ブチュゥゥゥッ!
「きゃはぁぁっ!?」
 私の悲壮な決意は、水妖の奇襲によりあっという間に揺らぎかけた。姉妹は私を両側から挟むと、両耳に同時に吸いついたのだ。
「アナタの気高い心は、並大抵のことではくじく事はできないでしょうね。でも、体はどうかしら」
「こーんなヤラシイ体してるのに、何年もこんな暗いところに押し込められて、体が疼いてたまらないんじゃない?」
 ベチョオッ、ネチュッ、ヌロォッ。
舌を大きく出して、私の耳を下から上へネットリと舐め上げる。唾液が塗りたくられるヌチャヌチャというイヤラシイ音が、耳から脳へダイレクトに響く。
「んはぁっ……ふああぁっ……」
 我慢しなくては、そう思っているのに体は言うことを聞かず、熱く湿った吐息を漏らしフルフルと体を震わせてしまう。
 プリンセスとしての誇りで、心に鎧はまとえても、十分に熟れた私の体は、明確に反応を返してしまっていた。
 耳をねぶりながら、シェシェは私の背中をねっとりと撫で回す。ミミは、おなかの辺りをさわさわとさすってくる。背中を這いずっていたシェシェの手が止まり、一瞬の間があくと、プチンッと何かが切れる音がした。
 次の瞬間、私の胸を覆い隠していた貝の胸当てが、ハラリとはがれた。
「イヤッ」
 咄嗟に隠そうとしたが二人にそれぞれ腕を抑えられてしまったためそれもかなわず、身をよじった反動で双乳がプルプルと揺れ、かえって二人の目を引く形になってしまった。
「み、見ないでっ」
 隠す事もできず、恥ずかしさのあまり両目を閉じる。それでも、鋭敏になった乳房は好奇の視線を痛いくらいに感じ取っていた。
「すごいわぁ。マーメイドプリンセスって、どうしてこうも揃いも揃って爆乳なのかしら」
「ば、ばくっ?」
「ホントだよね〜。ねぇ、何食べたらこんなにお乳大きくなるの?」
 ミミが無造作に、私の乳房をギュッと掴む。
「イタッ」
「あ、ごめんね〜。でも、この程度で痛がるなんて、男に揉まれて大きくなったんじゃぁないってことか〜」
「あ、当たり前、ヒグッ」
 私の口答えを封じるように、乳房を握る手に力をこめるミミ。
「ではやはり、マーメイドプリンセスは生まれながらの淫乱体質、という事ですわね」
「そんなわけっ、ハゥ、アァゥ……」
 ミミとは対称的に、シェシェは私の抗議を触れるか触れないかの微妙なタッチでいなしてみせた。無意識に、口からもどかしげな吐息が漏れてしまう。
(いやだ、これじゃまるで、もっと触って欲しいって思ってるみたい……)
「それにしても、ホントやわらかーい。ちょっとつついただけで、プルプルッってふるえて。指で押したら、どこまでもムニュムニュ入っていっちゃう」
 オモチャを与えられた子供のように、ミミは私の乳房をいじくりまわし、いびつに変形させる。小さな手の狭間から乳肉がムニュリとはみ出す。
「あくっ、あっ、いやっ、あひっ、ひんっ」
 強すぎる刺激に、悲鳴交じりの喘ぎをあげる私。
「シミ一つない真っ白な肌……。空気に満ちたこの部屋でも、重力にひかれることなくキレイな曲線を保っているなんて、さすがプリンセスのお乳ね」
 シェシェの指先が、もどかしいほどゆっくりと乳房の輪郭をなぞっていく。
「んう……そんなふうに褒められても、嬉しくないわ……アフゥ……」
「あらそう?……フフフ、でも乳輪はずいぶん大きいのねぇ」
「イヤァッ」
 コンプレックスだった乳輪の大きさをズバリと指摘され、私は思わず叫んでしまう。
「恥ずかしがることはないわ。根がドスケベなアナタにピッタリの、やらしい乳輪じゃない」
「そんなこと、言わないでぇっ」
 シェシェが嬉々として私をなじる。胸が、ジンジンと熱い。
「あら、乳輪がプックリふくらみだしたわ」
「ホントだ。乳首もムクムク大きくなって、大粒の真珠みたい」
「うそっ、そんなこと……」
 視線を下に移すと、自分でも今まで見たことがないほど、乳輪部分がせりだしていた。乳首も今にもはじけてしまいそうなくらい、限界までビキビキに膨張している。
「あ、わかった。この娘、マゾなんだぁ。シスターシェシェの言葉責めにビクビク感じまくっちゃってるんでしょ」
「マ、マゾだなんて……そんなはず、あるわけ……」
「どうかしら。シスターミミにあんなに乱暴に乳房を揉みたてられて、甘い声をあげていたじゃない」
 クチョクチョと耳をねぶりながら、二人は好き勝手なことを言う。プリンセスである私が、マゾだなんて、そんな変質的な性癖を持っているはずがない。
 ……ああ、でもなぜ、こんな屈辱に晒されているのに、私の体はこんなに火照っているの?
