「ええっ? ぼ、僕がですかっ?」
茶々丸の言葉に、大きく動揺するネギ。
「はい」
タイを外した茶々丸は、ブラウスの一番上のボタンに手をかける。
「えうっ……でも、そんな……あうう……」
おろおろするネギを見つめながらも、茶々丸はボタンを一つずつ外してゆく。
茶々丸自身、ネギの前で裸になることに抵抗がないわけではない。いや、むしろネギの前だからこそ抵抗感は大きい。相も変わらず心臓部はドキンドキンとうるさいほど高鳴っている。
が、目の前でパニックを起こしているネギを見ていると、少なくとも自分が動揺を見せてはいけないと、衝動を押し殺して冷静に振舞ってみせた。
全てのボタンを外し終え、ブラウスの袖を肩からスルリと抜き取る。
「わわわっ」
ネギは慌てて両手で目を覆った。固く目をつむっていたが、物音一つ立てない茶々丸に逆に不安になり、指の隙間からそっと様子を窺ってみると、
「あ……」
ただじっとネギの顔を見つめている茶々丸と目が合った。気恥ずかしくなり視線を下ろすと、茶々丸の胸が目に飛び込んできてしまい、慌てて顔を背けた。
「ネギ先生……」
「あ、そそそのっ……サラシを巻いてるんですね。なんだか楓さんみたいで」
「……見た事があるのですね」
「あう、いや、えと、あばばばばっ」
(うわーんっ、僕何言ってるのーっ!?)
混乱して、取りあえず頭に浮かんで振った話題でさらに墓穴を掘ってしまい、ネギはますますパニックになる。取り乱すネギを見やりながらも、茶々丸はサラシを外す。白い長布が、ハラハラと床に舞い落ちる。そのかすかな物音に誘われるように、ネギの視線が再び茶々丸へ向き直る。
ネギは思わず息を飲んだ。月光に照らされ、薄青く輝く陶器のような美しい体。この世の物ではないようで、ひどく幻想的な、触れてはいけない物のように思える。
魂を抜かれたかのように呆然と己の体を見つめるネギ。その手を茶々丸は優しく取り、そっと己の胸の上に置いた。
「あっ!」
慌ててひっこめようとするネギの手を離さず、その上に両手を重ねて触らせ続ける。
「ネギ先生……私の胸も今、ドキドキしています」
「えっ……あ……本当だ……」
茶々丸の鼓動、というより内燃機関の活動音が、手を通してネギにも伝わってくる。落ち着き払って見えていた茶々丸が、実は内心動揺をひた隠しにしていたと知り、ネギはなんだか自分が恥ずかしくなってしまった。
「すみません、茶々丸さん」
「えっ」
「僕、なんだか一人で取り乱しちゃって……茶々丸さんも不安だったんですよね。僕、もうちょっとしっかりするようにしますから」
「ネギ先生……」
ネギのまっすぐな瞳を見て、茶々丸は柔らかく微笑んだ。
「……では、続きをよろしいでしょうか」
「え……続き……あわわ、そうだったっ!」
自分が茶々丸の胸に触れている状態であることを思い出し、ネギはまたパニックに陥りかける。が、それでも、しっかりすると決めた以上はこの場でジタバタしていても仕方がないと悟り、一つ大きく息を吐いて落ち着きを取り戻してから茶々丸に尋ねた。
「えっと……僕、結局愛撫って何だったのか良くわからなかったんですけど、具体的には何をすればいいんですか」
「……愛撫とは……おおまかに言うと、相手の体に触って気持ちよくさせること、と記憶しています。ですので、私が気持ちよくなると思われるところを……ネギ先生が触っていただければよろしいかと……」
「茶々丸さんが気持ちよくなるところ、ですか? う〜ん……茶々丸さん、どこかあります?」
「私もこのボディになったのは今朝からですので、詳細は把握できていません」
「そうですか……」
ネギはなんとなく、空いていた左手で茶々丸の二の腕をサワサワと撫でてみた。
「んんっ」
「わっ! だ、大丈夫ですか、茶々丸さん」
「は、はい。 少し、刺激が走っただけです」
その答えに安心したのか、ネギの手は徐々に行動範囲を広げていく。肩や首筋、胸元などを優しく撫でると、茶々丸はそのたびにピクンピクンと反応を返した。
「ちゃ、茶々丸さん、さっきから大丈夫ですか? なんだか苦しそうに見えますけど」
