今日の3−Aの3時限目の授業は体育。すでに皆、更衣室で着替え始めている。
「ねーねーまき絵、見た?」
「んー? なに、ゆーな。どしたの」
「いや、茶々丸さんがさ。すごいのよ」
「それは朝見たじゃん」
「いーから見てみなって、ホラ」
 裕奈がまき絵の頭を掴み、グイッと強引に向きを変えさせる。
「い、いたいってば、て、ブッ!!」
 裕奈に文句を言おうとしたまき絵だが、目の前に飛び込んできた光景を見てそ れどころではなくなってしまっていた。
「な、な、な、……」
「うわ〜、すごいなあ、茶々丸さんの胸」
「うん……おっきいね」
 言葉に詰まったまき絵の代わりに、同じように首を巡らせた亜子とアキラが代 弁する。
彼女達の視線の先では、茶々丸が着替えをしていた。その人間と変わらない、い や、並の人間以上の美しさを持った白い肌はたしかに目を引くが、今4人の視線 が吸いつけられているのは手や足ではなく、その中学生とは思えない(もちろん 人間ではないのでその比較は当てにならないのだが)豊かな乳房だった。
 透き通るような白い半球。その頂に薄桃色の乳輪が控えめに存在し、先端の突 起がかわいらしくチョコンと自己主張している。そう、茶々丸はブラジャーを身 につけていなかったのだ。
 たっぷりとした重量感を持ち、それでいて柔らかそうなその乳房は、茶々丸の 動きに合わせてブルンブルンと揺れている。
「……茶々丸さんて、あんなに胸おっきかったっけ」
「いや、あんなに目立ってへんかったと思うけど」
「というよりあんな生々しい形はしてなかったと思うな」
「うん」
 4人がヒソヒソと話していると、
「いや〜、あの茶々丸さんがあんなダイナマイトバディになるとは、ビックリだ ねぇ」
「あ、朝倉」
 近くで着替えていた報道部の朝倉和美が4人の輪の中に首を突っ込んできた。
「朝倉は何か掴んでるの?」
「ん〜、茶々丸さんのたっての希望でウチのクラスの秀才と大学部が総力を結集 して完成したボディ、ていう話だけど」
「ほえ〜」
 和美は両手の親指と人差し指で四角を作り、カメラのように茶々丸をその中に 収め覗き込む。
「私の見立てによると、ウチのクラスのナンバーワン巨乳、母性の塊、那波千鶴 と同等か、もしくはそれ以上、てところかな」
「な、那波さん以上!?」
「ハァ……ウチらじゃ逆立ちしてもかなわんなぁ、まき絵」
「うるさいよっ」
 更衣室の一角でそんな会話が繰り広げられている中、当の茶々丸は。
「茶々丸さん」
 クラス委員長、雪広あやかに捕まっていた。
「……なんでしょうか」
「その、新しい体になったことはよろしいとは思うんですけれど、それに見合っ た格好をしていただきませんと、クラスの風紀というものが」
「何をおっしゃりたいのでしょうか」
「つ、つまり、その……ブラジャーくらい着けてくださいと言っているんです。 そ、そのように大きな胸をブラブラされては、いくら女同士といえど、目のやり 場に困ってしまいますわ」
「……大きいでしょうか」
「え? ええ、とっても。て、何を言わせるんですかっ」
「申し訳ありません。今朝このボディに換装したので、胸が入るブラジャーがあ りませんでした」
「まあ、そうなんですの? でも、困りましたわね」
 首を傾げて考え込むあやか。と、そこに。
「どうしたの、あやか」
 先ほどの一部での噂の主、那波千鶴がルームメイトの村上夏美と共に歩み寄っ てきた。
「ちづるさん。実は……あっ」
 千鶴に事情を話そうとしたところで、あやかの目に、これまた中学生とは思え ないサイズの千鶴の胸が目に止まる。体操服を窮屈そうに押し上げ、あやかに気 づいてと言わんばかりに自己主張していた。
「ちづるさん。ブラジャーの替えを持ってらっしゃったら、貸していただけませ ん?」
「まあ、あやかったら、いつの間にそんな趣味になってしまったのかしら。私の ブラジャーをかぶろうだなんて」
「だ、誰がかぶりますかっ! 茶々丸さんが合うサイズがなくて困っていると言 うから、ちづるさんのなら入るかと思っただけです」
「あらあら」
 千鶴はあやかから茶々丸へ視線を移す。
「うわっ」
「まあ、本当に大きいわね」
 一緒に視線を移した夏美のリアクションは、先の運動部4人組と似たものだっ たが、千鶴はいたって落ち着いた様子で茶々丸の胸を見つめる。
 そして、いきなり茶々丸の胸を正面からむんずと鷲掴みにした。
「はあうっ」
「まあ。とってもやわらかい」
「ち、ちづるさんっ!? 何をしてらっしゃいますのっ!」
 いきなりの千鶴の行動にあやかは思わず声を荒げたが、千鶴はまったく同様を 見せない。
「だって、実際に入るかどうか確かめてみないといけないでしょう」
「だ、だからって直接触らなくてもよろしいですわっ」
「ふ〜む……そうねえ、私のでも少し小さいかもしれないわね」
 頭から湯気を出すあやかを取り合わずに、千鶴は一旦閉じた自分のロッカーを 再び開けてゴソゴソと中をまさぐると、数種類のブラジャーを茶々丸に手渡した 。
「どうかしら。好きなのを選んでもらって良いわよ」
「……派手ですね」
「あら、そうかしら」
 真紅や黒のレース、はては白だがシースルーのブラジャーまである。成人した 女性でも尻込みしてしまいそうな派手な物ばかりであった。
