UFOとぼくの危機


 夏の日差しが燦々と頭のてっぺんを焼いていく。駅周辺のビル群を抜け住宅街へと入り込むとビルの狭間を抜けていく風も止んでジリジリムシムシとした日本の夏が体力ゲージを根こそぎ奪っていく。
 角を曲がった瞬間見たのは幻覚か。緑色の大きなゼリーが道を塞いでいた。
「なにこれ……」
 思わず呟いてしまうほどそれは静かな住宅街に不似合いのものだった。ちょうど俺の背丈と同じくらいの高さがある。しばらく足を止めてみていたが、その影に人がいるのに気付いて慌てて足を動かす。何か変な因縁をつけられたら大変だ。そそくさと緑色のゼリーの脇を通り過ぎる、その時はたと目が合った人物は、それこそ「なにこれ」と言いたくなるような風変わりな人物であったものの、実際に口に出すほどバカでもないので心の中でだけ「あきはばら……?」と思うに止めておいた。
 その人は多分自分よりは年上だろうと思われたが、どうにも着ている服装が奇妙だった。この暑い最中、細かい刺繍が入った長いコートを着て、手には白い手袋。アーミー調というわけではないが、いかにも軍人が被ってそうな軍帽。漫画とかで見かけるなんちゃってナチス、というのが一番近いだろうか。そんな重装備でありながら汗一つかかず涼しい顔をしているのだ。いけないとは思いつつついしまったために目が合った。
「あ! ……すみません」
 もしかしたら何かの撮影なのかもしれない。どこにもカメラは見当たらないが、特撮ですと言われたらそんな感じがする。ので、とりあえず頭を下げて小走りする。奇妙な恰好の青年は驚いているのかカッと目を見開いたまま、特に言葉もないのでそそくさと通り過ぎる。
「待ちなさい!」
 特に言葉があったわけだが正直待ちたくないわけで、聞こえないふりをして走っていきたいものなのだが、うっかり走る足を止めてしまったので仕方なし振り返る。歩み寄ってくる青年の目的が分からず泣きそうっていうかちょっと目の前が曇っているんだけど多分涙で。でも泣かないでへへへと無害そうな笑いを浮かべ「なんでしょうか」と言うのが精一杯。心の中では都会に対する罵倒一杯。バカバカ! 都会のバカ! 不良と変人ばっか! 大嫌い! 実家帰りたい!
 青年が歩み寄ってくるその後ろから、巨大なゼリー状のものも一緒に移動している気がするけれど、そんなことを受け入れたらダメ、ゼッタイ。心のタガが外れそう今。
「ふむ、若くて健康状態もよさそうだ」
 ずずいっと顔を近づけてくる。男の顔は結構なイケメン様であられるのになんとも残念な方であられる。頭の方がちょっとアレなのかな。アレっぽいな。それか役者だな。引っかかったな俺。今に出てくるんだろう、物陰からドッキリって書いた看板もってカメラとか出てくるんだろきっと。
「……君!」
「はっ…はい……」
「我々に協力する気はないかね。充分な働きが期待できればそれなりに重用してやれないこともない。どうだ」
「か…勘弁してくらさい……」
「そうか、残念だ。しかしこのまま帰してやるわけにもいかんのでね。そうか……本当に残念だ」
「あ…あの…、一体……」
 なんなんですか本当に、と問う間もなく男は指を鳴らす。瞬間、緑の半透明が視界を覆った。覆ったと思ったら視界が晴れた。晴れたものの身体にまとわり付いて離れない。なんだ。なんなんだ。なにが起こっているんだ。思ったよりはダメージの少ないことなのか。しかし巨大ゼリー状の謎の物体が俊敏に動いたこと、というか自主的に動いたこと? 動けたこと自体が何よりショックだった。
 わけの分からないことが今まさに起こっている。
「何にせよまずは遺伝子情報の採取をさせてもらおう」
「は?」
「なんだ? 言葉が間違っていたか」
 そういうと男は懐から薄い紙を取り出し、なにやら紙自体を指で押している。なんだ? なにをしているんだ? 外国人か? 見た目は日本人にしか見えないけど。
「……やはり間違ってはいないなようだ」
 なにを確認したんだろう……。ぺらぺらの紙を指で押していただけに見えるけど。
「この星のこの国の言葉では遺伝子という言葉を用いるとあるが、他に言い方があるのかね?」
「え、いやぁ…知りませんけど……っていうか」
 この星のって言った、よな、今。コスモ系きたこれ。宇宙とか言い出す系の人だこれ。
「安心したまえ、苦痛のない方法で行う。ほんの数分で済むことだ」
「や、すみません許してください」
「安心したまえ」
 安心……できるわけない。コスモ見えちゃってるイケメン様を前にして今、俺は緑色の半透明に身体を拘束されて、遺伝子とかわけわかんないこと言われて、苦痛はないって言うけどこの現状がまさに苦痛だということを一体どうやって伝えたらいいんだろうな。
「う、わ、え、えぇ…ちょ……なにこれ」
 表面上まったく変化のない緑色のゼリーの中が蠢いている。人の手のように……いや、それよりももっと繊細に? 身体中を撫で回されている感触がある。しかし自分の目で確認できる範囲ではなにかが決定的に変わったというわけではない。なにかが身体中を這い回っている感触があるだけだ。これが宇宙の力……なのか?