「いえ……初めて生じた感覚なので断定は出来ませんが、おそらくこれが気持ち良いということだと思われます……」
「そ、そうなんですか……じゃ、こんな感じでいいのかな」
「ただ、ハカセにインストールしていただいた『女が女を愛する珠玉のテクニック』というプログラムによると、顔や……胸などを触るとより効果が大きいとの事です」
「な、なんでそんなプログラムが茶々丸さんに入ってるんですか?」
「それは私にはわかりかねます」
ネギは何か理不尽な物を感じながらも、言われた通り茶々丸の頬に触れ、ソロソロと撫で回してみる。
「んっ……んんっ……」
茶々丸の喉から漏れる甘い響きを含んだ吐息に不思議と胸が熱くなるのを感じながらも、ずっと胸に当てたままだった右手にわずかに力を入れてみた。
「ふあうっ!」
「わっ!」
茶々丸の声が急に大きくなり、ネギは慌てて手の動きを止めた。
「ネギ先生……構いませんので、続けてください……」
「あ……は、はい」
茶々丸の水晶のような瞳がなぜだか潤っているように感じて、ネギは促されるまま手の動きを再開させていく。
「ん……ふ、くぅ……あうんっ」
最初はおそるおそるだった手の動きも次第に落ち着いて、そのうち手の動きに合わせて奏でられる茶々丸の喘ぎが心地よく感じられるようになっていた。
(女の人の体って、本当に柔らかいんだ……)
まっすぐなサラサラの髪を撫で、たっぷりと質感のある乳房をムニムニと揉みこみながら、ネギはぼんやりとそんな事を考える。
女子校の中の男性教諭、しかも少年ということもあり、生徒達に必要以上のスキンシップを図られることの多いネギは、胸を押し付けられたり下着を見てしまったりといったアクシデントに遭遇することが多い。少年であるがゆえに、それらのアクシデントには喜びよりもむしろ戸惑いを引き起こされるばかりである。
そういった受動的な接触は多いが、自ら女性の体に触れるなどほとんどなかったネギであるから、手の中に広がるとろけるような柔らかさにただただ圧倒されていた。
それ故、茶々丸が人間ではない為に女体の柔らかさのサンプルとして適当かどうかということまでは頭が回っていなかったが。
「んひいぃぃっ!」
夢中になって胸を揉みこんでいたネギは、一際大きな茶々丸の嬌声にハッとしてその顔を覗き込む。茶々丸は頬を紅潮させながら、視線をさまよわせていた。
「え、えっと……茶々丸さん?」
「ん……あ、はい。なんでしょうか」
「そ、その……気持ち良い、ですか」
「……ぼうっとして思考がはっきり定まりませんが、不快感はありません。……気持ち良い状態であるかと」
「そ、そうですか。良かった」
無邪気に微笑むネギを見て、茶々丸の胸にキュンと甘い刺激が走る。
「あ、あの……ネギ先生」
その笑顔を見て、茶々丸は先ほどはネギに教えなかった事をなぜか話す気になった。
「なんですか、茶々丸さん」
「愛撫とは、手で行う以外にも口で行う手段もあるとのことで……その方がより大きい快感を得られることもあるそうです……」
「く、口で、ですか……」
「あ、い、いえ、何でもありません。これで十分かと思われるので、次へ進みましょう」
うっかり漏らしてしまった言葉に自ら激しく動揺してしまい、話題をすりかえようとする茶々丸だが。
「あ、ダメですっ!」
「えっ」
「さっきは僕がその、口でしてもらったから……僕もちゃんとお返ししなくちゃと思って」
ネギは一つ自分の中で確認するように頷くと、茶々丸の頬にその小さな唇を寄せた。
「!!」
ネギの唇が頬や首筋をソロソロと這っている間中、茶々丸の人工知能内は0と1が高速に乱れ飛び、わけのわからない状態になってしまっていた。体内の全機関がフル稼働したかのように、体表温度がますます上昇を続けてゆく。
やがて鎖骨を通って乳房の上を伝ってきた唇は、茶々丸の乳首に到達する。一瞬そこで動きを止め桜色の乳首を見つめていたネギだが、目を閉じるとその突起を優しく唇で咥えてみた。
「ふあああんっ!」
茶々丸の唇から一際大きな喘ぎが漏れる。その声に驚いてネギも体をビクリとさせたが、今度は茶々丸に確認することなく優しい口愛撫を続けた。