「ねえ、白状しちゃいなよ。私はマゾの変態です、って。そしたらシスターシェシェがい〜っぱい責めてくれるよ」
 何を思い出しているのか、ミミがうっとりした顔で囁きかける。
「すごいんだよぉ。恥ずかしさと、痛みと、でもそれを上回るものすごい快感なの。腰が抜けて気を失っちゃうくらい。アアン、ダメッ、思い出すだけでゾクゾクしちゃうっ」
 虚空を見つめながら熱い吐息を漏らすミミ。頬を染め、瞳が潤んでいる。ミミの陶酔しきった表情があまりにも淫靡で、思わず私は唾をゴクリと飲み込んだ。
 数分後には、私もあんなしまりのないトロけた顔を晒しているのかしら……。
いけない、私ったら何を考えているの。私はプリンセス。そんなはしたないマネができるわけがない。自分へ言い聞かせるように、私はブンブンと首を振った。
「んもう、ガンコな女ね」
「フフ、あせることはないわ、シスターミミ。時間はたっぷりとあるんですもの。じっくりと責めて、体の疼きが抑えられずに自分からおねだりするはしたないプリンセスに仕立ててあげる」
「勝手なことを。貴方たちの思い通りになどなるもんですかっ」
「ええ。がんばってね、プリンセス・ココ。すぐに堕ちられても面白くないわ。せいぜい抵抗して私達を楽しませてちょうだい」
 吠える私を軽々といなすシェシェ。悔しい。けれど、いつまで耐えられるものか自信がないのも確かだった。  そして、容赦のない肉責めが再開された。

 無邪気に、自分の興味の赴くままに私の体を弄りまわすシスターミミ。対してシスターシェシェは、快楽を感じるか感じないかギリギリのもどかしい愛撫でじわじわと嬲る。
「んっ……くぅっ……はふ、あんっ……」
 まったくタイプの異なる責めなのに、互いを打ち消しあうこともなく、体の奥底から今まで感じたことのない感覚が引きずり出されてゆく。
「アハハ、ビクビクしてる〜。ねえ、感じてるの?こんなにギュウギュウ乱暴に揉まれて感じるなんて、やっぱりマゾの変態プリンセスなんでしょ」
「ちがうわ……私はマゾなんかじゃ……変態なんかじゃな、アウッ……爪立てないでっ」
「嘘つきにはオシオキしなくちゃね〜。あ、でもますます乳首ビンビンになってる。これじゃオシオキにならないよ、変態プリンセスさま、アハハッ」
「あんまり乱暴に扱ってはダメよ、シスターミミ。ねえ、プリンセス。この辺りはどうかしら」
「んはあぁぁっ、そんな、耳の裏を撫でられただけなのに、背筋がゾクゾクしてっ」
「フフ、さすがは発情体質のプリンセスね。そんなにビクビク感じてくれると、私も責めがいがあるわ。ねえ、ここは?ここなんかもいいでしょう」
「はひっ、あおおっ、そ、そんなトコで……ダメェ……」
 頭も体も苛烈な責めに晒され、私は追い詰められていた。ろれつもうまく回らなくなってくる。自分のものとは思えない獣のような牝声を上げながら、為すすべなくただ体を震わせる。
「アハ、なんだか甘い匂いがしてきた。発情しすぎて全身からフェロモン吹き出しちゃってるのね。チュブゥッ」
「ヒィッ、そんな、首筋をベロベロ……それに私は、そんないやらしい体質じゃ、アヒンッ」
「ウフフ、私達をこんなに淫らな気分にさせておいて、よく言うわねぇ。あのイヤらしいライブ衣装のまま、男共の群れの中に放り込んであげたら、どうなるかしら」
「それは、貴方たち自身がいやらしいからで……んくぅんっ……」
「あら、ずいぶんね。でも、そのうちにわかるわ。アナタのそのムチムチの体をあの媚びたコスチュームに押し込んで、胸や尻をブルンブルン揺らしながら躍ることがどれほど男共の目に毒か」
 シェシェが耳たぶを甘噛みしながら、艶のある声で私に囁きかける。
「フフ、皆チンポをバキバキにおっ立てて、アナタの体を舐めるように視姦するでしょうね。男共の頭の中で、オナペットアイドルのココは、肉のマイクを握りしめながら白濁のシャワーを全身に浴びるのよ」
「うはあああっっ!」
 聞きたくなんてないのに、耳に入ってくるシェシェの言葉は勝手に私の脳に像を結ぶ。
お気に入りの黄色のライブコスチュームを着て跪く私を取り囲むように、四方八方から突き出される肉の棒。先端がくぱっと開き、その中から粘度の濃い白く濁った半固形の液体が、私の顔・胸・全身めがけて、いっせいに!!
