その日から、私の快楽漬けの日々が始まった。一度絶頂を覚えてしまった体は驚くほど敏感になってしまい、何度も理性を取り戻し抗おうとしても、妖姉妹の指先の動き一つでスイッチが入ったかのように頭の中が快楽で一杯になってしまう。
 次第にゲームのことも賭けのことも忘れ、ただ快楽にこがれてブラックビューティシスターズを待ちわびるようになっていた。

「〜〜〜〜♪」
 私は、呪われた歌の最後の1フレーズを唄い終えた。真珠を奪われているため、調子がはずれ、音程は狂ってしまっているけれどそれでもシェシェとミミは十二分にそれを理解したようだった。
「……なるほどね。ステキな歌だったわ」
「ホントだよね〜。なんかこう、ゾクゾクしちゃう歌」
 満足気に微笑む姉妹。最後に残った良心の呵責、そしてもう一つの心配事の為に私はうなだれた。
「これから、どうする気なの」
 尋ねる私に、シェシェはニタニタといやらしい笑みを浮かべながら答える。
「そうねぇ。この歌があれば、地上でお気楽に暮らしているマーメイドプリンセス達を捕らえる事も簡単でしょうね」
 これだけの力を手に入れれば、当然次はそれを行使したくなるであろうことは容易に想像できた。
「きゃっ!?」
 突然、うつむいている私を背後からミミが抱きすくめた。
「もう、そんなに寂しそうな顔しないでよ。アンタがアタシ達の大事なオモチャだってことは変わらないんだから」
「ちがっ、わ、私は……」
 そんなにモノ欲しそうな顔をしていたのだろうか。
 これでやっと凌虐の手から逃れることが出来る。それは、喜んでいいことのはずなのに。快楽を覚えこまされた体も、そして、罪の意識に苛まれ続ける心も、全てを忘れ快楽に溺れ続けることを望んでいた。
「プリンセス・ココ。アナタの献身的な尽力には、私達、どれだけ感謝してもしたりないくらいですわ」
「……ひどいことを言うのね」
「あら、素直に感謝の気持ちを表しただけですのに。ついては」
 シェシェがミミに目配せをする。それを受けて、ミミはニヤリと微笑んだ。
(まさか……)
 私は背筋が寒くなる。
「せっかく手に入れた歌ですもの。アナタに、初めてのライブの観客になっていただきたいの」
「なっ!?」
「実際に呪歌を聴いたマーメイドがどういう反応を示すのか、興味もあるしね〜」
 私は思わず後ずさった。頭の中で思い浮かべるだけでも理性を侵食されるというのに、ライブステージもない無防備な状態で聴かされたら……。
「ま、待って……やめて……」
「ウフッ。たっぷり楽しんでね」
 二人が尻尾から生えたマイクを握る。私はただ、ジリジリと後ずさるしか出来ない。
「イッツ、ショータイム!!」
 そして、ライブが始まった。




「んああああっ!?」
 耳を塞いでも、隙間から頭に入り脳が激しく揺さぶられる。喉が、渇く。体が燃えるように熱い。耳を塞いでも、胸を掻き毟っても、湧きあがるおぞましい感覚を抑えることが出来ない。そして、徐々に、おぞましさは快感にすりかえられ。
「アヒ……ハヒィ……」
 全身が激しく疼きだしはじめていた。
「ここまでにしましょうか」
 シェシェが、丁度一番を唄い終えたところでマイクを放した。
「え〜。せっかくノッてきたところなのに〜」
 ミミが不満げな声を漏らす。
「お客様のご気分が優れないようですし、ね」
 ニヤリと笑い、シェシェが私へと視線を向ける。私はといえば、身体の奥底から湧きあがる熱さがいつしか全身を覆い、両腕で抑えこむように両肩を抱きしめていた。歯の奥がガチガチと鳴り、締まりのなくなった口から涎がこぼれる。目の奥で、火花がバチバチと飛んでいた。
「楽しんでいただけたかしら」
 私の元に歩み寄ると、シェシェがゆっくりと私の体に手を伸ばす。
「らめ、いま、わたしのからだ、さわらない、きひゃうっ!?」
 指先が軽く肩に触れただけで、身体全体が電流を流されたようにビクンと跳ねた。
「アハ、すごい反応。気持ちよくてたまんないの?」
 ツン。
「きひぃうっ、りゃ、りゃめ……しゃわらにゃいれぇ……くひぃぅっ」
「アハハハッ、もうメロメロじゃない。すごい効果だよね〜」
「ええ、ホント。他のマーメイドプリンセス達に聴かせてあげる時が楽しみだわ」
 楽しそうに笑いながらお互いの顔を見ていた二人の視線が、再び私に戻される。
「でも、その前に」
「ええ。こんなステキなプレゼントをくれたプリンセスに、お返しをしなくてはね」
 おびえる私ににじり寄ってくる二人。
「ひ……ひぃ…………キヒィアァァァァーーーッ!?」
 私の意識は、再び快楽の波にさらわれた。

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