「あ、はうっ……くん、ふっ……うふぅんっ……」
二本の手の動きに唇も加わったことで、茶々丸の喘ぎも手のみの時に比べより熱のこもった大きな物に変わる。
夢中になって茶々丸の乳輪と乳首をしゃぶっていたネギだが、ふとその動きを止めた。
「ど、どうかされましたか?」
湧き上がる未知の快感に翻弄されていた茶々丸だが、異変を感じてネギの顔を覗き込む。
「いえ……なんか、女の人の胸を夢中になって吸ってるなんて、赤ちゃんみたいで恥ずかしいかなって……」
ネギは少し困ったような表情を浮かべ、照れ隠しに笑って見せた。
そんなネギの笑顔に胸がキュウッと締め付けられる思いがして、茶々丸はネギの頭をかき抱いて自らの豊かな乳房の間にうずめた。
「うぶっ……茶々丸さん?」
「ネギ先生は……いつも、頑張りすぎているように思われます。ですから……今は、子供らしい面を見せてくださっても構いません」
「茶々丸さん……」
その言葉に、ネギは再び乳房への口愛撫を再開する。茶々丸は時折ピクピクと体を震わせながらも、ネギの頭を優しく撫で続ける。その顔には、知らぬ間に母親のような慈悲深い笑みが浮かんでいた。
左の乳房をたっぷりとしゃぶり上げた後、同様に右の乳房にも愛撫を施し、ネギはようやくゆっくりと唇をはがす。乳房が離れがたく思っているかのようにネギの口に引っ張られくっついていたが、やがてその想いを断ち切るようにチュポンッと音を立てて離れ、プルプルと波打った。
「あの……こんな感じで良かったですか」
ネギが、どこかうっとりとした表情を浮かべながら茶々丸に尋ねる。
「……はい。ありがとうございました、ネギ先生。不思議な感覚ですが、おそらく、私は快感というものを味わえたのだと思います」
茶々丸もまた、頬を紅潮させながら、どこか熱っぽくネギに答えた。
「そ、そうですか。良かったです」
「……では、次に進ませていただきます」
「あ……つ、次、ですね」
茶々丸の言葉にも、ネギは初めほど大きな戸惑いを見せることはなく、次の指令を待っている。茶々丸が再び単語帳を手に取り、ゆっくりとページをめくる。
「『第五の指令 ネギ先生にフェラチオをする』」
「………………おそい」
明日菜は苛立たしげに、ソファーの淵を指でトントンと叩いていた。外はすっかり暗くなっているが、ネギはいまだに帰宅していない。
「なんだい姐さん。心配そうだなぁ」
ギヌロンッ!
「ヒイッ!」
いつものように茶化そうとしたカモだが、明日菜に物凄い形相で睨まれて思わず縮こまった。
「でもカモ君の言うとおりやえ、アスナ。今日遅くなる言うてたんやから、まだなんか忙しいんとちがう?」
「そうなんだけど。……なんか、嫌な予感がするのよね。ほら、アイツって面倒に巻き込まれやすいし」
「心配性やなぁアスナは。茶々丸さんも一緒なんやし、だいじょうぶやと思うえ」
明日菜の言葉に対し木乃香の反応は薄かったが、先ほどまでふざけていたカモが真面目な顔で考え込みだした。
「う〜ん」
「なによ急に。どうしたのアンタ」
「いや、姐さんの嫌な予感ってのがどうにも気になってね。……ちょっくら様子見てくるかな」
「……仕方ないわね。私も行くわよ」
「お、やっぱり姐さん、ネギの兄貴のこと」
「違うわよっ! 私が言い出したのにアンタだけ行かせるってのもおかしいでしょ。それに、アンタだけじゃ信用できないし」
「なにおうっ! 姐さん、オレっちをナメてやがるな」
「あ、ほならウチも行くえ」
両手をブンブン振り回すカモの頭を指先一つで止めている明日菜に、木乃香が手を挙げる。
「え、別に木乃香は待っててもいいわよ」
「もしかしたらネギ君と茶々丸さんが苦戦してるような敵がおるかもしれへん、てことやし。せっちゃんと一緒に後から行くわ」
「う〜ん……そうね。刹那さんと一緒なら心強いか。じゃ、よろしく頼むわね」
頷く木乃香に笑い返して、明日菜はカモを肩に乗せ部屋を飛び出した。
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