ネギはまいっていた。アスナとの事はもちろん主原因なのだが、その事実を知った好奇心旺盛な3−Aの生徒達が次から次へとネギに尋ねてくるのだ。
「ねー、ネギ君。アスナと何があったの?」
「私達で力になれる事があれば言ってよ」
「そや、ネギ先生。一人で抱え込んでてもアカンで」
「……うん。話せば楽になる事もあるから」
最初に尋ねてきたのは、まき絵・裕奈・亜子・アキラの運動部4人組だった。まき絵はおそらく朝ネギを見かけた時から気になっていたんだろう。真剣な瞳で問い掛けてくる。
「え、あの」
ネギは4人の女子生徒に囲まれ、どうするべきか迷った。しかし、いくら少年といえども、ネギは彼女達の教師なのである。教師が生徒に相談をする、というのも妙な話であるし、少なくとも彼女達に相談するような内容でないことは明白であった。
「いえ、大した事じゃないですから。みなさん、気にしないでください」
「でも、ネギ君」
「遠慮しなくていいんだよ」
「あはは、本当に僕は大丈夫ですから」
ネギが空元気であるのは誰の目にも明らかで、特にまき絵は執拗に食い下がっていたが、それを止めたのはアキラだった。
「行こう、まき絵」
「でもでも〜」
「誰にでも打ち明けられない事ってあると思う」
「せやなあ。どうしても言われへん事、無理につっこんでも」
「そだね。相談できる事ならしてるだろうし」
亜子と裕奈もアキラに同調した為、まき絵は渋々引き下がった。
「わかった。もう聞かない。でもネギ君、聞いて欲しい事があったら何でも言ってね。そだ。もしアスナと同じ部屋にいづらいんだったら私達の部屋に来るといいよ。ごちそういーっぱい作って待ってるから。ね、亜子」
「せやね。そういう事ならいつでも大歓迎や。遠慮せんでええよ」
「ありがとうございます、みなさん。その時はよろしくお願いします」
4人の優しい言葉に胸が熱くなるネギだったが、余韻に浸る間もなく次の来客が訪れた。
「ネギくーん、元気ないよー。だいじょーぶ〜?」
「あ、チアの皆さん」
麻帆良チアリーディングに所属する椎名桜子・柿崎美砂・釘宮円の3人は、ネギを心配している、というよりもどこかこの事態を楽しんでいるようにも感じられる 。
「アスナ怒りっぽいからね。イジメられたらお姉さんの胸で泣いていいのよ」
「何言ってんのよ美砂」
「もう、相変わらず円はわかってないわね。泣いてる美少年を抱きしめるってのがロマンってものじゃない」
「あー、じゃあその次私もー」
美砂と桜子にムギュッと抱きしめられ、ネギは胸の間で窒息しそうになる。
「わわっ、ふ、二人とも放してくださ、あぶぶっ」
「こらこら、アンタ達はも〜」
円が二人を引き剥がしてくれたおかげで、ネギはなんとか一息つく。
「皆さん、ご心配かけてすみません。僕は大丈夫ですから」
「ほんとにー?」
「ハイ」
元気良く答えるネギを見て、3人は笑顔を浮かべる。
「そっかー、良かったー。ネギ君が元気ないとつまんないもんねー。でも、もしアスナとケンカする事になったら、私はネギ君を応援してあげるね」
「じゃあ私はアスナを応援しようかな」
「こらこら」
「そんな、ケンカなんてしませんよ〜」
3人が職員室を出て行くと、ネギはホッと一つ息を吐く。と、その背中にか細い声がかけられた。
「ネ、ネギせんせー」
「あ……のどかさん」
次に現れたのはのどか・夕映・ハルナの図書館探検部に所属している三人だった。なぜか、夕映とハルナの二人がのどかの背中をジリジリと押している。
(さあ、行くのよのどかっ。アスナにフラれて傷心のネギ君を優しく慰めて、そのハートをガッチリキャッチ)
(アホな作戦ですが、効果は高いと思うです)
「あ、あああのー。ネギせんせー、今日は元気ないようですけど……アスナさんと何か、ありました?」
「えっ」
「あ、あのー……言えない事だったらいいんですけど、でも……ちょっと、心配だな……て……」
だんだん声が小さくなり、俯いてしまうのどか。ネギはいかに自分が皆に心配されているかを改めて知り、嬉しい反面、教師として情けない気持ちになった。
「のどかさん、心配してくれてありがとうございます。でも、僕は大丈夫ですから」
心配させないように、精一杯笑って見せるネギ。その笑顔に、のどかはぽ〜っとのぼせてしまう。
「あ、そ、そうですか〜」
フニャフニャになってしまったのどかをもうダメだと判断し、夕映が口を挟む。
「ネギ先生、何か困った事があればいつでも言ってください。私たちで役に立てるようであればいつでも協力するです」
「そーそー。いつでもアスナの変わりにのどかに甘えていいからね。タダで貸したげるからさ」
「えうっ? あ、甘えるって……そ、そんな……あううううっ」
真っ赤になったのどかは職員室を飛び出して行ってしまった。
「んもう、せっかくのチャンスなのに。待ってよ、のどかー」
「ではネギ先生、失礼するです。待つです、のどかー」
のどかに続いて二人もバタバタと出ていってしまった。
「夕映さんか……」
のどかに相談しても内容が内容なので解決策が浮かぶとも思えないが、夕映は学校の勉強は苦手な割に本による知識が非常に豊富である為、彼女に相談すれば何か良いアドバイスが貰えるかもしれない。ネギは夕映の事を心に留め、机に向き直った。
その後も数人の生徒が休み時間のたびにネギの様子を窺いに来た為、ネギは教師として非常に情けない気分になっていた。
「このままじゃ、どっちが先生かわかんないや……」
今は昼休み。もうそろそろ生徒達も昼食を終え、思い思いの休憩をとっている頃だ。ネギは両手で頬を叩き、気合を入れなおすと席を立ち上がる。
「よし! 自分の力でなんとかしなくちゃ」
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