「わ! わわ…なに、どこ触って……えぇー…」
 緑ゼリーはわずかな隙間に入り込むこともできるようだ。服の隙間から直接素肌を撫ぜられる感触が広がっていく。腹や胸、爪先から太ももまで。確かな触覚を持って身体中を触られているのを感じる。
「あっ! 待て……!」  衣服の隙間に入ってこれる、ということはパンツの中にも入ってくるわけで。パンツの中を自分以外に触られるのなんか初めてで、正直驚く以上に切なさが込み上げてくる。遺伝子ってそれか。それなのか。それじゃなくても良いんじゃないかなぁ。俺が折角お嫁さんになる人のために守ってきたものが陵辱される……!
「あっ……」
 性器を……!
「ん、……っ」
 それはダメッ……!
「は……あっ」
 くびれを擦る狭い輪の形。先端を抉る細く柔らかい感触。竿を扱く絶妙な力加減。これはすごい。普通ではちょっと味わえない。けれど、どうしたって、いけない。
「おや、案外気が長いんだな」
 男は言う。その一言でまた醒める。視覚情報は偉大だ。住宅街の路地裏で得体のしれない男と謎の物体に嬲られている状況を忘れさせてはくれないのだ。なにこのエロゲ展開、と思ってしまう以上、不意に我が身の滑稽を思い知るたび、萎えるのだ。
 気持ちいい! いや、なにこれ? でもすごく気持ちいい! 俺なにやってんだろ? いきそう! いやいかねぇな。ああ…、そんなとこっ……! 大体こいつなんなの? あっ……今のいいっ! あー宇宙すげぇな。こんなオナホあったら買い占めるのに俺。つーかなんで周りに人がいないんだろう。いくら人気がない通りだっていっても誰一人通らないなんておかしいよな。宇宙の力? なんでもそれで解決すんのかよ。あー俺もうゼリー食えないかも。ゼリーに突っ込んじゃうかも。それはないかぁ。帰りてぇなあ。
「いっ!…わ、わ、そこっ!……なにしてんだよ……」
「痛むかね?」
「痛くないけど……止めてほしいです」
 あろうことか……あろうことか男の秘密の花園開拓という暴挙に出た異星人コンビを俺は一生許すことが出来ないだろう。細く入り込んでくるゼリーは柔軟に形を変え、無理のない侵入を試みてくる。
「あまり時間をかけたくないのでね」
 知ったことかよ。わけわかんない理由で散らされた俺の純潔の方が貴様らの時間よりも重要だよバカが。怖いしとてもじゃないが直接言えないけど。
「あっ、あっ……んぅ」
 細く入り込んできたものは徐々に太さを増して腸内に圧迫感を覚え始める。それでもゼリーのぬめりを借りて内臓を擦る動きが早くなる。苦痛だ。性器も激しく摩擦される。と同時にちんぽの先っぽに細い管のような形状が押し付けられる。まさか? そのまさか。入ってくる。逆流するみたいに入ってくる。無理。その上乳首まで? ふざけんなよ。怖いくらい完璧な三点責めじゃねぇかチクショウ。
「ああっ、ダメ…ダメだって! 嫌だバカ、嫌だって」
 押し入ってくる感触と抜け出ていく感触が交互にくる。ぞわぞわする。尿道ってすげぇ。精子より先に小便漏れそう。自由に動けないなりのたうっても一向に解放されない。側で男が見ている。ものすっごい冷静な目で。今更羞恥に身が火照る。恥ずかしくて感じちゃう、なんて俺も変態の仲間入りか。まなざしを避けるため俯いても見られていることに気付いてしまったあとではもう遅い。内と外から性器を擦り上げながら直腸をかき混ぜられて息の根が詰まる。声が漏れる。乳首からの刺激はじんじんと身体の内側に溜まっていくようだった。アナルの中のしこりをゴリゴリ嬲られると電気が通るみたいに快感が身体中を走っていく。本当に感電しているのかもしれない。身体が意思に反して震えている。
「あっ、もっ…いくっ! 出る! 出すから、抜いて……」
「ダメだ!」
 高らかに言う。
「なんでだよっ!」
 キッと前を向く。涙で曇った視界の中には知らない男が一人。……誰だ。
「そのまま精子を体内に逆流さすがいいわ!」
「な、なんでだ! つか貴様は誰だ!」
「正義の味方だ!」
「嘘だっ!」
「もちろん嘘だ!」
「なんだとぉ……」
 突然現れた胡散臭い男は白衣に眼鏡の博士ルック。イケメン宇宙人は視界を巡らせどどこにもいない。正義の味方でもなんでもない男は一体何者か? 急転直下の展開にもかかわらず俺の身体を陵辱するオナホ星人の動きは止まらない。気持ちいいという以前に腹が立ってくる。いや、限界気持ちいい。どうしよう。
 真実はいつも一つ! 以下続く。


続き
(07.12.23)
置場