「うひぃあああーーーっっっ!!」
「アハハハッ!やっぱこの女、とんでもないマゾ女だよっ。想像の中でブッかけられまくって体ビクビクさせてイキそうになるなんて。いっつもそんな想像してオナりまくってたんでしょっ」
「ちがっ、ちがぁうぅっ」
「何が違うって言うのよ。乳輪こんなにプックリふくらませて、乳首だって!」
 激しい口調で私を責めたてながら、ミミはそそり立っている私の乳首に爪を立てた。
「ぎゃひぃぃぃっ!」
「こんなにおっきくしてビンビンにおっ立たせて。爪がめりこむほどきつく握られても、ビクビク悶えまくってるじゃないのっ」
 爪を立てながら乳首をギリギリとねじるミミ。あまりの激痛に涙が溢れてくる。
「ちがうのっ、イタイ、イタイから、こんなっ、ひぎぃぃぃっ」
「そんなに言うなら証拠を見せてあげるわよ、ほらっ」
 ミミが私の頭を両手で掴み、首を横に向けさせた。
今まで気づかなかったが、そちら側の壁は一面鏡張りで。その中に映る絡み合う三人の女の姿、真ん中にいるのは金の髪のマーメイド。
 乳輪も乳首もあんなにせりあがって。苦痛に歪んでいるはずの顔は、
「……なんで……どうしてぇ……」
 ……笑っていた。頬を紅潮させて、瞳を潤ませ、唇から涎を垂れ流しながら、口元をだらしなく歪めていた。
「これでわかったでしょ。南太平洋のマーメイドプリンセスの正体は、頭の中がエロ妄想でいっぱいで、体をメチャクチャに嬲られても感じまくってよだれ垂らしてる、どうしようもない変態の牝ブタ女なのよっ。アハハハハッ」
「イ……イヤアアアーーーッ!?」
 小さな子供のように泣きじゃくり、髪を振り乱しながら私はイヤイヤと首を横に振った。
私はマーメイドプリンセス。南太平洋のマーメイド達の長。規範にならなければいけない存在。下賎な水妖達に責められ、白痴のような無様な顔を晒して、良い様に弄ばれるなんて、あってはならないことなのに。……でもなぜ?なぜ鏡の中の私は、あんなとろけきった、幸せそうな顔をしているの?自分の奥底に眠る浅ましさに、私は愕然とした。
 私がもっと強ければ、サラの暴走も止められたはず。南太平洋の王国だって、滅亡せずにすんだのに。こうしておめおめと生き恥を晒し、皆の仇であるはずの水妖達の責めの前に、無様にも喜悦の表情を浮かべている。
 ……シスターミミの言う通り。私はどうしようもない変態の牝ブタなんだ。例え生き永らえ、この城から逃げ延びたとしても、私には王国を復興するような力も、資格もない。
もう、私には生きている価値なんてないんだ。
……ならば、せめて皆の元へ。
私には無理だったって頭を下げれば、みんな、許してくれるかなぁ……。
「ムグッ」
 私が絶望に打ちひしがれ、無意識に舌を噛み切ろうとした瞬間、視界が塞がれた。顔に、柔らかな何かが押し付けられている。すべらかな手が、私の髪を優しく撫でる。
「いいのよ、ココ」
 顔を上げる私。そこには、優しい微笑みを浮かべるシェシェの顔があった。私は、シェシェの胸に抱かれていたのだ。
「もういいの。アナタはよく頑張ったわ。でも、もうアナタの国も、国民達も存在しない。これ以上、アナタが我慢する必要はないの。アナタを縛るものはもう何もないのだから」
 甘い、心地良い、私に赦しを与える言葉。壊れかけの私の心に、ゆっくりと優しく染み込んでゆく。私を見つめるシェシェの瞳が、紅いきらめきを帯びる。
 イケナイ。このままこの瞳を見続けては。彼女に心を委ねては。心の奥底に残った私のマーメイドプリンセスとしての誇りが警鐘を鳴らす。
 けれど、今の私には。守るべきものを失い、自信の浅ましい姿をイヤと言うほど見せつけられ、生きる気力さえも失いかけていた私には。
……もう、その見せかけの安らぎにすがることしかできなかった。
 涙がひとしずく、流れ落ちる。それが、私に最後に残されていた、誇りだったのだろうか。
ゆっくりと近づいてくるシェシェの唇を、私はただ、待ちわびた。

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