 とりあえず、その中でも比較的地味なブラジャー(それでも十二分に派手だが )を手に取り、胸に当ててみる。が、ホックを締めようとしたところで、
「……かなり圧迫されています。このままだと、ブラジャー自体が破損する可能 性があります」
 茶々丸は諦め、ブラジャーを千鶴に返した。
「あらあら」
「ちづるさんのでも入らないなんて。困りましたわ」
「うそっ、ちづ姉のブラが入らない同級生がいるなんて……麻帆良のおっぱい魔神と言われたちづ姉が」
 呆然として、思わず口から漏れ出た夏美の言葉を、千鶴は聞き逃さなかった。
「な・つ・み・ちゃん?」
「えうっ、あ、ち、ちづ姉っ、違うからっ」
「あなた……私のことをそんな風に思っていたのね」
 ゼンマイ仕掛けのように、千鶴の首が背後の夏美に向かってギ・ギ・ギ……とゆっくり向けられていく。
「ヒイィィッ! ち、ちがっ、ちづ姉っ、ゆるしてっ」
「……ちょっといらっしゃい」
 千鶴は夏美の首根っこをむんずと掴むと、ズルズルと更衣室の出口へ引きずっていく。
「あ、いやっ、いいんちょ、た、たす、たすけ、いやあああーーーっ!!」
 バタン。
二人が更衣室から出て行くと、訪れる一瞬の静寂。
「……ま、まあ、あの方たちの事は放っておくとして」
「よろしいのですか」
「ええ、まあいつもの事ですし。それにしても、どうしましょう」
 再び首をひねるあやかに、また別の声がかけられた。
「いいんちょ、そろそろグラウンドに行かないと遅れてしまうでござるよ」
「あら、もうこんな時間……あ、そうですわ。長瀬さん」
 あやかは声をかけてきたござる口調で話す長身の少女、長瀬楓に当たってみる事にした。かなりの長身であるとはいえ、胸のサイズでは千鶴に及ばない楓に声をかけた理由といえば。
「なんでござるか?」
「長瀬さんは確か、ブラではなくサラシを着用していましたわよね。替えなどもってらっしゃいますか?」
「あるでござるが。いいんちょがするでござるか?」
「いえ、私ではなくて茶々丸さんが。ちづるさんのブラでさえサイズが合わなくて困っていたんです」
「なるほど。サラシであれば多少長さが足りなくても形にはなるでござるからな。了解でござるよ」
「ありがとうございます」
「あいあい」
 礼を言う茶々丸に頷いてみせると、楓はその場でどこからか白い布を取り出し、茶々丸の胸に巻きつけ始めた。
「ふう、できたでござるよ」
 楓が、特に汗をかいたわけでもないのだが、一息ついて額を腕で拭う。
「………………」
 その出来映えを見たあやかはといえば、固まってしまっていた。
「どうしたでござるか、いいんちょ」
「あの、長瀬さん……布が短かった、ということは」
「いや、拙者が巻くには十分な長さでござるが……」
 白い布が巻きつけられた茶々丸の胸は、乳首や乳輪など大事なところは隠れているとはいえ、上と下から大きく柔らかそうな乳肉がこぼれてしまっていた。
「これでは、チューブトップの水着のようですわね。なんだかかえって目立ってしまったような」
「う〜む……淫猥でござるな」
 二人は呆然として、隠したにも関わらずかえっていやらしくなってしまった茶々丸の胸を見つめていた。
「ちょっといいんちょ、何やってんのよ。授業始められないじゃない」
 再び更衣室の扉が開き、神楽坂明日菜が入ってくる。その声で、固まっていた更衣室の空気が再び流れ出す。
「はっ! そ、そうでしたわ」
 あやかが弾かれたように頭を上げるのと同時に、着替えの手が止まっていた他の女生徒達もあわただしく着替えの続きを始めた。
「とりあえず胸は隠せていますので、私はこの状態でかまわないのですが、これでよろしいでしょうか」
「そうですわね。すみません茶々丸さん、お時間を取らせてしまって」
「いえ」
 茶々丸自身の進言を受けて、あやかはとりあえずこの問題を終わりとすることにした。
「まったく、委員長のくせに授業に遅れるなんて、何やってるんだか」
「う、うるさいですわねっ。体育の授業だけは元気になるおさるさんに言われたくありませんわっ」
「なんですってーっ」
 騒ぎながら更衣室を出て行く二人に続いて、他の女生徒達も次々と更衣室を後にした。

 その後の体育の授業も、皆の視線は自然と茶々丸に吸い寄せられてしまっていた。茶々丸が動いたり走ったりするたびに、胸がまるで別の生き物のようにブルンブルンと跳ね踊る。
「ふわ〜、すごいなぁ茶々丸さんの胸。おっきいなぁ〜」
「そ、そうですね」
 近衛木乃香と桜咲刹那の二人もまた、茶々丸の胸の迫力に圧倒されていた。
「え〜な〜。ウチもあのくらいおっきくなれへんかなあ。な〜せっちゃん」
「このちゃんはまだこれから成長すると思いますから。……あそこまでになるかどうかはわかりませんけど」
「そや、好きな人に胸揉まれると大きなるって聞いたことあるえ。せっちゃん、ウチの胸揉んでくれへん?」
「は!? ダ、ダメですお嬢様。そんなことは」
「あ〜、またお嬢様ってゆーた。ほならええわ。アスナかネギ君に揉んでもらお」
「そ、それもダメですっ」
「なんやせっちゃんダメばっかやん。ウチどないしたらええのん?」
「そ、そう言われましても……ああっそんなに胸を押し付けられてはっ。た、助けて下さいアスナさんっ」
「……何やってんだか」

 

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