杉野に懇願した。
「イ、かせて…っ」
震える身体は当に限界を超えていた。
杉野はいつもの見透かしたような笑顔を浮かべて、恍惚とした表情の良平にキスを落とした。柔らかい唇が重なり合う。
良平は目を閉じた。全身に杉野拓巳という男の存在を感じ取る。
次の瞬間。
いつの間にか良平のものに近付いていた杉野の腕がそれを掴み、激しく揉み込んだ。同時に後ろの前立腺もこれ以上ないほど突き上げられる。
良平はまるで狂ったかのように全身を跳ねさせ、大きく痙攣しながら絶頂に達した。
大量の白濁液がシャワーの湯に溶け、良平の肌の上を流れて落ちた。
しばらく激しい痙攣を繰り返した後、良平は風呂場で意識を手放した。
気が付いてはいないが、何回分かの射精を一度にしたのだ。疲労感も無理はない。
意識を手放す前にもう一度くらい交わりたかった杉野だが、自分も良平ものぼせてしまいそうだったので思いとどまった。
手早くシャワーで汗とその他の液を流し、タオルで体を拭き、良平に服を着せてベッドへと運んだ。
ぐっすりと眠る良平の寝顔は見ているこちらまで癒されるような気分になる。
杉野は軽く自嘲して、良平の髪の毛をタオルで拭いた。
起きる気配はまったくない。
困ったな…まだ言いたいことがあったのに。
すぐに料理が運ばれてきた。
どれも良平が人生の中で見たことのない飾り付けで、感じたことのない味だった。
高級フレンチレストラン。
さすがだ、と良平は何がさすがなのかもよくわからないまま、ウンウンと頷いて納得した。
それを見て目の前の杉野は思わず噴き出した。
「何してんの。」
「えっ?いや…何も。これ、美味しいな。」
良平は目の前の肉料理をフォークで刺して言った。
「だろ?でも美味しいのはパンだよ。真壁さん、持ってきてもらってもいいかな。」
「かしこまりました。」
そばに控えていた真壁がお辞儀をして一旦部屋から出て行った。
命令している杉野はなんだかどこかのお偉いさんみたいだ。
「フランスのパンはすげぇうまいよ。どこのパン屋でも大概焼きたてを売ってる。」
「また“できたて”の話?相当好きだな。」
「だって本当にうめぇんだよ。大学の卒業旅行でヨーロッパ行ったんだけど…」
杉野の話はパンが運ばれてきてからも続いた。
彼の言う通り、焼きたてだとわかるくらいほんのりと温かみを持ったパンだった。一つ千切って口に入れると、ほんのりと柔らかい感触が広がった。
ワインがよりおいしく感じる。
こんなにいい思いをしてしまって、帰ったら聡平はなんというだろうか。
…今日のことは黙っておいたほうがいいかもしれない。
デザートまで食べきって、杉野は腕時計を見た。つられて良平も自分の手首に視線を落とすと、夜の十一時を回っていた。いつの間にこんなに時間が経ってしまったのか。
「遅くなっちゃったな。恭平さんが心配してるかも。」
「そんな心配性じゃねぇよ。今日はお前といるって言ってあるし。」
「すごい信頼度。」
「お前の名前出しとけばとりあえず安心するもんな。」
「ひ〜…。」
杉野は恭平の無垢な笑顔を思い浮かべて身震いした。すごいプレッシャーだ…
しばらく談笑した後、二人は店を出た。
真壁には充分に礼を述べ、会計は、カードで。
タクシーを拾って、乗り込んだ。先に乗り込んだ良平が杉野の家の住所を言った。
「帰らなくていいの?」
「うん。」
短く頷いて、その後は沈黙していた。
杉野も何も言わない。
嬉しかったんだ。